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171 ハーピーの忠告

 魔女王が炎龍様の姉と接触した。


 炎龍様がわざわざ忠告してくるくらいだから、きっと私に関係があることなのでしょう。



 たしか炎龍様の姉というと、魔王軍の宰相(さいしょう)をしているんじゃなかったっけ。

 そんな偉い人物に、あの魔女王がただ挨拶するために会いに行ったとは思えません。


 思いつくことは一つ。

 魔女っこのことです。


 魔女王は私と魔女っこには手を出さないと炎龍様と約束したらしいけど、もしかしてそれを破る気なのかな。

 それとも、宰相と一緒に何か悪だくみをしているのかもしれないね。



 気をつけろと言われても、私にできることは限られている。

 とりあえず森の防御を固めることくらいしかできないね。

 あとは魔女っこになるべく森の外まで遊びに行かないよう言わないと。


 私が一人で考え込んでいると、ハーピーのパルカさんが小さく呟きます。



「それと、此方(こなた)から一つ忠告してあげる」



 ハーピーさんは真剣そうな表情で、私に語りかけます。



「兄を操っていた四天王のフェアギスマインニヒトは、宰相の直属の部下だった。そもそも宰相閣下が推挙したことによってフェアギスマインニヒトは魔王軍に加入したらしいです」



 そういえば50年前に人間の賢者がドリュアデスの森から逃げる時に、大きな氷龍の姿を見たらしいと、ドライアド様から聞きました。

 その氷龍というのは、もしかして炎龍様の姉君のことなんじゃないかな。

 それなら、姉ドライアドがそのまま魔王軍の宰相の直属の部下になったという話にも納得ができるよ。



「宰相閣下は精霊姫を重宝していた。その精霊姫が森のアルラウネに討たれただけではなく、弟であるグリューシュヴァンツ様と既に繋がりがあることをあまりよく思わないことでしょう」


 

 炎龍様の姉君は姉ドライアドを気に入っていたということかな。

 それだと私に対して良い印象を持っているとは思えないね。 

 ということは、もしかして炎龍様は私を姉君からかばってくれていたりするのかな?

 四天王を2人も倒しているのに、いまだに討伐されていないのは炎龍様のおかげな気がするのです。今度お会いしたらお礼を言わないとね。


 それにしても、魔王軍の内情を無関係な私に教えてもいいのかな。



「なんで、私に、そのことを、教えてくれるの?」


此方(こなた)の気分だ。けっしてアルラウネが聖女イリスに似ているから好きになったとかそういうわけではないぞ」



 冷静そうな表情のまま、羽をびしっと私に向けてきます。

 わざわざそのことを教えてくれるということは、ハーピーさんは私の敵になろうという考えはないのかもしれません。

 むしろ炎龍様と同じように、部外者である私に魔王軍の情報を流してくれているのだ。

 変態だけど、ちょっとは信用してもいいのかもしれないね。



 話がひと段落したところで、炎龍様への献上蜜を作ることにしました。


 用意してあった(たる)の中に蜜を入れます。

 そして「また来ます」と言いながら、ハーピーさんは樽をかぎ爪で掴んだまま空の彼方へと飛んでいきました。



 魔女王は姉ドライアドと親し気でした。

 その姉ドライアドを魔王軍に引き入れた宰相は、50年前にドリュアデスの森で魔女王と一緒に勇者パーティーを姦計(かんけい)にかけた。


 そう考えると、魔女王と宰相は昔から強い繋がりがあったのかもしれません。

 



 蜜の配達員であるハーピーさんを見送っていると、ずっと黙ったままだった魔女っこが私の花びらを指でつかみました。

 


「アルラウネ……聖女イリスって誰?」



 ──ドクン。

 植物になったことで消滅している心臓が飛び跳ねたかと思いました。



「前にもその言葉、聞いたことある。たしか街の領主がその名前を言っていたよね」



 魔女っこは帝国生まれと話していました。

 それに当時は今よりももっと小さかったわけだから、4年前に死んだ聖女イリス()のことは知らないみたい。

 


