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151 精霊の枝

 私、植物モンスター娘のアルラウネ。

 姉ドライアドを炎で倒して、神樹から落ちてきた枝を蔓で(つか)んだところなの。



 この枝だけ燃えずに落下してくるなんて怪しすぎるよね。

 しかもさっき、上から誰かの声が聞こえた気がする、絶対この枝には何かあると思うよ。



「捕まえた」



 わざとらしく声をかけてみたけど、枝は反応しません。

 もしかしてシラを切っているつもりかもと思い、ネナシカズラで枝に噛みつきます。



「痛い……や、やめなさい!」



 枝から姉ドライアドの声がしました。

 やっぱりこの枝、ドライアドの本体だったんだね。

 姉ドライアドは神樹から緊急脱出して、本体を枝に変えたんだ。



 どうやら姉ドライアドは、精霊の身体を出現させる体力も残っていないようです。

 おそらく枝を地面に刺すことで挿し木をして、また木に戻ろうとしているのでしょう。

 でも、そうはさせないよ!

 こうやって蔓で枝を捕まえていれば、再び木に戻ることは阻止できるのだ。



「アタシを捕まえて、さぞかし気分が良いことだろうねえ」



 枝にまでなっても生き(なが)らえているだんなんて、さすがに姉ドライアドはしつこすぎたよ。

 他人のこと言えないのはわかっているけど、植物って本当にしぶといよね。



 私がネナシカズラで姉ドライアドの枝に噛みついて憂さを晴らしていると、いつの間にか妹のドライアド様が私の近くに移動してきていました。

 (あわ)れむような表情のまま、妹のドライアド様は姉に声をかけます。



「エッフェンお姉さま……」


「ザーリゲかい、まさかアタシがお前たちに負けるとは思ってもいなかったねえ」



 もしかして、それはドライアド姉妹の名前かな。

 そう思っていると、妹のドライアド様が姉ドライアドに叫ぶように問いかけます。



「なぜあの時、森を出て魔王軍に入ってしまったのですか? ずっと森に戻ってくるのをお待ちしていましたのに……」


「ふんッ、アタシを裏切った口でよくもそんなことが言えるねえ」


「誤解です、わたくしはお姉さまを裏切ってなどはいません!」


「誤魔化そうったって無駄だよう。アタシはあの時、見てしまったんだからね」



 姉ドライアドは妹に恨みがあるようなことを言っていました。

 50年前、この姉妹の間にいったい何があったんだろう。

 そう思っていたら、どうやら私は少し油断してしまったみたいです。



「まだアタシは負けていない。アルラウネの身体を利用すれば、また力を取り戻すことができるのだから!」



 滑るようにドライアド枝が移動します。

 そうしてグサリと、私の球根に神樹の枝が刺さりました。



「ひゃっ!?」



 私の身体の中に、異物が差し込まれていきます。

 枝の先端から根っこが伸びて、私の中を侵食するように犯していくのがわかりました。なんだか気持ち悪いよ。


 体内から姉ドライアドの声が響いて聞こえてきます。



「アタシの一番の天敵は炎龍であるグリューシュヴァンツ様だと思っていたけど、どうやら違ったようだねえ。まさか同族相手にここまでてこずるとは思わなかったが、その力を今度はアタシが使ってやろう」



 ──うぐっ。

 どんどん中に入ってくるよ。



「お姫様がアタシにしたように、このまま身体を乗っ取ってやるからねえ!」



 姉ドライアドは往生際(おうじょうぎわ)が悪すぎだって。

 この期に及んで私を殺そうとしてくるなんて、神樹から枝になっても()りてはいないみたい。



 そうこうしているうちに、球根に刺さった姉ドライアドの枝は、完全に私の体内へと潜り込んでしまいました。

 同時に、第三者の思念のようなものが私の中になだれ込んできます。

 姉ドライアドが私の身体を乗っ取ろうと攻撃しているのだ。



 枝はさらに内部へと潜り込んできます。

 ここまで奥に入ってしまったら、外から引っ張るのは難しいよ。

 なら、内部から取り出してしまえばいいよね!



