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書信 出稼ぎ冒険者の塔の街騒動記 後編

引き続き、元伍長の出稼ぎ冒険者さんの視点です。

 俺の名前はフランツ。

 塔の街で出稼ぎの冒険者している。



 領主様の館でトロールに襲われた俺は、領主様と一緒に街を逃げ回っていた。

 

 街の人々はみな、どういうわけかトロールにされてしまっている。

 故郷にいる家族に目の前で起こっていることを話しても、きっと信じてくれないだろう。

 

 そしてこの悪夢としか思えない状況を救ってくれそうな人物に、俺は一人だけ心当たりがあった。



 聖女見習いであるニーナ様である。

 女神様より授かったという光魔法を扱えるニーナ様なら、この惨劇から街を救うことができるかもしれない。


 そのわずかな可能性に賭け、俺と領主様は教会へ目指す。



「フランツ見よ、トロールが追って来たぞ!」



 後ろを振り返ると、トロールの大群がこちらの方へと迫ってきていた。

 怖すぎだろう、こんなの!

 俺がいったい何をしたっていうんだ!



 領主様を連れて街中を走って逃げるが、どんどんと追手のトロールが増えていく。

 やはり領主様を狙っているようだ。



「フランツ決めたぞ。もし生き延びることができたら、もっと早く走れるよう運動をする」


 

 たぷんたぷんと揺れるお腹を抱えながら、領主様が必死に走る。

 護衛となる騎士団員がみんなトロールになってしまった今、この領主様を守るのは俺一人。

 けれども、このまま俺だけでは戦うのは不可能。

 早く教会にたどり着かないと!



「そこの人間、待ちなさい」


 突如、空から声が聞こえてきた。

 視線を上げると、箒に乗った白髪の女性がその場に浮遊していた。

 いったいこれはどういう状況なんだと、再び目を疑いたくなる。



「忙しそうにしているところ申し訳ないのですが、この街の冒険者組合というのはどこにあるのでしょうか?」


 

 なんなんだ、この女は?

 街でトロールたちが大暴れしている最中に、冷静そうな口調で俺に道を尋ねてくるなんて理解できないぞ!

 まあ、箒で空を飛んでいる時点で俺の許容を超える存在なのは間違いない。



 おそらく魔女だろう。

 先日の魔女狩りの魔女は真っ白な髪をしていたらしいが、この魔女は白髪の一部が金色に染められている。

 ということは、魔女狩り部隊が追っていた魔女とは違うのかもしれないな。



 というか、なんでこんなところに魔女がいるんだ?


 思えば、俺の人生は魔女狩りの部隊として伍長をしていた時から狂い始めた。

 できれば二度と関りたくないし、今は魔女と悠長に話している暇はない。

 この魔女は空を飛んでいるから危険はないが、俺達の背後にはトロールの大群が今にも迫っているのだ!



 細かいことは考えないことにした俺は、「冒険者組合ならあちらの方角です」と指をさして魔女に教えてやる。



 すると、「助かりました」と魔女から感謝を述べられた。

 まさか人間の敵である魔女と会話が通じるなんて驚きである。



「まったく、あのお方は人使いが荒いのですから…………あら、後ろの醜い方々は人間のお友達かしら?」



 魔女は俺たちにそう告げると、冒険者組合の方角へと箒で飛び立ってしまった。

 同時に、背後からトロールたちの足音が響いてくる。

 


 まずいぞ、トロールたちに追いつかれた!


 俺と領主様は全速力で教会へと走り出す。

 どうやら魔女と出会ったことで運が向いて来たのか、進行方向でトロールと会うことはなかった。




「領主様、教会が見えましたよ!」



 炎魔法でトロールを撃退しながら移動を続け、ついに教会までたどり着いた。


 この中に入ればきっと安全だ。

 ニーナ様と合流して教会の中に籠城(ろうじょう)すれば、とりあえずトロールに襲われる心配もなくなる。



 だが、聖なる教会ならトロールの手は入っていないだろうという俺の考えは、甘かったのだと思い知らされることとなる。


 

 教会の扉の中から、トロールがぞろぞろと現れたのだ。

 既に教会もトロールの巣窟となっていたらしい。

 


 前方には教会のトロールたち、後ろには追手のトロール軍団。

 しまった、挟まれたぞ!



 逃げ道が封じられ、追い詰められたネズミのように身を縮ませる領主様。

 完全に囲まれてしまって、お手上げ状態である。



 そんな俺たち背後には、塔の街のシンボルである女神の塔がそびえていた。

 遥か遠くの聖都にあるといわれる本物の女神の塔を模して造られたのが、この塔らしい。

 その模造の塔に対して、命の危機を迎えている領主様は祈るように天を(あお)いだ。



「女神様、どうか我らをお助けください」



 そんなことをしたって、女神様が助けてくれるなんてことあるわけない。

 祈るくらいで助かるなら、魔女狩りの時に同僚の兵士たちが炎のドラゴンに襲われることはなかっただろう。

 

 ところが想いが通じたのか、一心に女神に祈りを込めていた領主様が、困惑したような声を上げる。



「なんだ、あの化け物は……?」



 領主様が空を指さしながら、震え始めた。

 続いて、何かが破壊されるような轟音が辺りに響き渡る。



 何事だと上を向くと、女神の塔が巨大な蔓のようなものに薙ぎ払われるところが目に入った。

 この街の象徴である女神の塔が、破壊されたのだ。



 本当にいったい何が起こっているんだよ!

