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170 ストーカーの妹

 私は警戒態勢のまま、頭上の木の枝にいるハーピーの姿を観察します。



 顔と胴体は人間の女性だけど、腕には鳥の羽が、足には鳥のように鋭く曲がったかぎ爪がついています。

 顔は凛としいてとても綺麗。長くゆるやかな黄色い髪が流れるように体にまとわりついて、貴族が所有している絵画のように艶やかな情景です。


 そのハーピーは私の姿を見るや、獲物を見つけた捕食者のような猛々しい眼光で私を(にら)んできました。



 バサリと黄色い羽を広げて、ハーピーが私の元へと降下してきます。

 いきなり襲ってきたよ!


 毒茨を伸ばして反撃しようとすると、ハーピーが慌てながら私に制止を求めてきました。



「ま、待て! 戦いに来たのではない!」



 え、そうなの?

 だまし討ちをされる可能性も考えながら、私はハーピーが地上に降り立つのを黙って見届けることにしました。

 突然の来訪者に驚いている魔女っこを後ろに隠して、防御態勢を取ります。



「あなたがアルラウネの紅花姫で間違いないかしら?」



 ハーピーはさきほどとは違って、落ち着いた様子で私に尋ねてきました。

 私の通り名を知っているみたいだけど、いったい何者なんだろう。



「あなたは、何者?」


此方(こなた)はハーピーのパルカ。グリューシュヴァンツ様の(めい)で、蜜を受け取りに参上しました」



 あ、そういうことか!

 そういえばテディおじさまが、炎龍様に献上する蜜の運び手を今度森に送るって言っていたけど、それがこのハーピーのことだったんだ。



「このたび、グリューシュヴァンツ様直属の部下になりました。以後お見知りおきを」



 魔王軍の魔族を完全に信用することはできないけど、炎龍様の部下ならある程度は安心できます。

 とはいえ、植物園で私に水やりをしてくれたヒュドラさんのように炎龍様子飼(こが)いの部下ではなさそうだから、警戒を(おこた)らないほうがいいね。



「先ほどは、驚かせてしまい、失礼しました。こちらこそ、よろしく、お願いします」


此方(こなた)のほうこそ、警戒させてしまったようで申し訳ない」



 珍しい一人称を使うね。

 それでいてクールビューティーといった雰囲気のハーピーさん。

 格好良くて、ちょっと憧れるかも。



「それよりもさきほどからずっと気になっていたのだが、そのお美しいご尊顔(そんがん)をもっとよく拝見させてくれまいか?」


 ──ん?

 お美しいご尊顔?



「やはり()ているな、あの人間の聖女イリスに……」



 ハーピーが私の目の前に跳んできながら、そう呟きました。

 まさかいきなり聖女イリスと同じ顔だと見抜かれるとは思ってもいなくて、少し動揺してしまいます。



「ここまで似ていれば、兄は自分の心を押さえつけることができなかったであろうな」


「……兄?」


「此方の兄は魔王軍四天王が一人、光冠のガルダフレースヴェルク」



 それって、私が食べた黄金鳥人さんのことじゃん!

 まさか蜜の回収役のハーピーが、ストーカー四天王の妹になるとは思いもしなかった。

 ということはまさか、この子も光魔法を使えたりして……?



「兄妹といっても腹違いの兄。とはいえ、いつも一緒にいて仲は良かったかな」



 このハーピーからは、ストーカー四天王の黄金鳥人さんのように聖女の光魔法のオーラが見えませんでした。

 色が黄色なだけで、黄金鳥人さんのように光魔法を使うことはできないみたい。

 腹違いの兄妹と言っていたし、黄金鳥人のように相手を丸呑みすることでその者の能力を得ることができるフレースヴェルクの血は入っていないということかな。



「兄はあなたに倒されたと聞いていたけど、きっとテンションが上がっていたのであろう」



 うん、かなりね。

 でも、そっか。私がハーピーさんのお兄さんを倒したことは、もう知っているんだ。きっと炎龍様から聞いたのでしょう。

 ということは、ハーピーさんにとって私は兄の(かたき)ということになるのだ。



「私を、恨んでいる?」


「グリューシュヴァンツ様から聞きました。兄を花で操って洗脳していた四天王の精霊姫を倒してくれたと。あなたは兄の仇ではあるけど、ある意味恩人でもあるの」



 なるほど、そういう見方もあるんだね。

 姉ドライアドの呪縛から黄金鳥人さんを救ったということかな。

 個人的な恨みは一切なく、むしろあのまま洗脳されていたら一族から魔王軍への裏切り者が出ることころだったので感謝しているとハーピーさんは私に告げました。

 そう言ってくれると、少しだけど心が軽くなったよ。



「それに聖女イリスとそっくりのアルラウネに食べられたなんて、きっと兄は本望(ほんもう)だったであろう。兄の一番の望みは聖女イリスを丸呑みすることでしたが、それが叶わないのなら二番目の望みが聖女イリスの手で自らの命を絶たれて永遠に聖女の記憶の中で生き続けたいというどうしようもない変態だったのですから」



