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168 転移

 気がついた時には、私は畑担当アルラウネになっていました。

 

 いったい何が起きたんだろう。

 ドライアドの『転移』のスキルを試そうとしたら、畑ラウネになっていたなんてビックリだね。



 私はドライアド様の話を思い出します。

 たしか『転移』の力は自分の本体ではなく、精霊の体だけを転移させることができると言っていました。


 私は完全な精霊ではなく、アルラウネの体でしか活動できない半精霊です。

 ドライアドのように、本体の古木から精神を切り離して精霊の体を生み出すことはできないの。



 だけど、実際に私は畑ラウネの体の中に入っている。

 もしかして、精神だけ転移することができたのかな?



 ということは、私と連結されていなかったあのヤンチャな根っこは、畑ラウネだったのだ。

 畑ラウネの根と私の根が繋がったことで、精霊の力によって『転移』を発動することができたようです。



(ママが私の中に入ってきた!)


 え、なにこれ?

 頭の中に、幼い自分の声が響いてくるのですが!


(さっき別れたばかりなのに、まさかこんなに早く再会できるとは思ってはなかったよ)


 別れたばかり……。

 もしかして、これって畑ラウネの声!?


(ピンポーン、当たりだよ! 突然私の中にママが入ってきて、ビックリしちゃった)


 どうやら転移先の私と頭の中で会話ができるみたい。

 これ、結構便利なのではなくて?

 とにかく、勝手に体に転移してしまってごめんなさい。


(平気だよ。だって私たちは、元は同じ人格なんだし)



 母と娘の関係だけど、子アルラウネは私の聖女としての記憶だけでなく、女子高生次代の記憶まで引き継いでいます。

 つまり、私の意識をコピーさせて分裂させたような存在なのだ。

 まあ、それでもなぜか「ママ」と呼んでくるんだけどね……。



(どうやって私の体の中に入ってきたの?)


 『転移』を使ったらこうなったの。

 

(そっかー。ついに私たち、転移できるようになったんだね)


 とはいっても、こうやって子アルラウネの中に意識だけを転移させることしかできないみたいだけどね。


(意識だけでも嬉しいよ。こうやっていつでもママとお話できるようになったんだし)


 たしかにその通りかも。

 転移を使えば、これからは私の子アルラウネたちといつでも雑談することが可能になったわけだしね。


 うん、他にも何かできそうなきがするし、色々と実験してみたいかも。

 とりあえず私は自分の体に戻るので、畑ラウネは野菜作り頑張ってくださいね。


(はーい。また遊びに来てねー!)




 元の体に転移します。

 すると、すぐ前に魔女っこの顔が現れました。

 心配そうに私の顔を覗き込んでいます。



「魔女っこ、どうしたの?」


「アルラウネ……やっと反応してくれた。大丈夫?」



 大丈夫もなにも、今まで畑ラウネの中にいたからね。

 そういえば転移していた間、私のこの体はどうしていたんだろう。


「私、何してた?」


「いきなり動かなくなっちゃったんだよ、覚えてないの? いくら声をかけても触っても反応がないから、死んじゃったんじゃないかと思って心配したんだから!」



 魔女っこが私にギュっと抱き着いてきます。

 どうやら心配させちゃったみたいだね。



 魔女っこの頭を蔓で撫でて安心させながら、今さっきの出来事のことを整理します。


 さっきの畑ラウネの例から考えるに、私が現時点で使える『転移』は、実体ではなく精神を飛ばす能力のようです。


 これまでは全く移動できなかったことを思うと、この『転移』のスキルが扱えるだけでも天と地ほど差があるよ。

 子アルラウネの体を短時間だけ共有させてもらう必要があるけど、それはそれで雑談とかできるから楽しいしね。

 ただ、子アルラウネが生えている場所にしか移動できないのが不便なの。



 でも、そこで私は思いついてしまいました。


 私の『転移』のスキルでは肉体を遠くに飛ばすことはできない。

 なら『植物生成』のスキルで、あらかじめ別の私の肉体を作ったあとに、『転移』を使って意識を移動させたらどうなるのでしょうか。



 実は半精霊化するまでの私の『植物生成』の力では、アルラウネを作るには種から育てることしかできなかったの。

 単純に出力不足だったみたいで、アルラウネのような複雑な植物を蔓から生やすことはできませんでした。


 だけど、今の私はドライアドの力を吸収したことによって、精霊並みのことができます。植物モンスターとしての限界を突破した今なら、『植物生成』によってクローンアルラウネを直接生み出すこともできる気がするのだ!


