164 森を作ります
テディおじさまのドラゴンに運んでもらって、引っ越しです!
とはいっても、ドリュアデスの森とは近所のままなの。
塔の街を中心に見て、ドリュアデスの森の反対側に森を作ることにしました。
引っ越し先から街を突っ切って直進すれば、すぐにドリュアデスの森にすぐ戻ることができるよ!
まあ私は歩いて行くことはできないけどね。
妖精キーリは街にもよくこっそりと遊びに行っていたし、私以外のみんなにとっては便利だと思う。
というわけで、みんなで新天地に移動しました。
空の上からドラゴンに運ばれているときも思ったけど、ここは本当に何もないところです。
荒れ果てた大地、という感じだね。
少し離れたところに枯れそうになっている林が生えているけど、他は目立ったものは一つもありません。
ぽつんと、私たち数人だけが荒野に取り残されている感じです。
この場には私の他に、魔女っこと妖精キーリ、妹分のアマゾネストレントがついてきてくれていました。
後は私を運んでくれたテディおじさまと移動用のドラゴンもいるよ。
みんなが周囲の様子を見ているなか、魔女っこが心配そうに尋ねてきます。
「本当にここでいいの?」
魔女っこの言いたいことはわかるよ。
いきなり森を作りたいから引っ越すと言い出した私が向かった先が、何もない荒野なんだから困ってしまうよね。
もっと住み心地の良い場所はいくらでもあると言いたいのでしょう。
続いてキーリが私の体の周りを飛びながら、私を説得しようしてきます。
「アルラウネ様、他の場所に移りましょうよ。ここは人間たちでさえ見捨てた死んだ大地ですよ。植物には暮らし辛いところですって!」
ここから少し先に群生している林も、今にでも枯れそうな雰囲気です。
この場所で植物が生きるのは難しいということは、嫌でもわかるよ。
そして同じことを思っていたらしいテディおじさまが、遠慮はいらないというように話しかけてきました。
「たしかに酷い場所ですね。もう少し先にまで行けば、もっと良い土地があるはずです。移動するなら、もう一度ドラゴンで運ばせていただきましょう」
「いいえ、それには、及びません」
引っ越し先はこの荒野で大丈夫なの。
ニーナたちがいる塔の街からも近く、フェアちゃんたちがいるドリュアデスの森とも目と鼻の先。
街と森、どちらに変事があってもこの場所でなら対処できる良い立地です。
それにこんなやせ細った土地で頑張って生き続けているあそこの林を、同じ植物として見捨てるわけにはいかないよね。
「ここに、私の森を、作ります」
半精霊化した今の私なら、養分の乏しいこの土地を、緑豊かな森に変えることができる気がするの。
だから、ここに私の新居を作っちゃうよー!
街道からも少し離れているし、きっと街の人たちの迷惑にもならないだろうから、自分の力がどこまで出せるのか実験ついでに好き勝手やらせてもらうのだ。
私は地面の中にある根っこを、蜘蛛の巣のように横へと広げていきます、
そうして『植物生成』を使用して、根から次々と木を生やしました。
地面から木がぐんぐんと伸びていき、すぐに魔女っこの背丈を追い抜いていきます。
「なにこれ!?」と、魔女っこが驚くような声を出しました。
魔女っこが成長する植物を凝視しているのを横目に、どんどんと樹木を成長させていきます。
そしてアマゾネストレントより少し高いところまで伸びると、私はそこで森の成長を止めました。
これ以上高くすると、私に日光が届かなくなるの。
光合成できないのは辛いから、ご近所の木はこれ以上成長しないで頂戴ね。
とりあえず、これで見た目だけなら小さな森ができました。
「一瞬で森を作ってしまうなんて信じられません。やはりアルラウネの力は規格外のようですね」
テディおじさまが感心した様子で「グリューシュヴァンツ様にもお伝えしなければ」と一人でうなずいていました。
褒めてくれているのは嬉しいのだけど、森作りはまだ終わってはいませんよ。
私と繋がっているこの森は、私から栄養が送られている間は元気に成長します。
だけど、このままだと荒れ果てた地中から養分を得ることができないままなの。
