161 私、進化しました
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
この度、頭に花が咲きました。
さっきの何かが炸裂するような感覚って、この花が咲いたってことだったのかー!
私自身が花だというのに、さらに花が咲くなんて思いもしなかったね。
小さいとはいえ花が一本生えてきたということは、ここからさらに生えてくる可能性もあります。
もしも頭の上がお花畑みたいになってしまったらどうしましょう……。
頭が常時お花畑状態だなんて、私はそんなおめでたい人間ではないのですよ!
正直言って、恥ずかしいです!!
私が頭を抱えていると、ニーナが微笑みながら頭の花について話してくれます。
「髪飾りみたいで綺麗ですし、可愛いですよ!」
え、そうなの?
そういえばアルラウネになってから可愛いと言われたこと、あんまりなかったよね。綺麗と言われたことはあったけどさ。
ニーナに続いて、妖精キーリも「赤い花がアルラウネ様の色と調和していて似合っていますよー!」と褒めてくれます。
幼木ドライアドのフェアちゃんも「母上、可愛いー!」とニッコリと満面の笑み。
妹分のアマゾネストレントも、枝をゆさゆさと振って讃えてくれました。
みんなが似合っていると思ってくれるなら、これも悪くはないのかな。
この場に鏡を持っている人はいなから、私の頭の花がどんな感じになっているのかはわからないんだけどね。
どうなっているか気になるから、今度誰か鏡持ってきてー!
その気になる頭のお花から、不思議な感覚が維管束を通じて全身へと流れて行っています。
どういうわけか、力がみなぎってくるの。
ここにいるメンバーの中で唯一真剣そうに何かを考え込んでいたドライアド様が、「アルラウネ、よく見せてください」と言いながら、私の目の前に転移してきました。
ドライアド様は私の頭のお花をじっくりと観察し始めます。
そうして「やはりこれは……」と、困ったように口ごもりました。
「私の頭の花が、どうか、したのですか?」
「アルラウネの頭の花から、ドライアドに似た精霊の魔力を感じるのです」
「どういう、ことですか……?」
「おそらく姉を捕食したことにより、アルラウネはドライアドの力を受け継いでしまったようですね。完全に精霊になったわけではないですが、半分精霊となったと言っても過言ではない状態かもしれません」
私が姉ドライアドを食べた時に、その力の半分を幼木ドライアドのフェアちゃんとして吐き出しました。
その残った半分が、私の中で同化してしまったんだ。
「先ほどまでの暴走していた状態は、精霊として適合するよう体内で順応していたのが原因かもしれませんね。そうして完全に精霊の魔力を取り込んだことで、その力の一部が花として現れたのでしょう」
「わたくしのこの角のように」と、ドライアド様は自身の頭に生えている枝を指さします。
木の精霊であるドライアドは、頭に枝が生えています。
花のモンスターである私が精霊の力を得たことで、頭に花が生えたってことなのかな。
でも、精霊って具体的には何だろうね。
私、そちらの知識はあまり詳しくはないのです。
「あなたはもうただの植物モンスターではありません。精霊の力を取り込んだアルラウネ……前例がないので、何と称して良いのかわかりませんね」
つまりそれって、私は進化したのでは?
完全な精霊となったわけではないみたいだけど、半精霊のモンスターみたいな感じではないかな。
アルラウネバージョン2。
それとも、半精霊化アルラウネ?
ということは、姉ドライアドがやっていた『大森林の支配権』のように、森の植物を操れるようになるのではなくて?
「ドライアド様、『大森林の支配権』は、どうすれば、できるのですか?」
「精霊魔法の使い方を教えるのは難しいですね……それよりもアルラウネは、既に『大森林の支配権』と同じことができるではないですか」
「どういう、ことですか?」
「あなたは自分の体を自由に操れるのでしょう? つまり周囲の植物を全てアルラウネの手足にしてしまえば良いのですよ」
──なるほど!
