16 あんなことされちゃったけど誰か私をお嫁にもらってください
ある日、森のなかでクマさんに顔をペロペロされました。
花咲くアルラウネの蜜を気に入ったクマさんは、さらに私をペロペロし始めました。
くっそうー。
なんでさ。
なんで私がこんな目に合わなくちゃいけないの。
本当だったら私は今頃、王城で婚約者であり王子である勇者様と結婚して、毎日が楽しく新鮮で幸せに包まれた新婚生活を送っていたはずなのに。
それがなんで森の中でクマに顔を舐められ続けるという羞恥プレイを受ける羽目になっているわけさ。
これも全ては極悪非道の聖女見習いのクソ後輩のせいである。
クソ後輩と婚約者の勇者様に裏切られて体の四肢を切り落とされ花のモンスターに生きたまま食べられた結果、魔物のアルラウネに転生してまさかの植物の生活ですよ。
しかも森の中で巨大なクマに身体をホールドされながら顔をペロペロされるという特典付き。私にそんな変態な趣味はないぞー!
ねえ、クマパパ。
お願いだからもうペロペロしないで。
もう十分でしょう、何時間私を舐めまわせば気が済むの。
もう涙も止まらない。蜜だけど。
目から蜜が流れるたびにペロペロされるけどね。
ねえ、ちょっと。
顔は諦めたけど目玉はやめて。
そこは舐めないで。お願いだから。顔は差し出しますから。
うぅ……。
もうやめてよぉー。
なんでこんなことするの。
そんなに私の蜜が好きなの?
でも私は嫌なの。だからもう放っておいてよ。
この地獄を脱出するにはどうしよう。
早くしないと、またクマパパが強硬手段に出るかもしれない。
蜜に満足されたら、また根を引っこ抜かれるかもしれないしね。
そうして巣にお持ち帰り。
私、まだ殿方にお持ち帰りをされた経験もないのに、初めての相手が子持ちの野生のクマのオスとかありえないのですが。
せめて森の洞穴じゃなくて宮殿とかに住んでいたりしないよね。森の主だから実はお金持ちだったりしないよね、クマパパ?
私が絶えず口から蜜を溢れされているからだろう。
クマパパは重点的に顔をペロペロし続けている。
まだ私の全身を舐め回してはこない。
顔は陥落した。
でも首から下は何が何でも死守してやる。
顔を舐められるというはじめての経験はクマに散らされたけど、胸とお腹、腰なんかは絶対にやらさせない。
しかも私がはじめて蜜を出した場所は胸である。
ここから蜜が出るとクマパパに知られれば、とんでもないことになる。
うん、本当にとんでもないことになるよ。
想像もしてはいけないような大変とんでもないことだよ。
だから私は諦めない。
これ以上好き勝手にはさせないぞー!
なんとかクマパパの注意を他にそらさないと。
とは言っても、私の蜜以上にクマパパに価値があるものなんてないよね。ハチさんみたいに共生もできないだろうし。クマパパはハチの巣だって舐めまわして女王陛下と女騎士を全滅させちゃっているからね。
この蜜以上に美味しそうなものがあれば…………あ、あったよ!
あれだよ、蜜玉。
蜜狂いの少年に餞別で渡したあの蜜玉。
回復魔法を込めた蜜を、何倍にも凝縮した蜜玉は通常の蜜を舐めたときよりも遥かに甘い味を堪能できるはず。しかも溶けにくい。
これしかない。
そうと決まればと、私はクマパパに舐められながら蜜玉の作成にかかります。
地中の水分を吸収して一緒に養分も補給。
その栄養を全て蜜へと変換させる。
回復魔法も忘れない。溶けにくくなるように蜜に治癒をかける。
その蜜を一層、二層、三層とどんどん重ねていく。
それを数えられないくらい凝縮し、蜜玉が完成した。
既に私の顔はクマパパのよだれだらけ。
でも、私の口からまた新たな蜜が溢れ出す。ただ、ちょっと出が悪い。
どうやら蜜玉を作るのに力を使っていたせいか、これまでよりも蜜の出が悪くなってきていたみたい。
だからだろう、恐るべきことにクマパパは私の口内から蜜を引きずりだそうとしてきたのだ。
クマパパは指を使って私の口を強制的に開かせた。
そうしてクマパパは自分の舌をUFOキャッチャーのようにすーと私の口の上へと移動させる。
え、ちょっと待って。
まずいって!
