155 媚薬にはなりたくないです
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
魔女王が私を媚薬の材料にしようとしてきました。
正直、アルラウネに転生してから色々なことがあったよね。
受粉されそうになったり、食べられそうになったりもしました。
でも、薬を調合するための材料にしようと言われたのはこれが初めて。
しかもその用途がまさかの媚薬です。
私、媚薬になんかなりたくないよー!
「そんなに嫌そうな顔をするなら、あの子の初めての調合の材料にしてあげよっかー? それなら摘み取られるのも本望でしょ?」
本望なわけないよー!
いくら魔女っこに調合されるとしても、媚薬の材料にされるのはお断りなの!
こうなったら徹底抗戦です。
植物生成でテッポウウリマシンガンを生やすよ!
でも、そこで私は動揺してしまいます。
なんだか体が上手く制御できないの。
4本のテッポウウリマシンガンを生成しようとしたら、なぜか40本を超える大量のテッポウウリマシンガンを生み出してしまいました。
「あれ、どうしよう、止まんない……!」
私の意思とは無関係に、勝手に植物生成が続きます。
地中から無数のハエトリソウが天へと向かって伸びていきました。
蔓も無意識に成長していき、そこに私がこれまで捕食してきた様々な植物が咲き乱れ始めます。
やっぱりおかしいよ、今の私。
身体が言うことを効かない。
力の使い方の加減がわからなくなっている……!
「凶悪そうな植物がいっぱい。これはちょっと食らうとヤバそうだね~」
魔女王が反撃してきます
今度は雷雲を操りだしたみたいで、魔女の体から雷鳴が発せられました。
私は根っこが地面に繋がっているから、電気を地中に逃がせられるかもしれないね。
だけど直撃したら、その部分の身体は燃えてしまうかも。
とっさに蔓を空に突き刺します。
避雷針となった蔓が雷を受け止めました。
辺りを切り裂くような轟音が空気を響かせます。
──やったよ!
雷に対して燃えることなく、蔓から地面に電気を通すことに成功しました。
「雷が効かない、もしや耐性ができているか……? どうやら紅花姫ちゃんは精霊の力を上手く取り込んじゃったみたいだね」
私が精霊の力を?
もしかして、私の身体の暴走も精霊の力のせいなのかな。
たしかにこれまでとは比べられないほどのパワーを感じています。
昔の私だったら難しかったことも、今の私ならいともたやすく行うことができそうなの。
「紅花姫ちゃんが使っている植物を次々と生み出す力は、さっきのドライアドの精霊魔法とそっくりだしねー」
ドライアド様が使っていた『大森林の支配権』のことだね。
森が躍動するように盛り上がるあの精霊魔法は、今の私の植物生成と似ているかもしれません。
とはいえ、植物生成は前からできていたことなんだよね。
以前よりも一度にたくさんの植物を操れるようにはなったから、そういう意味では精霊の力の一部を取り込むことができたみたい。
つまり、私は姉ドライアドを捕食したことでパワーアップしていたみたいです。
「ええーどうしよっかなー。紅花姫ちゃんがいつの間にかドライアド並に厄介な存在になってるじゃんー」
「なら、降参、してくれますか?」
「むしろ紅花姫ちゃんが折れてほしいね。一つ言っておくけど、わたしが助けに入らなかったら、あの子はフェアギスマインニヒトの手下に殺されるところだったんだよ?」
そ、そうなの?
たしかに魔女っこが司祭ドライアドに勝てるかと言われたら、厳しいかもしれないとは思っていました。
それでも、殺されるほどのピンチになっていたとは知らなかったよ。
「わたしはあの子の命の恩人でもあるの。あの子のことを大切だと思うなら、そのことを忘れないで欲しいなー」
魔女王が可愛らしい仕草でわたしにウインクしてきました。
そんなことしても、私は丸め込まれませんよ。
そう思ったところで突如、ドライアド様を拘束していた氷が砕け散りました。
──パリィンッ!
どうやら自力で氷の呪縛を解いたみたいです。
さすがは精霊様だね。
「アルラウネ、迷惑をかけましたね。お待たせいたしました」
ドライアド様が戻って、これで2対1。
数ではこちらが有利にはなったけど、魔女王は気にした様子もないというように呟きます。
「ドライアドと一緒に共闘しようとしているみたいだけど、わたしが紅花姫ちゃんと遊んでいる間に、うちの補佐があの子を連れて行っちゃったよー」
私が魔女王と戦闘をしている間に、魔女っこを連れた部下の魔女は見えないくらい遠くへと消えていました。
魔女王に邪魔をされて、魔女っこを取り戻すことに失敗してしまったの。
上手く足止めされてしまったよ。
でも、魔女王を捕まえて人質にすれば、魔女っこを取り返すことができるかもしれないよね。
魔女王の言葉が正しければ、今の私は精霊の力の一部を扱えるはず。
能力が全て向上していると考えてもいいかも。
なら、せっかくだし試してみましょう。
生成したテッポウウリマシンガンの種を特殊な弾に変化させます。
よーし、発射ー!
