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159 伍長さんと塔の街の領主

 私、植物モンスター娘のアルラウネ。

 ついにニーナを始めとした人間さんたちと和解することができました。



 感動のあまり、私が涙という名の蜜を流していると、ニーナがはっと何かに気がつきます。

 そうして優しく私の頬に()れました。



「そんな、泣かないでくださいよ」



 ニーナの指が私の頬を流れる蜜をすくい取ります。



「目から聖蜜が……もったいないですから、いただいてもよろしいですか?」



 ────え?

 に、ニーナさん……?



「……良い、ですよ」


「では…………甘い、やはり聖蜜は最高ですっ!」



 ニーナは私の蜜の常連さん第一号だと、魔女っこが言っていました。

 もしかしなくても、今までかなりの蜜を食べていたのではなくて?

 ニーナがペロリストにならないかと私は心配だよ。



「おかわり、いりますか?」


「いただけるんですか!」



 ニーナの今後が心配だけど、今は良いのです。

 数年ぶりに再会できた聖女見習いの後輩であるニーナの笑顔が見られるなら、私はいくらでも蜜をあげちゃうよー!


 私がニーナに追加の餌付けしていると、森から誰かの足音が聞こえてきました。

 すぐさまみんなが警戒態勢になります。

 

 

 続いて「やっと着いた」と、茂みの奥から男の人の声が聞こえてきました。

 どこかで聞いたことがある声です。

 誰だろうと考えていると、森から冒険者になった伍長さんが現れました。

 伍長さんの他に、後ろにもう一人連れがいるみたい。



 知り合いの登場に、その場にいた人間さんたちが警戒を和らげます。

 ニーナが「フランツさん、どうしてここに?」と伍長さんに尋ねました。

 


「街の騒動の原因を突き止めようと森に来たのだが、途中で意識を失ってしまってな」



 おそらく姉ドライアドの精霊魔法で眠らされちゃったんだね。

 伍長さんまで森に来ていたとは思わなかったよ。



「やはりアルラウネの嬢ちゃんが関係していたか」と、伍長さんが私の方を見てきました。



 ニーナが伍長さんに事の顛末(てんまつ)を説明してくれます。


 なるほどね、伍長さんは「フランツ」という名前だったんだ。

 もう兵士は止めて冒険者をしているみたいだから伍長ではないんだろうけど、私の中では伍長さんで慣れてしまったから、とりあえずは伍長さんと呼ばせてもらうよ。



「やはりアルラウネの嬢ちゃんは人間の敵ではなかったんだな」



 伍長さんは前回、私のことを信じると言ってくれました。

 その時はそれで会話が終わってしまったけど、あれから私のことを敵ではないと信じてくれる人がこんなにも増えたよ。

 最初に伍長さんが信じてくれたおかげかも。感謝しないとね。



「俺の見間違いでなければ、アルラウネの嬢ちゃんが巨大化していた気がするのだが……もしかして蔓で塔を破壊したり、蜜を散布したりしていないか?」



 伍長さんの言葉を聞いて、私は忘れていた事実を思い出してしまいます。


 そうでした。

 私、街にある女神の塔を叩き折ってしまったんだった!

 蜜の散布というのも、たぶんラフレシア化した時に放出した蜜霧のことだよね。

 もしかして、塔を壊してしまって蜜霧を出したこと、怒られてしまうのかな……?



「オレたちは二度もアルラウネの嬢ちゃんに命を救われたよ、本当にありがとう」



 伍長さんが私の蔓を両手で握ってきます。

 なんだか怒られるというよりは感謝されている気がするね。


 話を聞いてみると、私が女神の塔を折ったことで、トロールに襲われていた伍長さんの身を守ったらしいです。

 しかも蜜霧が街に充満したことで、街にいたトロールもみんな人間に戻ったそうです。

 私は知らないうちに伍長さんたちを助けていたみたい。

 それだけでなく、どうやら私は街を救っていたらしいね。



「そう、君は街を救ったのだ!」

 


 突如、伍長さんの後ろにいた若い男の人が前に出てきました。


 ポッチャリとした体型の殿方です。

 服装から推測すると、貴族なのは間違いないね。

 というかこの顔と体形、どこかで見たことがある気がするよ……。



「あぁ、なんてことだ! まさかアルラウネがこんなにも美しいなんて……冒険者組合から聞いていた以上の容姿ではないか!」



 なんかこの人、よくわからないけどめちゃくちゃテンション高いよ。

 こちらを凝視してくる目がキラキラと輝いている気さえするね。



「美しく聡明(そうめい)であり慈悲深く、そして孤高の強さを持つ光魔法の使い手。私の憧れる聖女イリス様そっくりではないか!」



 あぁー、わかっちゃった。

 思い出したね、この人は塔の街の領主の息子だよ!

