154 暗躍する魔女王
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
魔女王とその部下が、魔女っこを担いだまま空を浮遊しています。
魔女王が50年前の勇者たちに対して暗躍をしていました。
ドライアド姉妹や昔の勇者パーティーの運命を変えた張本人なの。
それに、魔王軍に魔女っこを探すよう依頼していたのも、この魔女王だったみたい。
自分の手で魔女っこを魔女にしたから、手元に戻したいと言っていました。
でもね、そういうことなら一つ気になることがあるの。
「なんで、魔女っこを、魔女にした時、一緒に連れては、行かなかったの?」
「この子を魔女にしたのは気まぐれだったからね~。真っ白な髪の色を見る限り、わたしの力を多く受け継ぐことができたみたいだし、それなら魔女の里で幹部になるために教育してあげないとって、お迎えに来たわけだよ」
それはつまり、その辺の土に種を撒いて何年も放っていたら、勝手に芽が出て実も大きく成長していたから、ラッキーだと思って収穫しようとしているようなものだよね。
魔女っこの気持ちも確かめないで、都合が良すぎるよ。
だけどもし、魔女っこが魔女の里に行きたいと言い出したらどうしましょう。
むしろこのまま私と一緒にいるよりは、仲間である魔女たちと暮らした方が魔女っこの幸せのためになるかもしれないよ。
森で植物と生活するよりは、里のほうが人間らしい最低限の生活ができるはず。
人間不信も治るかもだからね。
色々と考えていたら、魔女っこと一緒にいたいと願うのは私の身勝手ではないかとすら思えてきました。
「この子はわたしの後継者の一人として大切にするつもり。だから紅花姫ちゃんが心配することなんて何もないよー」
魔女王の言う通りなのかもしれない。
でも、魔女っこはまだ気を失ったままです。
本人の口から魔女の里へ行きたいと聞くまでは、私は全力で仲間を守らないとだよね。
「それでも、一度は、こちらに、返して、もらいますよ!」
空へ向かって蔓を伸ばします。
けれども空を自由に飛び回る魔女王は、簡単に蔓を避けてしまいました。
「どうやら大人しく従うつもりはないようだねー。なら、人の言うことを聞けないお花には、わたしが教育してあげるよ」
魔女王はなぜかおいしいデザートを見つけたような顔をしながら、私を見てきました。
「グローア、この子連れて先に戻っていなさい」
と、魔女王が部下へと魔女っこを渡します。
部下の女王補佐さんは「グローア」という名前の魔女みたいだね。
このまま黙って二人を見送るつもりないの。
私と同じことをドライアド様も思ったみたいで、すぐに臨戦態勢に入ります。
「貴女たちはわたくしの姉を陥れました。詳しくお話を聞かせていただきましょうか」
ドライアド様と共闘です。
ついでに妹分であるアマゾネストレントもやる気満々みたい。
幼木ドライアドのフェアちゃんも「母上、手伝うー!」と頑張ってくれるようです。
よーし、ドリュアデスの森の女の力を見せてあげましょうー!
「精霊魔法『大森林の支配権』」
ドライアド様が地中から植物を急成長させようとします。
先ほどの姉ドライアドとの戦闘で、私はニーナの体を使って『滅消の御神光冠』を放ちました。
そのせいで、周囲の植物は全て消滅してしまっているの。
だからまずは、森を再生させることから始めるつもりみたい。
精霊魔法を見た魔女王が、「にゃはは」と面白そうに笑います。
「ドライアドは厄介だね。なら、攻撃手段を封じちゃおうか」
白色の魔女王を中心に、突如嵐が吹き荒れ始めました。
冷たい風に混じって、大粒の雪と氷が飛んできます。
森を猛吹雪が襲いました。
もしかして魔女は自在に天候を操ることができるのかな。
でも、これは悪天候とかそういう次元じゃないって。
氷龍と相対していると錯覚してしまうようなプレッシャーだよ。
気がつくと、地面は分厚い氷の床に包まれていました。
ドライアド様が成長させようとした植物も全て凍ってしまったみたい。
それだけじゃなく、私の妹分であるアマゾネストレントまでカチカチの氷漬けになっちゃっているよ。
ぐぬぬ、よくも私の妹分を。
許せません。
テッポウウリマシンガンを食らわせてあげましょう。
「紅花姫ちゃんも凍ってね~」
ちょ、ちょっと待ってよ。
攻撃する前に、私も氷漬けにされちゃったんだけど……!