 というわけで、こちらも実験です。



 私はいつのもように種から子アルラウネを作るのではなく、『植物生成』を使って根に直接アルラウネを生やします。


 体の中に貯蓄されていた栄養と光エネルギー、そして頭の花にある精霊の力の大部分がどこかへ引き抜かれる感覚に襲われました。

 今までにないほどの体力を消耗してしまったの。

 体から放出されたエネルギーは、根の一部に凝縮されます。

 そうして根から小さなアルラウネが生まれました。成功だよ!



 魔女っこが「種を出してないのに地面からアルラウネが出てきた!?」と驚いています。

 新しく生まれたそのアルラウネは、そのまま何も言わずに棒立ちのまま。全く反応がありません。



 どうやらこのクローンアルラウネは種から生まれた子アルラウネと違って、私の記憶を引き継ぐ独立した意識が中に入っていないようです。

 目を(つむ)ったまま動かなくて、まるで空っぽの人形のよう。


 『植物生成』で生み出したマンイーターなどの植物が私の意志に反して勝手に動かないのと同じで、蔓から生やしたクローンアルラウネは私が手動(マニュアル)で動かさないといけないみたい。



 私はクローンアルラウネの右手を上げるよう意識を集中させます。次に左手。うん、動作はオーケー。

 遠隔操作もできるね。でも視覚を共有しているわけではないから、目視できる範囲でないと使えなさそうだよ。



 とりあえず、これからは種から作ったのが子アルラウネ。

 『植物生成』で直接作ったクローンアルラウネのことを分身アルラウネと区別することにします。


 分身アルラウネは手動で操作しないといけないし、本体から見える範囲内でしか使えないけど、色々と便利そうな気がするよ。

 とはいえ、一人作り出すのにかつてないほどの体力を消費してしまったの。私、めちゃくちゃ疲れました。

 


 種から子アルラウネを生み出すのは簡単にできるから、一日に何人も生み落とせます。

 だけど『植物生成』で分身アルラウネを作るのは一日に一回……いや、頑張って二回が限度かな。



 さて、とにかく準備はできました。


 私は根を伝って分身アルラウネの中に転移しました。



 閉じたままになっていた目が開きます。


 すると、大きなアルラウネが私を見下ろしていました。


 これは、私だ……!

 ということは、子アルラウネだけではなく分身アルラウネにも転移できることが確定したね。



 『植物生成』によって肉体を別に生み出して、そこへ精神だけを『転移』させる。

 私が複数存在してしまってドッペルゲンガー状態にはなるけど、ドライアド様と同じような『転移』のスキルが完成しました。


 根っこが届く範囲限定だけど、これでやっと私は自由に移動することができるよ。


 一歩も動けない不動の生活ともこれでおさらばです。

 


 私はついに、自分の力だけで移動する手段を得ることができたのだ!

子アルラウネ:種から生み出した自分。意識も記憶もある。

分身アルラウネ:『植物生成』によって蔓などから直接生やした自分。意識も記憶もなく、人形と同じ。手動操作でも動かせる。


次回、私との対面です。


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― 新着の感想 ―
根っこが届く範囲って森全体でしょう? え?じゃあ森の中では無敵ではありませんか?
[一言] やっぱりクローンアルラウネは主人公の記憶や知識を受け継いでても、機転や発想力では主人公に及ばないのだろうか? いわゆる「設定の上では同スペック」状態?
[一言] 自力で移動?出来るようになったねぇ長かったねぇ 自力?なのかな?
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