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149 アルラウネvsドライアド その8

 私、巨大植物モンスター娘のアルラウネ。

 球根の下に咲かせたラフレシアを怪獣サイズにさせて、神樹化した姉ドライアドと対峙しているの。



 野球ドームよりも大きくなったラフレシアの身体に、元のサイズのままのアルラウネの身体が小さく生えています。


 見た目だけなら、前世のアニメや怪獣映画で敵役の化け物とかで出れそうな気がするね。

 綺麗なお姉さんが化け物と合体していたりするのを見たことがあるの。

 姉ドライアドも私も、今はそんな感じ。


 よくそういう時、巨大化は負けフラグって聞いたことあったけど、自分も相手も巨大化した場合はどうなるんだろう。




 とにかく、そうやって巨大なラフレシアの花を咲かせたことで、私の身体から大量の黄色い気体が空に放たれました。



 ラフレシアはね、花を咲かせると腐臭を放つ植物なのです。

 その匂いに誘われてやってきたハエに花粉で運んでもらって、受粉をする生態なわけ。


 とはいえ、自分の身体から腐臭が放たれるのは乙女として許せません。

 魔女っこに臭いと言われて近づいてもらえなくなっちゃうに決まってるの。

 そんなの断固として反対だよ!


 なので、ラフレシアを品種改良して、腐臭ではなくフローラルな良い花の香りがする花へと変化させちゃいました。

 こうやって自分自身ですら改造できるんだから、私の身体って結構便利だよね。



 ラフレシアは花が咲いた瞬間に、匂いを周囲にばらまきます。

 だからこの改良ラフレシアからは、私の花の香りが解き放たれることになるね。

 

 ブワッっと音を立てながら、ラフレシアから黄色い気体が空へと放たれました。

 香りに混じって蒸散させた蜜も大量に漏れちゃった気がするけど、まあ別に平気だよね。

 臭いよりは甘い香りのほうがみんなも良いと思ってくれるはず。



 そして、ラフレシアの花を開いたことで、既に私の攻撃は始まっているの。



 空を覆っていた神樹の枝が枯れて、ボロボロとなって落下してきました。

 その様子を見た姉ドライアドが、慌てたように私を(にら)みつけます。



「アタシの枝が枯れている……お姫様いったい何をしたんだい!?」



 何をしたって、たいしたことはしていませんよ。

 あえて言うなら、姉ドライアドさんの身体を少しお借りしたということでしょうか。



 実はね、大きな花を咲かせることで有名なこのラフレシアは、寄生植物なの。


 しかもネナシカズラと同じで完全寄生植物という種類です。

 葉や茎がないだけではなく、光合成することもない。

 ラフレシアは宿主から吸い取る栄養のみで成長するのだ。


 本来、ラフレシアはブドウ科の植物に寄生して花を咲かせます。

 けれども、捕食した際に品種改良をして他の木にも寄生できるようにしちゃいました。

 


 そして巨大ラフレシアを咲かせた私も、実はこの完全寄生植物であるラフレシアと同じことをしているの。

 神樹となった姉ドライアドの根っこに、土の中で細い糸状の根を食い込ませて寄生しています。



 だから勇者の兜の光のエネルギーだけでなく、神樹の栄養も一緒に吸い取って巨大ラフレシアとしてここまで大きくなったわけ。


 


 私に養分を吸い取られすぎたせいで、神樹の枝が枯れちゃったんだね。

 開花しそうになっていた(つぼみ)も、ちょっと(しな)びているように見えるよ。

 

 神樹の栄養おいしかったです。

 ごちそうさまでした!



「この感覚、もしや根から力を吸い取られているようだねえ。随分と器用なことができるじゃないかい」


「お褒めに、あずかり、光栄、です」



 姉ドライアドは身体を巨大化しすぎて、私の小さな寄生根に気づかなかったというわけ。

 そこに付け入らさせてもらいました!



「まあいいさ。いくらお姫様がこちらの力を奪い取って大きくなったとはいっても、植物を支配するドライアドであるアタシが、植物モンスターに負けるはずはないからねえ!」



 神樹から巨人の腕のような枝が伸びてきます。


 対抗するため、私は植物生成で巨大なガジュマルの根を作りました。

 巨大ガジュマルで神樹の枝を締めつけます。



「力は互角のようだねえ。本当に末恐ろしいアルラウネだよう」

 


 互角?

 いや、私が少し押されているよ。

 

 まだ神樹に対抗するパワーが足りないみたい。

 もっと力が欲しい……!



 体内に取り入れていた勇者の兜から光のエネルギーを搾り取ります。

 同時に、ラフレシアで神樹の養分をどくどくと吸い取るよー。


 再び急激に成長したことによって、ガジュマルがさらに巨大化しました。

 神樹の幹と同じくらいの太さになったガジュマルが、姉ドライアド枝を締め砕きます。


 悲鳴を上げるように姉ドライアドが「いったいどこまで成長するのかいっ!」と叫びました。


 


 神樹の枝を粉砕したあとは、本体の幹だよ。

 ガジュマルのしめつける攻撃!



 ────ダメ、思ったよりも硬すぎです。

 もっと硬い何かで攻撃しないと、すぐにはダメージを与えることはできないかも。

 



 なら、巨大蔓を勢いよく伸ばして、神樹の幹に叩きつけるよ!

 遠心力をつければ、その破壊力は何倍にも膨れ上がるのだ。

 長くて太い蔓を生成して、大きく水平に振りかぶります。



 ──グシャーン!