それは絶対にまずいって!
もう何もかもアウト。
顔を舐められるのがかわいいと思えるくらいありえないよ。
そんなことされたら本当にお嫁にいけなくなっちゃう。
イケメンの雄花に、「お前の柱頭からクマの匂いがする」とか言われた日にはもう花としてのプライドが引きちぎられてしまう。
まあアルラウネになっちゃったから、そもそもお嫁にいくつもりはないんだけどね。あくまで気分の問題だよ。
これはもう時間がない。
蜜玉計画を実行するしかないね。
私はクマよりも先に自分の口へと蔓を伸ばす。
幸い、クマパパの右手は私をホールドするのに使っていて、左手は口を開くので一杯だ。私の蔓を遮るものはなにもない。
クマパパと私。
クマパパが舌で私の体内の蜜ごと蜜玉を舐めとるが先か。
はたまた、吐き出した蜜玉を私が掴むのが先か。
どちらの動きが先かで全てが変わる。
私の嫁入り前の体と蜜が欲しいクマパパの舌を賭けた戦いが刹那の間だけ開始された。
クマパパの舌に捕まるよりも早く、吐き出した蜜玉を蔓で掴み取る。
やったね、私のほうが早かったよ!
蜜玉を持った蔓をクマパパに見せびらかせるように垂らす。
クマパパの動きが止まった。
大きく開かれた両目が、蜜玉を凝視する。最初から目はイっちゃっていたけど、これは今までよりもイカレた感じになっているね。
水が落ちてきた。
いや、これはクマパパのよだれ。
クマパパの口からよだれが滝のように溢れてきたのだ。
蜜玉の魅力に気がついたみたい。
そう、この蜜玉はただの蜜の塊じゃない。
特別な回復魔法が籠もった甘くて濃厚な蜜を何重にも凝縮したもの。
ひと舐めするだけで、きっとあの蜜狂い少年のように蜜の虜になってしまうほどの極楽を味わえるはずだ。
クマパパの手が私から離れた。
蜜玉を狙っているんだね。
でも、それはお見通し。
クマパパに捕まる前に、私は蔓を大きく弓のようにしならせる。
これがそんなに欲しければ、くれてあげるよ。
自分で取ってきな!
えいやっ!
蜜玉を投擲。
かなり勢いがついたせいか、けっこう遠くまで飛びそうだね。
森の主、ラオブベーアは森で出会った人間を死ぬまで追いかけると言われている執念深い魔物である。
蜜玉を求めたクマパパは、すぐさま私から離れて蜜玉が飛んで行った方向へと四足歩行で駆けだした。
やった、これで解放されたよ!
蜜玉作戦成功だね。
だが、そこで予想外のことが起きたのだ。
どこからともなく白い鳥が飛んできた。
最近、よく私の目の前に現れるあの白い鳥である。
あの鳥、この辺に巣でもあるんじゃないかと思うんだよね。もう顔見知りだと認めざるを得ないくらい私はあの白い鳥を目撃しているから。
その白い鳥が、蜜玉が飛んで行った方へ急旋回する。
そうして私が投げた蜜玉を、空中で咥えてキャッチしたのだ。
────うそでしょう。
信じられない。
なにやってんのあの白い鳥ぃいいいいいいいいい!!
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明日も一日二回更新を予定しております。
次回、急募、地面に生えている植物が空を飛ぶ鳥を捕まえる方法です。







