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17 急募、地面に生えている植物が空を飛ぶ鳥を捕まえる方法

 私、植物モンスター娘のアルラウネ。


 クマパパからペロペロされるのを阻止するために特別製の蜜玉を作ったら、知り合いの白い鳥に略奪されてしまったの。



 どういうこと!?

 あの白い鳥、もしかして蜜を狙って私のところに来ていたの?



 あの鳥は初対面ではない。

 最近よく私の目の前に現れるいけ好かない白い鳥だ。


 日照りのときに水をかけてくれたこともあるから良いこともあったけど、たいていは遠くから私を観察したあとに私の頭上を旋回して挑発してから空の彼方へと飛んでいく性格の悪い鳥だ。


 そんなあの鳥がまさか二度と起こりえないような最悪のタイミングで蜜玉を奪い取ったのだ。

 誰か嘘だと言って。



 白い鳥に蜜玉を食べられたら、クマパパはまた私をターゲットに戻す。

 そうなれば終わりだ。


 今から蜜玉を作り直す時間はない。

 その前に私はクマパパによってお嫁にいけないようペロペロされてしまうのだ。



 あっ。

 クマパパが私のほうを見ている。

 

 ──やめて。

 こっちを見ないで。


 さっき蜜玉あげたでしょう。鳥に取られちゃったけどあれで我慢しなさいよ。

 だからね、足を私に向けないで。

 こっちに歩いてこないで。


 うぅ、絶望したー!


 私がそう蔓で頭を抱えていると、白い鳥がこちらに急降下してくる。

 そうしてクマパパと少し距離を取ったあたりで、クマパパの周りをくるりと一周した。


 クマパパの視線は私ではなく、白い鳥にロックオンされる。


 視線を受けた白い鳥はクマパパから少しずつ離れていく。

 森の奥へと飛んでいく鳥。


 クマパパは鳥から目を離さずに、その後を追っていった。

 地面から響き渡るクマパパの足音がだんだんと遠くなっていく。


 そうして私だけが一人取り残された。


 

 た、助かった……!



 クマパパは白い鳥ごと蜜玉を手に入れるつもりらしい。

 ラオブベーアは森で出会った人間を最後まで追い続けるモンスターだ。


 きっとあの白い鳥を捕まえるまで追い続けるはず。


 ただの鳥が森の主であるクマパパから逃げられるとは思えない。

 残念だったね、白い鳥。

 あんたの悪事はクマパパが成敗してあげるよ!


 

 こうなればクマパパは私のところには来ないはずだ。


 白い鳥から蜜玉を奪ったとしても、数日、運が良ければ数週間は口の中で蜜を楽しめるはず。

 その間は私のことなんて忘れてしまうだろう。


 問題はその後だけど、今は自由になったことを喜ぶべきでしょう。

 顔は舐められたけど、他は無事だった。


 良かった。私、まだお嫁にいけるかもしれないよ……!

 

 とりあえずクマパパのことは今だけでも忘れよう。

 もう、とにかく大変だった。色々と大変だったねぇ……。




 それから私は久しぶりに巫女に戻ることにした。

 雨乞いの儀式である。

 お水がね、欲しいの。


 クマパパとの戦闘で水分が足りなくなったのもあるけど、それ以上に今の私は不快感に包まれている。


 顔がよだれでコーティングされてしまっているからね。

 それだけじゃなく、顔から垂れたよだれによってもう全身がクマのよだれだらけ。


 クマ臭くて目が回りそう。

 早く体を洗い流したい。


 水浴びに行きたいけど、なんで植物って水浴びしにいけないんだろうね。こんなにも水を欲している生物なのに。おかしいよね。

 

 雨乞いはしたけど、そう簡単に雨が降ってはこない。もし雨をすぐに降らすことができるのなら私は無職の花から巫女へと転職していただろう。


 それから、私は不本意ながらも一日中クマのよだれと生活を共にした。


 屈辱。

 クマの匂いを嗅ぐたびにこの単語が頭に浮かんでくる。

 

 私は目から蜜を垂らしながら、天に向かって両手を捧げ続けた。


 クマに舐められた私に天気が同情してくれたのか、ありがたいことに次の日には雨が降って来たのだ。


 これでやっと綺麗になれるよ!


 雨という名のシャワーを全身で受け止める。

 お水、最高……ッ!




 恵みの雨によって浄化された私は、これからのことを考えていた。


 クマパパのことである。

 蜜玉で時間が稼げるとはいえ、あいつはいつか必ず私のところへやって来る。


 その時、今回みたいにまた上手くいくとも限らない。


 昨日のクマパパはヘルヴォルフとの闘いで左腕を負傷してうえ、ハチさん軍団に刺されたダメージもあったはずだけど、次にクマパパが現れたときは全回復しているはず。

 回復薬入りの蜜玉舐めているしね。



 できれば今すぐにでもこの地を離れたい。

 他の場所へ移動して、追手に見つからず静かに暮らしたい。


 でも、私にはそれが許されないのだ。植物だからね。

 この身を呪ったのは何度目だろうか。


 外敵に襲われても逃げることはできず、追い払ったその敵から身を隠すこともできない。なんで植物だけこんなにハードな設定なの?

 

 おかしいよ。植物っておかしい。


 けれど、私が呟くのとは違った意味でおかしい植物と出会ってしまった。

 


 私のすぐそこにね、穴があるの。

 こないだクマパパが右パンチで地面をえぐった大穴。


 その穴の中にね、なんか変な花が咲いていたの。


 クマパパが抉った地中に、はじめからそこにいたように一本の花が咲いていた。

 つまり、元々この土の中で花を咲かせていたということになる。 


 なんでさ!

 なんであなたは地面の中で花を咲かせていたの?

