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147 アルラウネvsドライアド その6

 私、植物モンスター娘のアルラウネ。

 森サーのお友達と久しぶりに会えて、とっても嬉しいの。



 姉ドライアドの頭上には数十匹のハチ型モンスター、ツォルンビーネが大挙(たいきょ)していました。

 私の女騎士であるハチさんたちです。


 その奥には、チョウ型モンスターのルストシュメッターリングの姿もあります。

 お蝶夫人たちてふてふだね。



 クモを専門に狩るベッコウバチならまだしも、ミツバチであるハチさんがアシダカグモを攻撃するなんて、その目的は一つしか思いつきません。


 森サーのみんなが、助けに来てくれたのだ!



「うっとうしい虫けらどもだねえ。邪魔するんじゃないよう」



 姉ドライアドが精霊魔法を発動しようとします。


 や、やめて!


 ハチさんもお蝶夫人たちも、ドライアドの精霊魔法を受けてしまったら無事では済まないよ。

 私のために、もうみんなを危険な目には合わせたくないの。



 前に魔王軍のミノタウロスたちに襲われた時、私のために戦ってくれたハチさんとてふてふたちが大勢死んでしまいました。

 あんな思いは二度としたくないんだから!



「精霊姫、やるなら、私を、攻撃しなさい!」


「もしかしてこの虫たちはお姫様の知り合いなのかい。なら、余計に痛めつけないといけないねえ!」



 ──やめて!


 でも、どうしよう。

 今からじゃ間に合わないよ……。


 私がテッポウウリマシンガンを生成しようとすると、ニーナの口が勝手に動きました。



「あたしはまだやれます。もう一発、『聖破光線(グランツシュトラール)』を!」



 どうやらニーナの意識が戻りつつあるみたいです。

 私とニーナが、二人で一つの身体を共有している感じになっていました。



 ニーナはまだ頑張るつもりなんだね。

 その気持ちが嬉しいよ。

 

