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書信 出稼ぎ冒険者の塔の街騒動記 前編

元伍長の出稼ぎ冒険者さんの視点です。

 俺の名前はフランツ。

 以前は伍長として兵士をしていたが、今は塔の街で出稼ぎの冒険者をやっている。



 俺は街のハチミツ屋が襲撃されているのを横目に見ながら、街の中央へ向かって歩いていた。



「最近の街は随分と物騒になったな」



 ハチミツ屋が襲われるのは今月で3度目だったはず。

 それもこれも、森の妖精による聖蜜の販売が止まり、蜜が欲しいと叫ぶ住人が激増したのが原因だ。



 聖女見習いのニーナ様曰く、あの妖精の名前はルーフェというらしい。

 森で最後に妖精と会ったときのことから推測するに、どうやらアルラウネを探すためにどこかへ旅立ったようだった。



 だが今や、アルラウネを探しているのは妖精だけでない。

 とあるお方に頼まれて、俺もアルラウネを捜索しているのだ。

 それと同時に聖蜜の出所を捜索するため、森の中を毎日探索している。



 どちらの捜索も困難を極めており、未だに見つけることができていない。

 そんな実のならない報告を、俺はこれからこの街で一番偉いお方にしに行かなければならないのだ。気が滅入るな。




 領主の館に到着し、晩餐会の時に通された部屋へと案内される。

 壁に飾ってある聖女イリスさまの肖像画を眺めながら時間をつぶしていると、ぽっちゃり体型の白豚領主様がやって来た。



「フランツ、待たせたな」



 このお方は、街の住人から白豚領主さまと呼ばれ(した)われている。

 貴族にして人柄はかなり良いみたいだが、それは変わり者という面があるからかもしれない。

 なにしろ、領主だというのにお忍びで冒険者組合の絵師をしているのだからな。



 そんな領主様から、俺はアルラウネの捜索と聖蜜の調査の依頼を受けた。


 それもこれも、ニーナ様と一緒に呼ばれた晩餐会でのことが原因だ。

 聖蜜を飲まれた領主様が、口から青い花を吐き出して倒れた。

 

 それから何を思ったのか、俺に冒険者として依頼をしてきたのだ。



「申し訳ありません。聖蜜の出所も、アルラウネの行方も、未だに判明しておりません」


「そうか、ご苦労であった。あれほど美味な食べ物は口にしたことがなかったからな、なんとしてでも聖蜜を我がものにしたかったのだが、仕方あるまい」



 領主様は聖女イリス様の肖像画の前に移動しながら、独り言を呟くように話を続ける。



「それにしても、聖女イリス様とアルラウネの顔が瓜二つだとフランツから聞いたときは驚いたぞ。冒険者組合からは、聖女イリス様似の植物モンスターだと言われて手配書を描いたのだが、まさか似ているのではなくそっくりな容姿をしていたなんて今でも信じられん」



 領主様は大の聖女イリス様好きらしい。

 亡くなってからもう4年も経つが、若くして命を落としたことによってさらに人気が上がったようだ。



 そういえば俺の生まれ故郷がモンスターの大群に襲われた時、聖女イリス様に救っていただいたことがある。

 それから隣の家に住む大賢者の孫娘が聖女イリス様の大ファンになったりしたな。なんだか懐かしい。



「教会の司祭や騎士団長には大反対されたが、人食いアルラウネと西の森のドライアドの討伐は中止させた。聖女イリス様とそっくりなアルラウネがフランツの言う通り人間に友好的だというなら、是非とも直に会ってこの目で見てみたかったのだが、残念だな」


「でしたら代わりに、俺……いいえ、私の村を救った、とある聖女様のお話があるのですが、お聞きになられますでしょうか?」


「ほほう、聖女イリス様についての活躍話は一通り耳に入るようにしていたのだが、せっかくだ、話してみろ」



 俺が領主様に昔話をしようと思った瞬間、廊下で花瓶が割れる音が聞こえてくる。

 それだけでなく、兵士たちの物騒な怒鳴り声や叫び声まで轟いてきた。

 