 私は蔓を下の口の中へと入れて、内側から自分の身体を突き刺します。

 球根内部で同化しようとしていた姉ドライアドの枝を蔓でつかみ取って、口内へと引きずり出しました。

 その結果、下の口で枝を捕食したような形になったね。



「ドライアドであるこのアタシが、アルラウネなんかに食べられてなるものか!」



 暴れる神樹の枝を蔓で抑え込んで、下の口で咀嚼(そしゃく)します。

 消化液でおしおきです。

 いい加減、大人しくしてくださいよね!



「こんなことあるわけない…………このまま消えてなるものかぁああああああ!!」



 姉ドライアドが最後に絶叫すると、一気に静かになります。

 程なくして、枝は消化されました。

 

 

 ──終わった。


 そう思った瞬間、身体の中で何かが爆発したような感覚に襲われます。

 まるで、見えない誰かが私の中で暴れているみたい。



「姉の精霊の魔力が暴走しているのです!」



 妹のドライアド様が私の身体をつかんで、必死に抑えてくれます。

 それでも発作が収まらないよー。



「このままでは、アルラウネが姉に乗っ取られてしまいます。今すぐに姉を吐き出してください!」



 うっそー!?

 枝を消化したと思ったけど、同化しようとしていたんだ!

 姉ドライアド恐るべし。

 なんとかして生き延びようするその執念だけは尊敬に(あたい)するよ。

 


 でも、吐き出すってどうすればいいんだろう。

 もう枝は溶かしちゃったし、どうしようもないよ。



「種にして外に出してしまいなさい!」



 妹のドライアド様その言葉を聞いて、なるほどと私は行動を始めました。

 膨張しようとしている精霊の魔力を種の中に押し込めます。

 このまま強い魔力を持ったまま外に出しても大変そうなので、品種改良をしていくらか力を奪い取っておくよ。



 慣れた手つきで、蔓に作った小さな花に受粉させます。

 そうして、精霊の魔力が籠った種を、体外に吐き出しました。



 ポトリと種が地面へと落ちます。

 同時に、私の中で暴れていた精霊の魔力も収まりました。

 どうやら姉ドライアドに身体を乗っ取られずに済んだみたい。



 ほっとひと息ついていると、産んだばかりの種が発芽していきました。


 種は背の低い幼木(ようぼく)へと成長していきます。

 そうしてその幼木から分裂するように、小さな精霊の姿が出現しました。



 青色と赤色の蔦の髪を持つ、幼女が現れたの。

 姉ドライアドの子供の頃はこういう顔だったのかな、というような容姿をしています。



 妹のドライアド様もそのことに気がついたみたいで、「お姉さまなのですか……?」と生まれたばかりの精霊に声をかけました。



 私も唖然としながら小さな精霊を見ていると、突然その子が「母上」と口を開きます。

 


「アルラウネの母上!」



 私を指さしながら、生まれたばかりのドライアドが満面の笑みで声を発してきました。


 毒気が抜かれたその言葉に、私はぽかんと硬直してしまいます。

 だって小さくなったとはいえ、宿敵であった姉ドライアドに「母上」と呼ばれてしまったら、どう反応していいかわからないんだもん。



 事態をいち早く察したのは、妹のドライアド様でした。

 冷静そうな口調で私に説明してくださります。



「どうやら姉の記憶はなくなっているようですね。アルラウネを通して、新しいドライアドとして生まれ変わったみたいです」



 えぇええええ!

 てことは私、ミニドライアド産んじゃったってことー!?

 しかもその中身は姉ドライアドなわけでしょ?