 わかりました。辛いだろうけど、ここはニーナに甘えさせてもらいましょう。

 後でたくさん回復させてあげますから、もう少しの辛抱ですよ。



「『聖破光線(グランツシュトラール)』!」



 精霊魔法が発動するよりも早く、私たちの光魔法が姉ドライアドを貫きました。

 先ほどと違って、姉ドライアドに直撃です。



「ぐわぁあああああああああ!!」



 姉ドライアドの悲鳴が辺りに木霊(こだま)します。

 かなりの威力だったようで、光魔法の衝撃で勇者の兜が飛んで行きました。



「その兜、拾ってー!」



 私の叫び声に反応した女騎士のハチさんが、勇者の兜をキャッチしました。

 ハチさんは私の言葉を理解していないはずなのに、想いが通じてたみたい。

 森サーの絆が目に見えたようで、サークルの会長としてて鼻が高いよ。




 蔓に蜜を付けて、ハチさんたちをこちらに呼びます。

 姉ドライアドの近くにいたら危ないからね。



 そのままハチさんに蜜を与えて、代わりに勇者の兜を受け取ります。

 ヒビが入って壊れかけているけど、内蔵する光魔法のエネルギーはまだまだたくさん残っているみたい。

 とはいえ、これでもう姉ドライアドに結界を張られる心配もないよ。



 姉ドライアドがどうなったか視線を移すと、ボロボロになっていた精霊の身体が再生していました。

 しかも本体である古木は健在です。



「まさかここまで追い込まれてしまうとは思ってもいなかったよう。宿主ではなく地面に根を下ろすなんて、何年ぶりのことかねえ」



 姉ドライアドは本体の古木の根を地面に刺しながら、こちらを睨みつけます。

 どうやら本体を破壊しないと、姉ドライアドは何度でも(よみが)るみたいだね。




 追い打ちをかけたいところだけど、そろそろニーナの身体が限界だね。

 慣れない超高位の光魔法を連発して、聖女見習いの身体が耐えられなかったみたい。



 私はネナシカズラをニーナの腕からゆっくりと引き抜きました。

 同時に、青い勿忘草(わすれなぐさ)も枯らして抜き取ります。



 ニーナ、お疲れ様でしたね。


 私は蔓にかぶりついて、回復魔法が籠った蜜を付着させます。

 そのまま蔓を使って蜜をニーナに飲ませました。



 蜜を飲み込んだニーナの瞳に、光が灯ります。



「聖蜜の味がします……!」


 ハッと、ニーナの意識が戻りました。



「甘すぎますぅううう!」と大げさなことを言いながら、頬っぺたを抑えてぴょんぴょんとし始めます。元気そうだし、どうやら身体は治ったみたいだね。



 そんな私たちのやり取りを凝視していた姉ドライアドが、面白いものを見たというように私に話しかけてきました。



「アルラウネのお姫様、いったい今のは何をしたんだい? まるでお姫様がそこの聖女見習いを操っているように見えんだがねえ」


「ご想像に、お任せ、いたします」


「想像ねえ……その聖女見習いにあそこまでの力もなければ技もなかったはず。まるで黄金鳥人がことあるごとに自慢していた、あの人間の聖女みたい…………んん、待てよ?」



 姉ドライアドの視線が私の顔に釘付けになりました。

 舐めるように私の顔を観察しだします。



「お姫様の顔、どこかで見たことがあると思ったら、街の領主の館に飾ってあったあの聖女の肖像画によく似ているねえ」



 領主の館?

 どういうことかな、なんで私の肖像画が領主の館に飾ってあるんだろう。


 そういえば王都で塔の街の領主と会った時、その息子がやけに私のことを見つめてきていた気がするよ。

 私のファンは貴族の中にもたくさんいると勇者パーティーにいた従兄が話していたし、それでかもしれないね。



「あの絵の人物の名前は…………たしか、聖女イリス」



 姉ドライアドに聖女時代の名前を呼ばれて、ビクンと反応してしまいます。

 私の正体がバレてしまうのではないかと、ちょっと警戒してしまったの。



「もしかしてお姫様、聖女イリスと関係があるのかい?」


「なんの、話なのか、わからないです」



 このことを魔王軍に密告されたら、私の立場は悪くなるに違いない。

 仮に私の正体が魔王軍と敵対していた聖女だと炎龍様が知ってしまえば、きっと私のことを殺そうとするだろうからね。


 そうさせないためにも、姉ドライアドはこのまま森の養分にしてやるんだから。



「ふうん……なるほど、そういうことかい。本当にお姫様には何度も驚かされるねえ……」



 そう言いながら、姉ドライアドは眼帯を掴んで、隠れていた目元をあらわにさせます。

 眼帯の下には、眼球と同じくらいの大きさの種がめり込んでいました。

 姉ドライアドがその種をむしり取り、口元に持っていきます。



「まさかこんなところで、これを使わされる事態になるとは思ってもいなかったよ。グリューシュヴァンツ様と対峙するときのための秘策のつもりだったんだがねえ」



 炎龍様と?

 もしかして姉ドライアドは、魔王軍内部で何かしようとしていたのかな。



「それは、進化の、種ですよね?」


「なんだい、お姫様はこれも知っていたのかい。でも、違うよう。これはあんな失敗作とは違うのさ」



 進化の種が失敗作?

 どういうことなんだろう。



「進化の種は、この種を作り出すときにたまたま生まれてしまった偶然の副産物なのさ。全てはこの実を作るために、アタシはこれまで研究を重ねてきたんだよう」



 姉ドライアドが謎の種を飲み込みます。

 その瞬間、本体である古木がメキメキと膨れ上がっていきました。



「これは『神樹の種』。使ったら最後、女神の力の一部をこの身に宿す代わりに、アタシでも制御できないほどの膨大な力を得るのさ」



 姉ドライアドの本体の古木が、みるみるうちに巨大化していきます。

 前世で見た電波塔のように高くなると、頂上付近に大きな蕾が咲きました。

 