既にこの辺りの気温は氷点下を切っているみたい。
しかも私と同じように、ドライアド様とフェアちゃんの体も氷に包まれてしまいます。
まさか私だけでなくドライアド様まで魔女王に手も足も出ないなんて。
く、悔しいよ。
でも、このまま終わるわけにはいかないよね。
私は寒さくらいでやられるような女でも植物でもないんだから!
私はザゼンソウの能力で自家発熱を行います。
冬が苦手だった私はもういないのだ。
私の全身を拘束していた氷の呪縛は、一瞬のうちに氷が溶けていきます。
──あれ。
なんだろう、この感じ。
自分の体を品種改良するのが、前よりも楽になった気がする。
むしろ加減がわからなくなって、高温になりすぎてしまったの。
どうしちゃったんだろう、私の体。
「へえー、氷を溶かせるんだ。紅花姫ちゃんやるじゃん」
春の花のように雪解けをした私を、愉快そうに魔女王が見降ろしてきます。
「それでこそユニークモンスター。名付け親としても鼻が高いよ」
「名付け、親?」
「紅花姫という名前はね、わたしが考えたんだよー」
この名前は、私を討伐しに来た街の冒険者たちから耳にした言葉です。
冒険者組合が二つ名を決めたと思っていたけど、それと魔女王が関係あるとは思えないけど。
「ドワーフの冒険者に変身していた時に冒険者組合にわたしがその名前を提案したんだよ。気に入ってくれたー?」
そ、そうなの!?
まさか私と魔女王との間に、知らないうちにそんな繋がりがあっただなんてビックリです。
なんだか複雑な気分だけどね。
「自分で名付けたモンスターを自分の手で摘み取る。それもなかなか面白そうだよね」
魔女王は私を見ながらペロリと舌なめずりをします。
さっきからなぜか少し変な視線で見てくるんだよね。
「ユニークモンスターのアルラウネとなれば良い媚薬が作れるだろうし、楽しみだね~」
なんか今、聞き捨てならないようなことを言われた気がするんですけど……。
植物ではなく人間だった頃なら、絶対に聞くことはなかった言葉です。
「私を、どうする、つもり、ですって?」
「にゃはは、もちろん薬の調合に使うに決まってじゃん。わたしは魔女だから、植物モンスターは材料にしか見えないんだよねー」
「……材料?」
「アルラウネは良い媚薬になるんだよー」
それってつまり、私が媚薬の材料になるってこと……?
そ、そんなぁ。
媚薬にはなりたくないよぅ…………。
「紅花姫ちゃんはさ、聖女とドライアドを吸収して大物食いをしているから勘違いをしているかもしれないけど、いくら強くてもあなたは植物のモンスターなの」
宣言するように、魔女王が私に言い放ちます。
「地面から離れられない哀れな植物。少し知能を持ったからといって、魔族や人間の仲間になったつもりでいるのかしら」
憐れむような視線を送ってくる魔女王。
魔女にとって植物である私は、対等な存在ではなくただの調合の材料でしかないようです。
久しぶりに種族差で区別されることを味わったね。
ドリュアデスの森では街の冒険者を除いて、みんなが私のことを仲間だと認めてくれていた。
魔王城でも、そこまで植物モンスターだからと嫌な扱いはされなかった。
今思えば、炎龍様たち魔族は、私のことを仲間だと認めてくれていたんだね。
ちょっと懐かしく思えてきたよ。
魔女っこと一緒に暮らしていたから、魔女についても少し詳しくなったつもりでいました。
でも、どうやら私はまだ本当の魔女の生態を知らなかったみたい。
「にゃはは」と目を輝かせながら、魔女王は一方的に告げてきます。
「わたしが効き目抜群の媚薬に調合して、紅花姫ちゃんを有効活用してあげるよ!」
アルラウネではなくマンドラゴラ(マンドレイク)になりますが、実際に古代~中世にかけて媚薬として使用されていたようです。そのためマンドラゴラは日本語で「恋なすび」とも呼ばれます。
次回、媚薬にはなりたくないです。