 それ、ヤバイね。

 変態すぎて植物にはないはずの鳥肌が立ちそうになったよ。


 しかも二番目の望み、叶っているし。

 黄金鳥人さんの存在を私は忘れることはできそうにないでしょう。それどころか食べちゃったからね。

 記憶の中で生き続けるどころか、私の体内で栄養となって一緒になっちゃっているよ。うわ、どうしよう。



「兄は強かったですが、ダメな魔族でした。なにせ聖女イリスを食べようとしていたのですから」


 これまでに聖女を何人も丸呑みしていたりもしていたからね。

 思い出してみれば、黄金鳥人さんがやったことを私は一生許すことはできないでしょう。


 このハーピーさんはストーカー四天王と違って、聖女を丸呑みにすることは反対のようです。

 とりあえずハーピーさんが聖女時代の仲間の仇にならずに済んで良かったよ。



「丸呑みして食べてしまってはあの高貴なお姿を拝見することが二度と叶わないではないですか。ですから聖女イリスは氷漬けにして冷凍保存するべきだと、いつも兄に言っていたんですよ」



 ────ん?


 私を冷凍保存?



此方(こなた)的には、聖女イリスほどの美貌(びぼう)と魔力、そして名誉を併せ持った聖女はもう二度と出てこないと思います。だからその(とうと)御身(おんみ)を永久に保存して、毎日ゆっくりと自宅で眺められるようにしたほうが良いと思うのです」



 思うのですって、全く思わないわ!

 え、なに?

 まさかハーピーさんもそっちの人なの?



「もしかして、黄金鳥人さんと、一緒に、聖女イリスを、観察とか、していた?」


「よく知っていますね。聖女イリスを観覧する時は、此方もよく兄の後ろにくっついて一緒に行ったものです」



 どうしましょう。

 ストーカーの妹も、変態のストーカーだったようです。

 私、ストーカー被害ちょっと多くない?

 


「聖女イリスは亡くなりました。ゆえにあの時は兄と一緒に嘆き悲しんだものでしたが、まさか聖女イリスとそっくりのアルラウネが出現していたとは…………もしや聖女イリスを丸呑みしてその顔を得たのですか?」


「……ち、違い、ます!」


「此方の兄ではないのだから、そんなはずはありませんでしたね。すみません、今の言葉は忘れてください」



 あははは。

 ちょっとビックリしちゃった。

 だってある意味、正解を言い当てられてしまったのだから。

 植物モンスターが私を丸呑みした結果融合していまい、私というアルラウネが誕生したわけだから、ハーピーさんの推測は当たっているんだよね。


 このハーピーさん、ちょっと勘が良すぎます。

 少しでもボロを出したら、私の正体がその聖女イリスそのものであることも気づかれてしまいそう。これからはさらに注意しましょう。



「聖女イリスとこうやって話すのは長年の夢だった。見た目だけとは言えその夢が叶って、胸の中のしこりが取れたようだ。この仕事を任してくれたグリューシュヴァンツ様には感謝しなければ」



 ハーピーさんは聖女イリスに似ている私と会えることが嬉しくてたまらないみたい。

 変態だけど、悪い人ではないのかな。



「それに、もしもグリューシュヴァンツ様がアルラウネの蜜はもう不要だとおっしゃられたら、聖女イリスの代わりにアルラウネを冷凍保存して我が家に飾ることもできるかもしれない。その日が今から楽しみだ」



 えぇ……ど、どうしましょう。

 炎龍様に蜜の運び手の変更をお願いしてみようかな……。

 でもそのお願いを伝える役割なのもこの子だから、炎龍様まで伝わるかどうか怪しいね。




「そうだ、そのグリューシュヴァンツ様から伝言があります」



 炎龍様が私に?

 いったい何だろうね。


 真剣そうな表情となったハーピーさんが、はっきりと聞き取れるよう丁寧に喋ります。


 そしてその伝言は、とても短く簡潔なものでした。



「魔女王が姉と接触した、気をつけろ。とのことです」

鳥娘のハーピーの登場です。

兄を洗脳していた黒幕である精霊姫を倒した人物に会いたいというハーピーの嘆願と、空を自由に飛べるということで蜜の運搬役にうってつけだという炎龍様の思惑が重なったことによって、ハーピーのパルカが蜜の運び役として抜擢されたようです。


次回、ハーピーの忠告です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 発想が雪女なんよ……
[一言] 領主様と仲良くなれそうですね。 というか、とりあえず領主様の絵で我慢しなさいww それにイリス様は冷凍保存しなくても、何度でも幼女に戻ることができますし。
[良い点]  植物モンスターってだけあって主人公が移動に不便を抱えているからか、一人称視点の地の文が多めですが、そんなことは全く気にならないくらい自然で受け取りやすい口調で情景や心情が描かれていました…
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