 聖女時代に王都で何度か会ったことがあるの。

 私より数才年上の貴族で、名前はたしかマンフレートさん。

 いつも私への視線が暑苦しかったから、よく覚えているよ。

 


 会うたびに私の絵を描かせてくれとしつこくお願いしてきたんだよね。

 恥ずかしかったから断ったのだけど、それでもめげずにお願いしてきたから、教会の人からしつこいと(しか)られていました。

 だというのに、国からの命令で私の肖像画を描いてもらうことになった時に、ちゃっかりとその場に同席していたんだよね。

 


 なんで宮廷画家でもないマンフレートさんがいるんだろうと思ったけど、教会に多額の寄附(きふ)をして、その場に紛れ込ませてもらったことを後で第三者から聞きました。

 言ってしまえば、聖女時代の私のファンだね。

 だから、前から面識がある人ということになります。直接話したことはほとんどないけど。



 昔の記憶を思い出して私がぼーっとしていると、ニーナが小声で説明してくれます。



「この方は塔の街の領主様です。イリス様がお好きらしいですよ」



 それは知っているって!

 塔の街に住んでいるから王都には基本的にいないはずなのに、なぜか何度も見かけることがあった謎の人物だったからね。



 とはいえ、領主になっているのは知らなかった。

 おそらく私が死んでからアルラウネになった3年の間に後を継いだということでしょう。マンフレートさん、あなたも色々と苦労していたのですね……。

 

 領主様になったらしいマンフレートさんが、自慢げに私に語りかけてきます。



「実はね、冒険者組合にある君の手配書の絵を描いたのは、私なのだよ!」



 まだ絵は描いていたんだね、マンフレートさん。

 しかも冒険者組合の手配書って、それは領主がする仕事じゃないでしょうに。


 

「あぁ、その顔を見ると思い出す。イリス様が亡くなったと聞いた時は、悲しくて私は何日も寝込んでしまったものだ……」



 私の死を(いた)んでくれるのは純粋に嬉しいです。



 このマンフレートさんは、私がアルラウネになってからは初対面の人だったから、友好的に接することができるか少し心配でした。でも、杞憂だったね。

 むしろ勢いが凄すぎてちょっと引いちゃうよ……。


 マンフレートさんから少し距離を置きたいけど、それはできないの。

 だって私、植物だから。根っこよ、ちょっとでいいから頑張って動くのだ!



 私が引き気味に体を傾けていると、マンフレートさんがさらに高揚します。



「まさかこの目でまたイリス様のお顔を拝見することができるだなんて、感激だ!」


「…………私は、その人とは、関係ない、ですよ」



「いや、私は長年のイリス様の肖像画を見てきたが、アルラウネがここまでそっくりなのはおかしい。だから間違いない、君はイリス様そのものだ!」



 え、うそでしょう。


 これまで出会った誰しもが、すぐに私が聖女イリスだと気がつくことはありませんでした。

 聖女見習いであったニーナですら、イリス本人だとは思わなかったのに、まさかマンフレートさんにバレてしまうなんて……!



 私が彼に正体を明かすべきか悩んでいると、マンフレートさんが何かに気がつきます。




「むむっ……! いや、ちょっと待てよ、イリス様というのは間違いかもしれない……」



 愉快そうな雰囲気だったマンフレートさんが、突然黙りました。

 そして私のことをじーっと凝視してきます。



「イリス様よりも、大きい……!」



 ──大きい?

 何がだろうと思ったところで、彼の視線が私の胸元に集中していることに気がつきます。


 信じられない……大きいって、まさかそういうこと!?



 ふがー!

 私、激怒しました。



 聖女のことが理解できていないこの青二才な領主様は、きちんと教育してわからせてあげないといけませんね。


 私の正体も明かしてなるものですか!

アルラウネは激怒した。必ず、かの領主の考えを改めさせなければならないと。


次回、街に協力しますです。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど(一部を見ながら)これは触診しなくてはいけませんねぇ うわなにをするやめ…ないで
[気になる点] >いや、ちょっと待てよ、イリス様というのは間違いないかもしれない…… 「間違いかもしれない」では? [一言] そこで判別するのかい! いや、生前は着やせしていたかもしれないじゃないで…
[一言] シンプルに判別ついてるの凄いと思うけど胸を見るんじゃない
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