だから次は、土に手を加える番です。
半精霊となったことで、私は基礎能力が上昇しただけではなく、自然に対してもある程度干渉することができるようになったみたいなの。
植物の『蒸散』の力を使って、葉っぱ裏から水蒸気を噴出します。
光回復魔法がたっぷりと籠った、蜜入りの水蒸気です。
そして隠し味として、精霊の力を混ぜておきました。
普通の蜜入りの水蒸気だけなら、土に影響を与えることはできません。
けれども私の頭の花に宿ったドライアドの魔力を一緒に注ぎ込めば、精霊魔法の要領で大地を活性化させることができるのだ。
精霊の魔力を肥料代わりにして周囲にばら撒く。
ドライアド様に相談に乗ってもらって覚えた新技です。
「地面から草が生えてきた……!」
魔女っこの足元から、緑色の草木が伸びてきます。
生気のない茶色の地面が、瞬く間に芝を敷き詰めたような鮮やかなものへと変化しました。
空から森の様子を見ようと思ったらしい魔女っこが、浮遊魔法で飛び上がります。
「凄いよアルラウネ。辺り一面緑色になってるよ!」
それはそうでしょう。
なにせ精霊の魔力の蒸散は、アルラウネである私本体だけが行えるわけではありません。
地下で私と繋がっているこの小さな森の木々全てが、私が本体から魔力を送ることで同じように魔力の蒸散が行えるの。
そのおかげで、私が作ったこの森の周辺の土地は、全て精霊の力によって豊かに生まれ変わることができたのだ。
ポカンとしたまま口を開けていたキーリが、私の胸へと飛び込んできました。
「アルラウネなのにドライアドと同じことができるなんて、さすがあたしのご主人様だよ!」
精霊の力を得た今なら、他にも思い切ったことができる気がするよ。
森を広げながら、これから色々と試していこうかな。
そうそう、忘れないうちにあれもやっておきましょう。
根っこを伸ばして、枯れそうになっていた林の根を探し当てます。
そしてクリスマスツリーのハサミの能力で、私の根と林の根を繋ぎ合わせました。
あの林も私の支配下に入ったの。
これで新しく作ったこの森に生えている木々は、全て地中で私と繋がったことになります。
つまり、この森は私の手足同然。
誰かが木の根っこを踏んだりしたら、すぐにわかるようになりました。
外敵が侵入して木に触れば、私がそれを感知することができるのだ。
これで防犯対策もばっちり!
同時に、『大森林の支配権』のように、森をまるごと武器にすることができます。
いわばこの森は、天然の要塞なのだ。
こうして私は、自分の森を作ることに成功しました。
夢のマイフォレストの完成です!
森が出来上がったころで、テディおじさまはドラゴンに乗って魔王城へと帰っていきました。
今晩は新居祝いを兼ねて、残ったみんなでパーティーです!
食材はもちろん全て私。
そら豆とカブ、玉ねぎを『植物生成』で生み出して、ユーカリの能力で火をおこして炒め物にします。
そして飲み物はもちろん、私のココナッツジュース。
おやつとして、私のリンゴもあるよ!
誰からも襲われる心配もなければ、気を張ることもない。
家族ともいえる仲間と一緒に食事を楽しんだのは久しぶり。
魔女っこたちとわいわいと騒いだあと、疲れた私たちはその場で就寝しました。
あぁ、これでこそ私が望んでいた生活だね。
この新しい森で、光合成をしながら静かに植物ライフを過ごすのだ!
翌朝。
私は誰かに根を踏まれる感触が伝わってきたことで、目を覚ましました。
根といっても、アルラウネ本体近くの根ではありません。
森に広がったたくさんの根。
その中のとある木の根元が、誰かに踏まれたのだ。
蕾を開いて、周囲を見渡します。
魔女っことキーリ、そしてアマゾネストレントの姿が確認できました。
ということは、木の根っこを踏んだのはここにいない第三者ということだね。
つまり、何者かが私の森に入ってきたということになります。
しかも根から伝わる足音の振動は複数。
どうしましょう、緊急事態です。
森に侵入者がやって来たのだ!
アルラウネの森の完成です。
ついに自分の森を持つことができて、一国一城の主になりました!
次回、八百屋アルラウネ開業です。