 あれ…………今、蔓に何かぶつかったかも。

 続けて背後の塔の街のほうで、何かが壊れるような音が聞こえてきたね。



 後ろを振り返ると、不思議なことに先ほどまで存在していたはずの街のモニュメントであった女神塔がなぜかなくなっていました。

 


 も、もしかして、私…………やっちゃったのかな?



 塔のあった場所に蔓を伸ばしてみると、何か大きくて細長いものを掴むことができました。



 まさかと思いながら、その細長い物を森に引き寄せます。

 すると、蔓にはなぜか炎で燃えている塔の上半分が握られていました。




 どうしましょう。

 私、女神の塔を壊しちゃったよー!



 女神様ごめんなさいー!!


 私、元聖女なのになんてはしたないことを。

 多分、女神の塔をうっかり壊してしまった聖女は、長い教会の歴史の中でも私しかいない気がするの。



 私が両手の指を互いに組み合わせて心の中で女神様に謝っていると、姉ドライアドが「どういうことだい?」と唖然としたような声をかけてきます。




「その祈り方は人間の教会のもの。なのに、なぜただの植物モンスターであるお姫様がその方法を知っているんだい? それだけじゃない、そもそも女神の塔を前にしてなぜアルラウネが祈っているんだい?」



 普通、その辺のモンスターが人間の教会が信仰する女神の塔を祈ることはしません。

 たしかに私の行動はかなり奇異に映ったかも。

 


「人間が、こうやって祈るのを、見て、覚えていたの」



 私がそう言い訳をしても、姉ドライアドは聞き流すように何かを考えているようでした。

 そうして思いついたようにそれだけじゃないと、言葉を続けます。



「いくら聖女を食べて力を吸い取ったとしても、勇者の兜を自在にコントロールするなんてこと、ただの植物モンスターにできるとは思えない。それに、先ほど聖女見習いの人間を操って高位の光魔法は放ったことや、その瓜二つの外見のことを考えると……」


 ハッと何かに気がついたような表情となった姉ドライアドが、私の瞳をゆっくりと見つめてきました。



「まさかお姫様、聖女イリスそのものなのかい……?」


「…………ふふ、どうでしょうか」


 

 蠱惑的な笑みを作りながら、私は地上に残されているトレントと妹のドライアド様へと目を向けます。


 巨大化した私と姉ドライアドの声は、はるか眼下にいる妹のドライアド様やアマゾネストレントまでは届かないはず。

 ならここでの会話は、私と姉ドライアドにしか聞くことはできないね。



「聖女としての、私の心が、この身に、残っている限り、悪しき精霊を、このままに、しておくわけには、いきません」


「やはりお姫様は聖女イリス…………聖女がなぜアルラウネに!?」



 それは私も教えて欲しいことですよ。

 なりたくてなったわけじゃないからね。

 まあ、あのまま死んでしまうのに比べたら、植物モンスターになって命が繋がったことは感謝でしかないかもしれないけど。



「聖女イリス、貴女の目的はいったい何だい?」


 

 私の目的ですか?

 そんなこと、決まっているじゃないですか。



「光合成しながら、静かに、植物ライフを、過ごすこと、ですよ」



 私は一度、聖女として……人間として死んだ。

 そして、この身体は完全に植物であるということは理解しているの。

 何度も種となって身体を転生させている今、もう人へ戻ることはできないと確信してしまっています。


 それに自由に歩くことができないから不便だけど、この植物の身体も気に入ってしまったの。

 アルラウネだから私のことが好きだと言ってくれる、家族のような存在もできてしまったしね。



「それなら、やはりアタシと一緒に手を組まないかい? 植物がそんなに好きなら、人間を滅ぼして二人で植物の王国を築こうじゃないか」


「私は、人間が、好きなの」



 たしかに私を裏切って殺した相手も、人間です。

 そのせいで私は植物モンスターになってしまった。



 それでも、魔女っこやニーナたち、人間が今でも好き。

 だから、人間を絶滅させて植物の世界を作ろうとしている姉ドライアドとは、絶対に道を同じにすることはありません。



 そして、ここで私が自分の正体を明かしたのは、覚悟を決めたから。

 姉ドライアドを完全に亡き者にするという、宣言でもあります。



「あなたは、私の、秘密を、知りました」



 だから、このままにしておくわけにはいきません。


 聖女イリスがまだ生きていること。

 しかも植物モンスターのアルラウネになっているなんて、魔王軍や他の人間たちに知られると困るんだから。


 姉ドライアドさん、私が聖女イリスだと気がついてしまったことを、今更後悔しても遅いです。


 私の秘密は高くつきますよ。

 


 秘密を打ち明ける代償として、あなたの全てをいただきますわ。

ラフレシア:ラフレシア科の寄生植物。主に東南アジアの熱帯地域に分布しています。発見当初は「人食い花」として恐れられていたそうです。


長かった二人の戦いも、そろそろ決着の時となります。


次回、アルラウネvsドライアド その9です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >女神の塔をうっかり壊してしまった聖女は、長い教会の歴史の中でも私しかいない 植物モンスターになった聖女も歴史の中で( しかし、この騒動が収まったら、周囲が蜜でベタべタしていそう……
[一言] クックック秘密を知ってしまったからには死んでもらいましょうか… 完全に敵役やで…
[良い点] 姉ドライアド最終形態は普通に戦えば… 最強クラスの敵なのに、相手が悪すぎましたね… アルラウネと敵対したことが不幸の始まりでした。 (;^o^) 姉ドライアドが三精獣達がいる所に逝くカウ…
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