 引きこもりなの?

 それとも太陽が苦手な一族の花だったりするの?


 いや、もしかして私のストーカーさんですか?

 もしもし、わたしメリーさん。今あなたの地面の下に埋まっているの。

 埋まっているなら地上へは這い出てはこられないね。ストーカーされていても安心だよ。


 それにしても地面の中で花が生きられるなんて驚き。


 地中で咲く花とか初めて聞く……いや、ちょっと待って。

 あったよ、そんな花。


 女子高生時代に植物図鑑で読んだことがある。


 たしか名前は「リザンテラ」。


 地下で花を咲かせる世にも珍しい花である。

 一生を地面の下で過ごすので、絶対に地上では姿を見せない。


 女子高生時代の世界ではオーストラリアでしか分布しないとされるそのリザンテラは、私と同じで被子植物だけど、いわゆる腐生(ふせい)植物というものになる。


 腐生植物はそうだね、私と違って光合成で栄養を得ないで、代わりに菌類から栄養を貰って生活している植物のことなの。


 菌類と共生することによって、外敵から襲われることもなく、さらに水分も豊富に手に入る地下での生活を可能にした。


 良いことずくめだね。

 だから地中で静かに過ごしているわけか。


 薄いピンク色の小さな花。

 リザンテラに似ているけど、全く同じ花ではない。

 きっと地球に存在していたリザンテラに近い、この世界特有の花なのでしょうね。


 でも、この世界での名前がわからないから呼び名はそのままリザンテラでいくよ。


 リザンテラは腐生植物として菌類から栄養を受けているが、実際には近くの木の根から菌を介して栄養を受けているともどこかで読んだ気がする。つまりリザンテラは寄生植物でもあるということ。


 なるほど、私のすぐ横にリザンテラが埋まっていた理由がわかったよ。


 まさか本当に私のストーカーだったとは。

 私の根から菌を使って栄養を奪っていたのだ。

 つまり、私は知らぬ間に地中で他の花に寄生されていたということになる。

 ストーカーされていても安心ではなかった。


 私はリザンテラをじっと見つめた。


 寄生されていたことはこのさい気にしない。

 それよりもうらやましい。

 私はお前がうらやましいぞ。


 うん、すぐに決めたね。

 はい、ちょっとリザンテラくん、こっちに来なさい。


 はい、オーライオーライ。

 そのまま口の中に入って、はいパクリ。

 もぐもぐごくりん。


 これでリザンテラの能力は私のものに。

 植物の力を自分に吸収できる能力を持っているからね、私。

 クマパパが来てもこれで安心。


 地面に潜ってしまえば、クマパパだってやり過ごせる。

 凄いよリザンテラ。

 かくれんぼの天才かな!


 だが、そうは問屋がおろさなかった。


 たった一つの小さなリザンテラでは、私の性質を大幅に変化させることは敵わなかったのだ。菌類から栄養を摂取して生活することはできなかった。


 そんな簡単に腐生植物に変身することはできないよね。

 まあこれまでも一部分だけ変化できるようになったから、仕方ないね。


 マンイーターを食べても私自身がマンイーターになることはできなかったし。蔓に生やすことができただけ。

 なのでリザンテラの力も一部しか使えなかった。


 そう。

 ちょっとだけ、力が使えたのだ。


 地面に空いた穴へ蔓を差し込む。

 そのまま地中を移動させて、数メートル先から地上へと突き出す。

 

 少しの間だけなら、私は菌から栄養を摂取することができるようになったのだ。


 今はすぐに蔓を地上に出しちゃったけど、このまま地中に潜らせたままも可能ということ。

 私の体全体を長時間地中で生活させるほどの菌は操れないけど、一部ならある程度の時間は問題ない。



 そんなこんなで私が蔓で穴を掘っていると、やつが現れたのだ。


 森の彼方から飛行してくる小さな白い点。

 間違いない、あの白い鳥だ。


 クマパパ襲来から既に数日が経っている。

 どうやら白い鳥はクマパパから逃げ切ったみたいだね。

 

 それなのにクマパパが私の元に戻ってこないところを考えると、どうやらあの蜜玉はクマパパの口へと渡ったらしい。


 きっとあの時は咥えたまま飛んで行ったんだね。

 白い鳥に食べられなくて良かった。


 まあクマパパさえ来なければ後はどうでもいい。


 私、良いこと思いついちゃいました。



 さきほど掘った地面の穴の中に蔓を潜ませた。

 そのまま蔓を腐生植物化させて潜ませる。


 白い鳥がこちらに向かって降下してきた。

 


 蜜玉を食べられた恨みは忘れない。

 

 空を飛ぶ鳥を植物が捕まえることは普通できないだろう。


 でも、もし植物が罠を張っていたらどうだろうか?


 何も知らないかわいそうな鳥さんは哀れにも罠に気づかず、あえなく捕まってしまうのだ。


 私はニヤニヤを押さえつけながら、白い鳥が地面へと着地する瞬間を今か今かと待ち望んでいた。


 私の宿敵、白い鳥を今こそ討ち取るのだ。

 

 白い鳥が地面へと着地する。



 そうして私ははじめての罠を発動させるのだった。


本日も一日二回更新となります。


次回、鳥で大蛇を釣るです。

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― 新着の感想 ―
[一言] その鳥食べないで〜 別の意味でなら食べてもいいですけど。
[気になる点] クマの匂いを嗅ぐたびにこの単語が頭に浮かんでくる。
[良い点] Twitterから来ました。植物系主人公の作品は初めて見ました笑 境遇がかなり悲惨にも関わらず、必死に知恵を駆使して生きようとする姿は拍手喝采ものです。モンスターになったものの少年を食べる…
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