そういえば私、最初からドライアドと同じようなことができたね。
ちょうど私の周りは、姉ドライアドたちとの戦闘で荒野と化していました。
植林しないといけないなと思っていたし、ちょうど良いから実験してみましょうか。
半精霊化した今なら、一本の蔓からさらに無数の蔓を生やすことも簡単にできそうです。
なので植物生成によって、蜘蛛の巣のように地下に根を広げていきます。
その根から芽が地上へと伸びていき、瞬く間に大樹へと成長しました。
荒れ果てた大地が、たちまち豊かな森へと変貌してしまいます。
その光景を目にしたマンフリートさんが、「植物が次々と成長していく!」と両手を上げて喜びました。
ドリンクバーさんが「森が一瞬で……!」と、驚愕の表情のまま後ずさります。
他のみんなと同じように驚いているニーナが、「神話の女神様みたい」と賞賛の声を上げました。
これまでの私だったら、大量の木々と繋がったままだとすぐに栄養不足になってしまったことでしょう。
だけどドライアドの力を得た今の私なら、小さな森を作ってそれを維持することくらいは朝飯前なの。
お昼寝しながらだってできそうだね。
むしろ、この森をどこまで広げられるのかが気になります。
もっともっと広く、もしかしたらちょっとした広さの森ができるくらい大きく成長することができるかもしれないよ。
そうしたら、私一人で巨大な森を創り上げることだって夢じゃないかも……!
そこで私は、一つ気になることを思い出しました。
「ドライアド様は、転移が、できるようですが、それも精霊の、力ですか?」
「あれはドライアドに元々備わっている能力です。自分の根に精霊の体を転移することができます。もしかしたらアルラウネも使えるようになっているかもしれませんね」
それ、良いね!
転移とか便利すぎて憧れちゃうよ。
そうしたら根を伝って、移動し放題だしね!
「けれど、アルラウネの体はドライアドの精霊の体と違って実体です。同じようにできるかと考えると、難しいかもしれません」
良いんですよ、ドライアド様。
ドライアドに転移という力が備わっていたということは、その能力も私は取り込んでいるはずです。
植物生成で実験して、品種改良で微調整していけば、きっといつかは転移ができるようになるはずだよ!
他のドライアドの能力も、同じように改良していけばいいだけ。
よーし、やりたいことがたくさん増えました。
ドライアドの精霊の力を自分のものにできるよう、色々と試してみちゃうよー!
私が今後の方針を決めていると、領主様であるマンフレートさんが躍るように声を上げます。
「美しい! あぁ、なぜ私は今、画材を手に持っていないのだろうか。早く街に戻って、アルラウネの絵を描かなければいけないぞ!」
街へと走り出したマンフレートさんの足を蔓で掴みます。
どこへ行くのですか、領主様。
まだあなたとのお話も終わってはいないのですよ。
その場に転倒したマンフレートさんを、蔓で一本釣りしました。
逆さ釣りになったままの領主様と、いざ商談です。
「金の綿は、どう渡せば、いいですか?」
「後日、商人をここに派遣しよう。その者たちに渡してくれれば良い」
マンフレートさんは「それともう一つ」と、人差し指を伸ばします。
「綿と一緒に、聖蜜をいだたけないだろうか?」
「……別に、いいですよ」
進化したことで、今の私は力が溢れているからね。
蜜を大量生成することも簡単にできそうだから問題はありません。
だから私の蜜が欲しいなら、売るなり飲むなりお好きにしてくださいな。
その代わり、後日きちんとお金は貰いますよ。
話も落ち着いたことで、ニーナたち人間グループは街に戻ることになりました。
きっと街はまだ大混乱状態だろうからね。
早く収束させに行ってくださいな。
「また来ますね」とニーナが名残惜しそうに手を振りながら去っていきました。
私の周りには、森の住人であるドライアド様と妖精キーリ、そしてトレントが残ります。
あとは魔女っこがこの場に加われば完璧だね。
あの魔女王さえいなければ、魔女っこがいなくなることもありませんでした。
そう思う反面、あの魔女王がいなかったら、魔女っこは司祭ドライアドに殺されていたかもしれないという事実が頭に浮かび上がってきます。
そう考えると、魔女王がいたおかげで最悪の事態だけは免れたのかもしれないです。
魔女の里では大切にされるだろうし、とりあえずの心配はないのかな。
炎龍様が上手く連れ戻してくれれば良いのだけれど。
それでも、できることなら自分で助けに行きたい。
ただの植物モンスターであった私のままなら、それは不可能なことだったでしょう。
でも、精霊の力を手に入れた今の私なら、魔女の里へ乗り込んで魔女王を倒すことも夢ではないかもしれないよ。
そうするためには、もっと力が必要です。
魔女っこ、無事でいてね。
もう二度と魔女っこを誘拐されないよう、私はもっと強くなるよ。
そうすることによって、ゆくゆくは静かな森での生活を送ることに繋がるのだから。
おかげさまで初投稿から半年が経ちました。
こうして書き続けてこられたのも、皆さま応援があってのことです。
いつも応援していただきありがとうございます!
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次回、魔女っこ、はじめての魔女の里です。