 

 とはいえ、空に伸びる謎の蔓のことよりも、上から落ちてくる塔の破片の方が問題である。



 幸運なことに、折れた女神の塔の上半分は俺たちとトロールとの間に落ちてくれた。

 そのおかげで塔が壁のようになって、トロールたちの攻撃を塞いでくれたのだ。

 だが、このままでは横倒しになった塔の上をトロールたちは乗り越えられるかもしれない。

 トロールが近づけないよう、もうひと手間加える必要があるな。



「女神様、悪いですがこのチャンスを活用させていただきます」



 俺は炎魔法を横倒しになった塔に放つ。

 塔が炎上したことで、こちらに近づこうとしていたトロールたちがじわじわと後退し始めた。

 これならトロールの攻撃を少しの間だけでも防ぐことができそうだ。



 そう思ったのも(つか)()、頭上から巨大な蔓がニョキっと俺の前に現れる。

 そしてまた、信じられないことが起きた。


 巨大な蔓が、燃え盛る塔を掴んで持ち上げたのだ。

 そのまま塔は、蔓によっては森のほうへと持ち攫われてしまう。




「今の化け物みたいな蔓はいったい、何だったんだ……」



 蔓によってそのまま視線が森へと誘導されたところで、俺は変り果てた森の存在に気がついた。



 緑鮮やかだった豊かな森が、天を覆いつくすような大樹によって、荒らされていたのだ。

 その近くにはもう一つ、見たこともないような巨大な化け物のような花が視認できる。


 街だけでなく、森でも異変が起きていたようだな。



 そう思ったとたん、甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 蜜のような、とても甘くて芳香な香りがどこからか漂って来たのだ。

 

 俺はこの匂いを、これまでに二度嗅いだことがある。

 あの聖女イリス様にそっくりなアルラウネの花の香りだ。



 だがしかし、この辺りにあのアルラウネの姿はない。

 ならいったいどこから……?



 俺が不思議に思っていると、領主さまが、「息を吸うと聖蜜の味がするぞ!」と騒ぎ出した。

 領主様は何かに()りつかれたようにスーハースーハーと深呼吸を繰り返す。



 なるほど、呼吸をすると体内に甘い蜜の味が溜まっていくのがわかるな。

 どうやら空気中に、小さな聖蜜の塊が漂っているようだ。

 

 理由は全くわからないが、このおかしな現実は受けいれるしかないだろう。

 今日だけで俺は、世の中に起こりうる現象というのは想像を軽く凌駕(りょうが)するということを学んだのだから。



 そう思った矢先、今日で何度目かの信じられないようなことが起こる。


 俺たちを囲っていたトロールたちが、溶けるように小さくなっていったのだ。

 倒れたトロールの肉片の中から、人間が現れてくる。

 トロールにされていた人たちがみんな元に戻ったらしい。良かった、助かったぞ!



 領主様が「聖蜜がトロールを撃退したのだ!」と、わけのわからないことを言い出す。

 そんなわけがないだろうと呆れたところで、聖蜜という単語に引っ掛かりを覚えた。

 まさかこの蜜の香りはと思い、再び森へと視線を戻す。



 すると、巨大な花から黄色い花粉のようなものが空に放たれているのがわかった。


 燃えるように赤い花の色と、この蜜の香り。


 まるで、あのアルラウネを連想させる。



「領主様、森に行きましょう!」



 この街に起きた出来事と、あの大樹と巨大花は関りがあるに違いない。

 あの場に行けば、きっとなにかわかるかもしれない。



「待て、フランツ。街をこのまま放っておくというのか?」


「この蜜の香りはあのアルラウネのものでしょう。おそらくアルラウネは森に戻ったに違いありません」


「そういうことなら共に森に行こう。街にいるトロールがまだ残っているかもしれない。私が街にいるよりは、森に行ってトロールたちを一緒に引き連れていったほうが、街も静かになることだろう」




 二人で森に向かうと、そこは嵐のような状況だった。

 大樹が暴れているせいで、遠くから木や土が飛んでくる。


 それだけでなく、この辺りの生態系も一変してしまったようで、森のあちこちが枯れ果てていた。

 おとぎ話に出てくるような天高く伸びる大樹によって、森の木々たちは枯らされてしまったらしい。



 そこで突如、領主様がバタリと倒れた。


 いったい何事かと思うと、嗅いだことのないような不思議な木の香りが鼻孔をくすぐる。


 まさか、あの大樹と巨大花から何か放たれているのか?

 ダメだ、俺も意識が飛んでしまいそうだ…………。


 もう少しであの大樹と巨大花にたどり着くところだったのに。



 いや、近づいたからこそ、植物たちの攻撃を受けてしまったのかもしれない。




 薄れゆく俺の視界が最後にとらえたのは、真紅の花の中に小さく咲くように存在している、聖女イリス様の姿だった。

というわけで冒険者のフランツ視点でした。

そうして場面は、この話の終わりの直前の森へと戻ります。


次回、アルラウネvsドライアド その7です。

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― 新着の感想 ―
球根と花だけが巨大化して人間部分はそのままかな。 胸がさらに成長できなくて残念でしたねw いや、人間部分も巨大化したらみんなに見られて恥ずかしいでしょう。 大きくならなくてよかったんですね。
[一言] 美味しそうな兜がありましたからね…… 巨大怪獣対決はどうなるか。 ドライアドを捕食したらどうなるのだろう。
[一言] 領主様自ら囮に町を守るとか、おまえ良い奴なのか 次回大怪獣バトル…
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