 ちょっと現実を受け入れられそうにないのですけど……。


 

 小さなその精霊は「母上ー」と言いながら、無邪気そうに私に笑いかけてきます。

 本当に以前の記憶はなくなっているみたいだね。

 


 たしかに髪の色は姉ドライアドの青色だけでなく、私の花の遺伝子を受け継いでしまったみたいで赤色の部分もあります。

 姉ドライアドを種にしたときに私の遺伝子を継承したことで、精神も混ざり合って上書きされてしまったのかもしれないね。

 

 


 両手を上げてわーいと喜んでいる幼女ドライアドの頭を、妹のドライアド様がぽんぽんと撫でました。


 

「これならもう二度と悪さを働くこともないでしょう。そうならないよう、わたくしがしっかりと育てたいと思います」



 そう言ったドライアド様は、少し寂しそうな顔をしていました。

 今まで存在していた姉は消えてしまって、こうして新しく生まれ変わってしまったのだからね。

 目の前にいるのに、もう二度と昔の姉と話すことはできない。

 そんな複雑そうな表情をしている気がします。



「姉がこうなってしまったのは(さいわ)いかもしれません。ですが、アルラウネの身体は大丈夫ですか?」と、ドライアド様が心配そうに私の顔をのぞいてきました。


 

「平気、です」



 さっきまで身体の中で暴走していた精霊の魔力は、全て吐き出したの。

 もう体内に姉ドライアドの痕跡を感じることもない。

 だから、また同じようにドライアドの幼木を産むこともできないと思う。


 それでも、私の中に誰かの記憶の残滓(ざんし)のようなものが残っていました。


 


 その記憶は、姉ドライアドにとって忘れがたいものだったのだとすぐにわかりました。

 おそらくこれは、50年前の記憶。

 姉ドライアドが恋人であった先代の勇者に、裏切られたというものです。

 ですが、私はその記憶を知って、なにか違和感を覚えてしまいました。


 

 実際にそのことを体験した姉ドライアドは当事者だからこそ、冷静に判断できなかったのでしょう。

 その不思議な点について気がつくことはできなかったようです。

 

 だけど、無関係な第三者だからこそ気がつくことができるような、些細(ささい)な矛盾のようなものをその記憶から感じてしまったの。



「ドライアド様、教えてください」



 何をですかと、ドライアド様は私に返答します。



「50年前に、何があったのかを」


ドライアド様は少しの間を置いて、「良いでしょう」と小さく答えました。



「ですがお恥ずかしいことに、わたくしは50年前、ほとんど結界の中に引きこもっていました。なのであの日の出来事の詳細は、後日その場にいた勇者の仲間から聞いたことでしか知らないのです」


「勇者の、仲間、ですか?」


「彼は当時のことを良く知る唯一の人間でしょうね。それでも知りたいというなら、お話しましょう」



 私が姉ドライアドの残滓から読み取った記憶は、写真のような断片的なものでしかないの。

 多分だけど、姉ドライアドの記憶を取り込まなかったことで、私の身体は姉ドライアドに乗っ取られずに済んだんじゃないかと思います。

 そうしてできた記憶の穴を埋めるために、どうしても他の人物の証言を知りたいの。



「教えて、ください」


「……わかりました」


 ドライアド様はそう言って、姉ドライアドのことをゆっくりと語り始めます。



 けれども、その話はただの昔話ではありませんでした。


 驚くことに、ドライアド様が語る内容は、私にとっても無関係なことではなかったのです。



 ですが、私の人生に影響を与えるような内容がその話の中に含まれていたことを、この時の私は気づきませんでした。


長かった姉ドライアドの戦いもついに決着がつきました。

50年前に何があったのか、そして先代勇者の仲間とはいったい誰のことなのでしょうか。


次回、新米賢者の大陸見聞録です。

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― 新着の感想 ―
[一言] よく考えると先代アルラウネは一度、聖女にそうやって乗っ取られたんだものな……何でもホイホイ拾い食いするもんじゃないねー
[良い点] ホントに母親になっちゃいましたね(笑) ロリドライアド、かわいいわぁ(^o^) [一言] サンボンさんのおすすめで来ました〜 やっとおいついたぁ\(^o^)/
[良い点] 幼木姉ドライアド可愛いです!……妹さんの性格見てると昔は純粋だったんだろうなぁと。不倫勇者の親かなと思いますね。業が深いなぁ [気になる点] アウラウネ は 元姉ドライアド の 魂の欠片 …
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