 程なくして、「領主様!」と言いながら、扉から領主さまの護衛の騎士が勢いよく部屋に入ってくる。



「トロールです! 館にトロールが現れました、すぐさまお逃げ──」



 騎士が最後まで言葉を続ける前に、背後から振り下ろされた筋肉質の太い両腕が護衛騎士を襲った。

 ぶしゃりと潰された護衛騎士の上を、巨人のようなトロールが踏み入ってくる。



「なんでこんなところに、トロールが!?」



 モンスターの中でも、トロールはかなり厄介な相手だ。

 なにせ、剣で腕を落としてもすぐさま再生してしまうからな。

 それ以前に、街の中心にいきなり現れるようなモンスターでもないのだが、いったい何が起きたのだろうか。



 領主様を守るように一歩前に出ると、トロールが現れた扉から鎧姿の騎士たちがなだれ込んできた。


 それを見た領主様のが、「助かった」と喜ぶように声を上げる。



「騎士団長、よく来てくれた! 早くこのトロールを討伐してくれ!」



 領主様の言葉を受けた騎士団長が、くくくと笑みを作りながらこちらを見返してしてくる。



「領主様、それはできない相談です。なぜなら、我々はトロールから領主様を守るためにこの場に参上したのではなく、トロールと共に領主様を捕えるためにやって来たのですから」



 そう言うと、騎士団長の身体がぶくぶくと膨れるように巨大化し始める。

 そしてあっという間に、騎士団長はトロールになってしまった。

 しかも信じられないことに、トロールになったのは一人だけでなく、騎士団長と共に現れた騎士団全員も一緒にトロールになってしまったのだ。



 なんで騎士団長たちがトロールに!?

 その疑問に答えてくれる代わりに、トロールたちが雄叫びを上げながら突進した。


 とっさに、俺は炎魔法で壁を作る。

 トロールが炎にひるんでいる隙に、領主様の腕を引っ張り、窓を突き破って外に脱出した。



「フランツ、あれはいったいどういうことだ? なぜ騎士団長がトロールに!?」



 そんなこと俺に聞かれても、何がどうなっているのか理解なんてできませんよ。

 わかることはただ一つ。

 俺と領主様は、あのトロールに襲われているということだ。



 館の庭に出ると、四方からトロールが襲い掛かって来た。

 どうやら兵士や騎士のほとんどが、トロールになってしまったらしい。


 お館に入る時に武器を預けてしまったのが悔やまれるな。

 だが、武器がない状態での戦闘技術も、俺は幼い頃からたたき込まれている。

 大賢者の村出身の人間をなめるなよ!



「『火炎投射フランメンヴェルファー』」



 炎魔法でトロール攻撃していく。

 トロールの弱点は火だ。運が良いことに、俺の魔法とは相性が良い。


 

 だが、運も悪いことに、館の中どころか外からもトロールが溢れるように次々と現れてきた。

 いったい何なんだこれは?

 まるでこの辺りにいる人間がみんなトロールになったとでもいうような数だぞ!



 このままではトロールにやられてしまうな。仕方ない。

 俺はいざという時のために取っておいてある、魔法の小瓶を取り出す。

 大賢者様特注の、魔力増幅液である。



 一時的に魔力を何倍にも上げることができるのだが、それから数日は魔法が使えなくなるという副作用があるのだ。

 使いどころに悩む一品だったが、今使わずしていつ使うというのだろうか。


 魔力増幅液を飲み、炎魔法を発動する。

 


「『火炎投射フランメンヴェルファー』」



 周囲に、巨大な炎の渦が出現した。

 炎を受けたトロールが一気に後退していく。

 だが代わりに、いつの間にか館は魔法によって大火事になっていた。



 ──お、俺のせいじゃないぞ?

 全部トロールのせいだからな!

 


「フランツ良くやった! 館のことは気にするな、それよりもここから逃げるぞ!」



 領主様と共に、館から脱出する。

 街の外に出ると、恐るべきことにそこも地獄のような光景だった。



 裏道や通りの家の中から嬉々として現れるトロールたちによって、街は蹂躙(じゅうりん)されていた。


 

 目の前でトロールに捕まっていた人間が、トロールに何かを食べさせられる。

 すると、その人間の身体が膨れ上がり、トロールになってしまった。


 

 信じたくないような場面を目にしてしまい、俺は辺りを見回す。

 周囲に人間の気配は全くなくなっていた。



 この街は、もう人の住む場所ではない。


 トロールたちが暴虐を尽くす、モンスターの巣窟となっていたのだ。



 この状況をなんとかしてくれそうな人物を、俺は一人しか思いつかなかった。

 聖女見習いであるニーナ様である。


 女神様から授かるという光魔法を扱うニーナ様なら、きっとなんとかしてくれるはず。



 そう思った俺は、ニーナ様がいる教会の方へと走り出したのだった。

今回は冒険者のフランツ視点です。

アルラウネが知ることのない、トロールだらけになっている塔の街での様子を目にすることができます。


次回、出稼ぎ冒険者の塔の街騒動記 後編です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 想像よりも深刻な状態だった……
[一言] やはり騎士団長も操られていたか……。 そして、例の天才美少女剣士もファンだったと……。 味方があちこちに……これが人徳ですかね。 そして、これだけ慕われているのに見る目のなかった勇者………
[一言]  無ぅ民、トロール ^^;
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