「アルラウネは聖女イリスって知っている?」


「…………知らない」


「そうだよね、植物モンスターであるアルラウネが聖女のことなんて知っているほうがおかしいもんね」



 ──うぅ。

 どうしよう。


 私の正体が元人間だと知ったら、魔女っこはどう思うのかな。

 なんで今まで隠していたんだと怒るかもしれない。

 幻滅されてしまうかもしれない。

 だって魔女っこは私のことを森生まれ森育ちのアルラウネだと思っているから。


 いつか魔女っこにもきちんと話さないといけない日が来るかもしれません。

 でも、今はまだ言う勇気がないの。

 本当のことを打ち明けて、魔女っこが私の元から去ってしまったらどうしようと考えてしまうから。



 もしも魔女っこが森を捨てて魔女の里へと行く決断をされてしまったら、私は森の外まで魔女っこを追いかけることができない。

 『転移』のスキルを得たけど、それでもまだ限定的な範囲でしか移動できないからね。


 それに植物であるからこそ魔女っこと仲良くなることができたけど、植物であるからこそこの身がもどかしい。

 だから、当分はこのまま聖女だったことは黙っていましょう。

 それでも、いつかは…………。




 それから十数日が経ちました。


 森は日に日に広がっていっています。

 畑ラウネの野菜収穫も順調です。

 最近は毎日、街から森へと伍長さんをリーダーとした定期便のパーティーがやって来て、野菜を塔の街へと運んでいるの。


 その際には、妹分のアマゾネストレントに運搬役になってもらうことにしました。街へのポイント稼ぎです。

 アマゾネストレントは力持ちなので一人でかなりの量の野菜が運べるからね。ついでにトレントは私の身内なので、討伐とかはしないでねという広報的な意味もあるの。

 妖精キーリも通訳として同行してもらっているから安心です。


 二人が塔の街へ野菜を運ぶことで、アマゾネストレントたちが人間に友好的であることを街の人間たちにアピールするためでもあるの。

 ご近所さんなのだし、良い関係を築いていきたいね。



 森の水やりをしているドリンクバーさんも、その野菜便と一緒に街へと一時的に戻っていたりするみたい。

 さすがにずっと一人で森の水やりをしているのはかわいそうだから、たまには街に戻っても良いよと伝えたの。

 森と繋がっている私が元気に毎日光合成できるのも、水やりをしてくれているドリンクバーさんのおかげです。感謝しないとね!



 魔女っこは今日も黒魔法の練習をするためにどこかへ飛んでいきました。

 遠くまでは行かないように言ってはあるけど、それでも無事に帰ってくるまでは少しは心配しちゃうよね。



 みんなが出かけることが多くなったことで、私は日中一人でいることが多いです。

 そういう時は畑ラウネに転移して、二人で心の中で雑談とかしているの。



 森での暮らしも落ち着いてきて、生活基盤も整ってきました。

 それでも、私は炎龍様からの忠告を忘れる日はありませんでした。

 だからこそ、それが訪れた時はついに来たかと思ってしまったの。


 

 塔の街とは反対方向から、一匹の生物が森の中へと侵入してきました。

 こちらのほうへ一直線に走ってきているみたい。

 けっこうなスピードが出ているね。



 それからすぐに、森の中へと同じような生物がなだれ込んできます。

 複数の生物が森の中を凄い速度で進んできているのがわかりました。



 人間にしては早すぎる。

 馬などの動物ということも考えられるけど、森の木々をうまく避けながら高速移動できるとは思えません。

 それなら野生のモンスターとも思えるけど、それにしては動きが統率されているようで少し不気味かも。



 魔女は空を飛ぶから森を走ることはないから除外できます。

 となると、想像できる相手はただ一つ。

 

 きっと魔王軍の魔族でしょう。


 

 目的も容易に想像できます。


 私に刺客(しかく)が送り込まれたのだ。

次回、侵入者です。

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― 新着の感想 ―
[一言] パルカ(元ストーカーw)に気に入られたか~ イリスのこと、魔女っ子には言ってもいいような気がするけどね… 幻滅することはないと思うな…アルラウネはアルラウネなんだから。
[良い点] 個人的には聖女のこと話しても魔女っ娘は気にしなさそうな気はしますが… 魔女っ娘が信頼しているのは一緒に過ごしてきた今のアルラウネであって… アルラウネの過去はどうでもいいような気はします。…
[一言] ああ、ついにスローライフな日々の平穏がー!?(*´;ェ;`*)
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