 謎の蕾が現れた瞬間、「この香りは……」と言いながら、ニーナがその場に倒れます。

 続くようにドリンクバーさんたちもバタバタと倒れていきました。



「ニーナ! ドリンクバーさん!」



 気を失ったのは人間だけではありません。

 ハチさんやお蝶夫人たちも、次々に地面へ落ちて横になってしまったのです。



「そいつらはもう終わりだよう。神樹化したアタシを前にして、人間やモンスターが正気でいられるわけがないからねえ」



 巨大な大樹から、姉ドライアドの腰から上の部分が生えてきます。

 本体と完全に一体化しているみたい。



「みんなに、何を、したの?」


「何もしてないさ。ただ、アタシの体から発せられる木の匂いを嗅いだだけだねえ。神樹の(にえ)となってもらうため、昏倒してもらったのさ」



 ──嘘でしょう。


 匂いを嗅いだだけて相手を倒してしまうなんて、恐ろしすぎるよ。

 でも、私は植物だから効かなかったんだね。



「あぁ、力がみなぎってくるよう」



 神樹のてっぺんから、枝が大きく横に広がっていきます。

 巨大な大樹の枝によって、この辺り一面の空が覆われてしまいました。

 塔の街やドリュアデスの森がすっぽりと覆われてしまったみたい。



 まさかこんな隠し玉を持っていたなんて驚きです。

 魔王軍の四天王だというのは伊達(だて)ではないね。

 しかも聖女時代に戦った四天王や、私のストーカーである黄金鳥人さんがかすんで見えてくるほどの存在になってしまったよ。


 姉ドライアドこと精霊姫フェアギスマインニヒトのことを、少し見くびっていたかもしれません。




「神樹となった今ならわかるよう。どうやらお姫様は植物モンスターなのに、女神に似た光魔法のオーラが宿っているみたいだねえ」



 姉ドライアドの瞳が、ニーナと同じ特別な目に変わっていました。

 どういうからくりなのかわからないけど、今の姉ドライアドは光魔法のオーラが見えるようになっているみたい。



「聖女イリスは死んだと聞いていたが、もしかしてお姫様が食べて力を吸収したのかねえ。その力、とってもおいしそうだよう」



 あながちその説明は間違ってはいないね。

 正確にいうと、吸収したというよりは、私が植物モンスターと同化して乗っ取ってしまったんだろうけど。



「決めたよ、お姫様を神樹に取り込んで、聖女の力ごとアタシの一部にしてやろう」



 ペロリと姉ドライアドが舌なめずりをします。

 獲物を狙う捕食者のような目で、私を見降ろしてきました。



「可哀想だけどお姫様はこれで終わりだよう。最後はアタシと一つになるのさ」



 巨大な神樹となった姉ドライアドが私に敵意を向けてきました。


 長かった精霊姫との戦いも、ついに終わりを迎えようとしているようです。

 


 最後の戦いが、始まろうとしていました。

初投稿から毎日更新を続けて5ヵ月が経ちました。

おかげさまで、初投稿時からは信じられない程の多くの方にお読みいただけて、とても嬉しい思いでいっぱいです。改めまして、いつもお読みいただきありがとうございます。



ここで皆様にお知らせです。

初投稿から5ヵ月間連続で毎日更新をするのは、思っていたよりも大変でした。

今日までずっと毎日更新を続けてきましたが、ここで一旦、隔日更新にさせていただければと思います。


理由としては、以前よりも時間が取れなくなったこともあり、最近は投降時間に更新することが間に合わない日も多くなってきています。

ですので申し訳ないのですが、少しお休みをいただければと思います。


これから2日に1回更新になりますが、執筆に余裕が戻ればまた毎日更新ができるようになるかもしれません。ご了承いただければと思います。


皆さまにお楽しみいただけるよう、これからも引き続き頑張って執筆を続けていきます。

どうぞよろしくお願いいたします。



次回、出稼ぎ冒険者の塔の街騒動記です。

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― 新着の感想 ―
戦闘中なのに誰も彼も一つになろうとするなんて えっちすぎますよ。 アルラウネを食べようとして大丈夫ですか。 下手すると乗っ取られちゃいますよ? 逆に食べられちゃいますよ? あのアルラウネ、非常に…
[良い点] 頭を使ってできる限りのことをする。 戦いも手に汗握る面白いものですね。 これからも応援しています。
[一言] 無理せず投稿待ってます。 毎日の楽しみが減るけど完走しないよりはずっと良いので
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