19 巨大蛇アナコンダでモンスターパニック
白い鳥に罠から逃げられたと思ったら、私の隣に大きなヘビが控えていた。
いきなりすぎてビックリしたんですけど!
こいつはヘビ型モンスターのヴァーンシュランゲ。
かなり太くて長い。
全長15メートルくらいはあるんじゃないかな。大物だね。
それに見た目がアナコンダそっくりだよ。
よし、今からヴァーンシュランゲのことはアナコンダと呼ぼう。
なんでこんなところにがアナコンダがいるんだろう。
もしかして、白い鳥が地上へ下りる瞬間を狙っていたのは私だけではなかったのかもしれないね。
このヘビも、白い鳥を食べようとしていたのだ。
それで私が白い鳥を逃がしてしまったから、代わりに私に狙いを変えたということか。
残念だったね。
私の上半身は一見人間にしか思えないけど、これ雌しべだから。きっと食べても美味しくはないぞ。
そんな私の忠告を聞かないアナコンダは、私の蔓の間をするすると這って抜けようとする。
さすがにアナコンダに丸飲みされるのは御免だね。
いけ、蔓のムチー!
アナコンダを蔓で拘束。
そう思ったが、アナコンダのぬめりとした皮膚によって蔓がすべってしまっていた。
巻き付けてもすぐにほどけてしまうみたいだ。
ヴァーンシュランゲは水辺でも生息できるヘビ型モンスター。
きっと近くに川があって、そこからここまでやって来たのだろう。
元々のヴァーンシュランゲのぬめりとした肌の特性と川の湿り気が合わさって、常に全身が粘性のある液体に覆われているようだ。
もしかしたら粘液を分泌している可能性もある。
そのせいで、非常にぬるぬるとしたヘビになっているみたい。
なら噛みついて捕まえればいいよね。
蔓にマンイーターの花をたくさん咲かせて、アナコンダに噛みつきます。それで蔓でアナコンダを拘束。
あ、ダメだ。
15メートルもあるアナコンダを、十数個のマンイーターの花だけじゃ押さえつけられない。
数百ものマンイーターを咲かせれば押さえつけられそうだけど、そこまですると私の栄養が持たないだろうね。マンイーターを咲かせるのは意外と栄養を使うのだ。
捕まえられないのなら、動きごと生命活動を止めるのみ。
毒花粉をお見舞いするよ。
でも驚くことに、花冠から放たれた毒花粉をアナコンダはするりと避ける。これだけの巨体なのにかなり速い。
しかも毒花粉を防ぐために、長い尻尾を使って器用に毒を振り払うなんて。
どうやら、私はこのアナコンダを侮っていたみたいだよ。
いくらここまで大きくて強そうだとしても、先日のクマパパと比較すればこいつは格下だからね。
クマパパに対抗して生き残ることができた私なら、アナコンダの一匹くらい簡単に倒せると思っていた。
でも、違った。
最初はわからなかったけど、このアナコンダはかなり戦いなれている様子。
戦闘の経験値が違ったのだ。
歴戦のヘビである。
毒花粉を体付近に撒いていれば、そう簡単には近寄ってはこないはず。
けれども、それだけだ。
これ以上、打つ手がない。
対するアナコンダには手はないけど、代わりに長い尻尾があった。
顔を遠くに残したまま、尻尾で私を叩きつけだしたのだ。
毒花粉はアナコンダの体にいくら付着しても効果がない。
あくまで口や鼻、目から体内に吸収されなければ効力を発揮しないからね。
頭良いねこのアナコンダ。
15メートルも長さがあり、牛を丸飲みできるくらい太い胴体を持つ、蛇のしなやかなムチ攻撃。
それはすさまじい破壊力を持っていた。
一撃、防御した蔓が吹き飛ばされる。
二撃、球根の横腹をヘビの鞭が直撃し、体が右へと大きく揺れる。
三撃、人間の上半身部分へ頭上からヘビのムチをたたき落とされる。
私は地面に倒れていた。
根っこは繋がったまま。
けれども球根の横っ腹に大きくしなったアナコンダの胴体がぶつかったことによって体が地面に近づいた。
続けて私に向かって落とされた胴体によって、雌しべである上半身が地に伏せさせられたのだ。
下の球根ごと横に倒れる私。
正直、めちゃくちゃ痛いのですけど。
クマに木を投擲されたことの次くらいに痛い。
特に雌しべである私への攻撃が効いた。
私の上半身の防御力はほとんどない。だって雌しべだからね。
あれ、私、大ピンチなんですけど!
アナコンダがするすると近づいてくる。
私を仕留めようとしているのだ。
でもご安心あれ。
まだ秘策があるのだ。
アナコンダが私の目前へと移動する。
そこで罠を発動。
地中に隠していた蔓をアナコンダへと絡ませる。
腐生植物の力は、待ちが基本の私にとってはかなり便利な能力だったね。
これで動きは封じたよ。
そう思ったのも束の間、ヘビは私をあざ笑うかのように蔓から抜け出した。
あ、そうだった、蔓はアナコンダに効かないんだった。
なにやってんのさ私は!
ぬめり滴る肌で蔓の拘束から解放されるアナコンダ。
そのまま私の周りを円状に回りながら機会を窺いだす。
せめて私を胴体でとぐろ巻きにして締め上げたりしてくれれば、毒花粉を顔にお見舞いしてあげられたのに。
そうさせないように戦術をとっているということは、こいつは相当頭が切れるということ。
胴体で球根部分を巻きつけてしまえば私は逃げられないけど、アナコンダも逃げられなくなるからね。
そもそも私、植物だから最初から逃げられないんだった。なら捕まえる必要もないね。あははは……。
ちょっと待ってよ。
クマパパと再戦するどころの話じゃない。
私、アナコンダに食べられちゃうの!?
あのう、できれば蜜を差し出すので見逃して欲しいのですが。
ああ、はい。
そうですか。
アナコンダさんは蜜にはご興味なしですか。
まあ中にはそういうモンスターもいるよね。
ヘビがハチミツ舐めているところとか見たことないしね。
次第に、私を囲む包囲網が狭まってくる。
私が隙を見せた瞬間に、アナコンダが食いかかってくるはず。
もしくは尻尾で拘束されるか、叩きつけられるという可能性もある。
どちらからどのような攻撃が繰り出されるか全くわからないよ。
これは、私、マズイね。
次に危機を迎えるとすればクマパパ相手だと思った。
でも、違った。
森は弱肉強食の世界。
森の主以外にも、地獄の狼であるヘルヴォルフや、このヴァーンシュランゲのような強い魔物がわんさか生息していたのだ。
私の考えが甘かった。油断していたのだ。
アナコンダが這うスピードを加速させる。
トドメを刺そうとしているのだ。
どうしよう。
私、まさかの大ピンチです。
本日も一日二回更新となります。
次回、森の四天王です。