ズポポポポポポポポンッ!!
放たれた種が発火し、炎を纏い始めました。
実はね、『植物界のサイコパス』ことゴジアオイの能力を種に付与したの。
燃える種が遠くに生えている木を次々と破壊していきます。
種の固さはココナッツを応用しました。
精霊の力で種の強度も向上したみたいだし、まるで火山弾のような威力になっているね。
一発でも当たれば、普通の人間なら再起不能になりそうだよ。
おそらくだけど、今でこそ火山弾のような破壊力を持つこの火炎種だけど、姉ドライアドを捕食する前の私が同じことをしたとしても、ただの燃える種で終わっていたことでしょう。
「物騒な物を吐き出してくるんじゃないよー!」
魔女王が雷を操り始めます。
私の火炎種と落雷がぶつかり合いました。
どうやら相殺されたみたい。
それでも魔女王が操る雷より、私のテッポウウリマシンガンの種のほうが遥かに数が多いの。
「にゃはは、これは避けられないわ」
空中で器用に火炎種をかわしていた魔女王が、諦めたように両腕を下げました。
数十発の大きな火炎種が、小柄な魔女王を襲います。
標的に当たって大きな火花が炸裂しました。
──勝った!
そう思ったのも束の間、炎の中から魔女王が現れました。
「まさかここまで紅花姫ちゃんが強いとはね。想定外だよー」
魔女王の体は穴だらけになっており、火傷だらけにもなっていました。
それなのに、一瞬で体が再生していきます。
「にゃはは、わたしにコレ使わせるなんて、久しぶりのことだから誇って良いよー」
傷口が完全に再生している。
まるで聖女の光魔法みたい。
でも、魔女が光魔法を使えるわけはないよね。
それに即死レベルの攻撃を受けて、無傷の状態まで再生できるほどの回復力を持っているのは、聖女の中でも私くらいしかできないはず。
魔女王はいったい何をしたんだろう……。
とにかく、ただ倒すだけじゃダメみたいです。
弱ったところを痺れ茨で拘束すれば、動きを封じることができそうだね。
私が戦術を考えていると、どういう訳か魔女王が空をじーっと眺めていました。
しかもとても渋ったような、困った顔をしています。
「この気配はあいつの…………ええ〜、せっかくいい所だったのに、わたしを邪魔しようっていうのー!」
魔女王が西の方角を向きながら、プンプンと起こったように独り言を口にします。
いったい何に向かって話しているんだろう。
「これから楽しくなるところだったけど、悪いね紅花姫ちゃん。邪魔が入りそうだから、わたしは帰らせてもらうよー」
「え……ちょっと、待って!」
「あの子は幸せに育てるから安心してねー」
魔女王の体が歪みます。
変身魔法で大きな白色の鷹に変身しました。
「紅花姫ちゃんを媚薬の材料にするのは次の機会にするから、また会いましょうー」
そう言いながら、魔女王は森から飛び上がりました。
また会いましょうー、じゃないよ!
誰が媚薬になんてなるもんですか。
こうなったら、あのふしだらな魔女を打ち落としてやるんだから。
テッポウウリマシンガンを連射です!
「おおー危ない危ない。そんなにわたしと離れたくないなら、追いかけてきなよー。その地面から離れられればのことだけど」
「にゃはは」と笑いながら、白い鷹は北の空へと去っていきました。
な、なんなのあいつー!
いきなり戦うのを止めたかと思ったら、逃げやがったよ。
正々堂々と勝負しろー!!
「ドライアド様、あの魔女、追いましょう!」
「そうは言っても、わたくしたちは自由には動けない身ですし」と、ドライアド様が首を傾けながら答えます。
私もドライアド様も、他の生物のように歩き回ることはできません。
追いかけたくてもそれができないことくらい、私もわかっているよ……。
私が心の中で涙を流していると、ドライアド様が考え込むように呟きます。
「それにしても、なぜ魔女王はこの場を去ったのでしょうか」
たしかにそうです。
戦況は五分五分だった。
私が少し押してはいたけど、魔女王は隠し玉を持っている様子だったからまだわからなさそうだったよね。
そういえば誰かの気配を感じるとか言っていたけど、それが原因なのかな。
西の空に目を向けます。
地上からじゃ何も見えません。
けれどもこの時の私は、西の方角から私にとって最も喜ばしい存在が近づいていることに、まだ気がついてはいませんでした。
そうして早々に、思わぬ人物と再会するのです。
アルラウネは姉ドライアドの本体である古木を捕食しました。その際に精霊の力を吸収して、全体的にレベルアップすることができたようです。
次回、思わぬ来訪者です。