18 鳥で大蛇を釣る
私、罠を張って待ち構えている植物モンスターのアルラウネ。
いま地面に着地したのは私の宿敵、白い鳥。
今から私はあの白い鳥を捕獲するのだ。
体はカラス程の大きさしかないからお腹は膨れないけど、先日の留飲が下がるというものよ。
よくも私の蜜玉を食べてくれやがりましたね。
あの時はあのままクマパパが白い鳥について行ってどこか遠くに消えてしまったから、むしろ私が蜜玉を投げて近くへ落とすよりも良い結果だったかもしれないけどさ。
でも、私の絶望的なあの瞬間の心情は言い表すことはできないだろう。
たしかに白い鳥はそこまでの極悪鳥ではない。
でもね、白い鳥。
見た目が綺麗だからおいしそうとずっと思っていたの。
ちょっとウサギさんに色の雰囲気が似ているよね。
だから食べちゃっても問題はないよね。
はい、いただきますーと、食虫植物のように罠を発動させる。
白い鳥がいる地面の近くに、あらかじめ蔓を地中に潜ませていたのだ。
その蔓を勢いよく地上へと出現させる。
白い鳥から見たら、いきなり地面から蔓が無数に生えてきた感じだろう。
だが、あの白い鳥はやっぱり危機管理能力が高かった。
私が埋まっている蔓を動かす瞬間に、天へと羽ばたいて飛び上がっていったのだ。
ほんの一瞬の差だった。
白い鳥は蔓の罠から離脱することに成功していた。
そのままするすると地面から生える蔓を避け、空へと舞い戻っていく。
ああー。
やられたー。
白い鳥にまた逃げられてしまった。
今日はここまで入念に準備していたというのに。
まあ仕方ないね。
今回が初めての罠だったし、今回の経験を次回に活かそう。
でもね、白い鳥。
私の上で旋回なんてしてないで早くどこかへ帰りなさい。
あなた巣とかあるんでしょう。
私をおちょくるのがそんなに楽しかったのなら、また遊びに来れば良いから。
私は優しいの。だからまたおいでなさいな。
そうしたら今度こそをあなたを食べてあげましょう……!
あれ、なんだろう。
なにかそこに落ちているね。
白い鳥が着地したところに、それは落ちていた。
小さなバラのような赤い花である。
茎にトゲが生えているから見た目はそのままバラだ。
赤いバラとは素晴らしい。
私の花冠と同じ色だね。
この世界ではロートローゼという花だ。
うん、久しぶりに鑑賞に堪えられる花を見たよ。
名も知れぬ雑草の花や、親戚がラフレシアの後輩マンイーターくらいしかこの辺には生えていなかったからね。
もしかしてあの白い鳥が咥えていたのかな。
それで蔓から逃げるときに慌てて落としてしまった。
アホな鳥だね。
今度からあいつのことはアホ鳥と呼んでやろうか。
そんな野生の鳥が花や茎を咥えているとなると、目的は一つしか考えられない。
わかっちゃった、私。
白い鳥さんよ、もしかして巣作りですか?
鳥のくせに良いご身分ですね。
愛するパートナーと一緒に夫婦そろってマイホームの建設。
こちとら恋人いない歴=年齢の独り身のお花さんですよ。
家もなければ家族もいない雨ざらし生活。
一番恋愛ごとに近い出来事といえば、初対面のハチさんに知らない雄花の花粉を押し付けられて受粉させられそうになったということが挙がってしまう哀れな雌花ですよ。
そんな寂しいお花さんの正体が元聖女なんだから笑えちゃうよね。
裏切り者の聖女見習いの後輩は私の婚約者である勇者様を寝取ったうえ、すでに結婚してしまっているらしい。今頃二人は王城で幸せな新婚生活を楽しんでいるのかな。
それに比べて、なんで私は森の中で半裸のまま一人でサバイバル生活を送っているのだろうか。
クソ後輩と勇者様はもしかして毎晩同じベッドで寝ていたりするのだろうか。新婚だし、夜にはあんなことやこんなことをしながら過ごしているのかもしれない。もしかしたら子供もできていたりして。
対する私は、昼間から見ず知らずの雄花の花粉をハチに押し付けられて受粉の危機を迎えていたりした。なんでその場に存在しているだけで受粉されなくちゃならないの。受粉したら子供ができるどころか私自身が種になるという幸せのかけらもない未来が待ち受けているし。
それだけでなく子持ちの野生のクマに顔を延々と舐められるという拷問つき。
楽しいことなんて何一つない。
もう辛いことばっかりだよ。
せめて私と一緒に辛いことや悲しいこと分かち合ってくれるパートナーさえいれば良かったのにと思わなかったことはない。そうすれば楽しいことは倍増ですよ。
私が得られなかった甘くて至福の生活。
クソ後輩と勇者様が送っているような新婚ラブラブな生活。
それを、あの白い鳥も味わっているということだ。
やってらんないね。
鳥がそんなに偉いんですか。
ええ、私はただのお花さんですよ。植物ですよ。
うぅ、くやしい。
こういうムシャクシャするとき食事だよね。
バラの花を試食しよう。
パクリ。
うん、味とかよくわからん。
だって消化するだけだからね。
それでもあの白い鳥のマイホーム建設を少しでも遅延させることができるのなら良しとしよう。
さてと、さっき罠で張っていた蔓を全部地上へと戻そうか。
私の体の周りへ配置を戻してっとって、これ、私の蔓じゃない!?
私の意志に反して勝手に蔓が動き出したんですけど!
どういうことなのと慌てる私。
でもすぐに理由はわかりました。
これ、蔓じゃないや。
ヘビでした。
蔓だと思ったらヘビだった。
こいつはたしかヘビ型モンスター、ヴァーンシュランゲ。
ヘビの魔物がいつの間にか私の傍まで近寄ってきていたのだ。
そう、ヴァーンシュランゲは今にも私を捕食していようとしていた。
私が白い鳥を狙っていたら、ヴァーンシュランゲが私を狙っていたのだ。
太くて長い、凶悪そうなヘビ。
私は今にも食べられそうになっている。
人を簡単に丸飲みできるような口と胴体を持ち、長さだけで10メートル以上もあると推測できる化け物級のヘビに。
すごいや、ヘビってそんなに大きく口を開けられるんだね。
でもね、ちょっと待ってね。
もしかして私、丸飲みされそうになってる……?
勘弁してよもう。
丸のみされて体内で消化されるのはもう嫌なの!
あんなの人生で一度経験すればもう十分。
だからその口はすぐに閉じて!
丸飲みはいやー!
お読みいただきありがとうございます。
次回、巨大蛇アナコンダでモンスターパニックです。







