143 アルラウネvsドライアド その2
私、植物モンスター少女のアルラウネ。
妹のドライアド様に受粉させられそうになっているの。
口を閉じて抵抗します。
今の私はかなり必死です。
なにせ、ドライアドの姉と妹、両方を一度に相手しているからね。
片や私の口を無理やり開こうとする妹ドライアド様の蔦を、必死に阻止しようと格闘する私の蔓たち。
片や私を絞め殺そうと迫る姉ドライアドのガジュマルに対して、反撃しようと頑張る私のガジュマルたち。
さすがにこれは忙しいよ!
妹のドライアド様の蔦が、私の身体を鎖のように縛り付けてきました。
ガジュマルの次は蔦に自由を奪われるなんて、今日の私はさすがに拘束されすぎている気がするの。
これまでの人生で一番縛られている気がします。
そう思っていると、いきなり目まいを感じました。
なんとかドライアド姉妹と対抗できていたはずなのに、徐々に全身から力がなくなっていきます。
そのせいで、私のガジュマルと蔓が、少しずつドライアド姉妹の攻勢に押されてきました。
「なにこれ、力が、入らない?」
私の疑問に対して、妹ドライアド様が冷たく平たんな口調で私に語り掛けます。
「『精霊魔法『生命力吸収』です。アルラウネの生命エネルギーを蔦で吸わせていただいております。じきに貴女は花を散らし、無残な姿となって枯れるでしょう」
冗談じゃないよ!
せっかく綺麗に花を咲かせているのに、枯れるのは絶対にイヤなの。
私は球根からネナシカズラを伸ばして、ドライアド様の蔦に寄生させます。
エネルギーを奪われたのなら、奪い返せばいいのだ。
『黄色い吸血鬼』の本領発揮だよ!
ついでに相手が二人がかりなんだから、こちらだって二人で協力して戦えばいいよね。
「ニーナ、私に、光魔法を!」
私と姉ドライアドの戦いに巻き込まれないよう距離を取っていたニーナが、「お任せください!」と応えてくれます。
「光弾爆破!」
ニーナの杖から光の玉が放たれました。
私の身体に直撃すると、玉が弾けて光が爆発します。
光を浴びて、全身の葉緑素が歓声を上げました。
私、大きくなるのよ!
球根が徐々に巨大化していき、大抵の動物なら丸呑みできるくらい肥大化していきます。
赤い花びらもさらに大きく広がり、葉っぱが青々と茂っていきました。
10才くらいの少女の姿で止まっていた人間部分も成長してきます。
膨らみかけの胸が膨張していきました。
その調子だよ、もっと大きく育つのだ!
うっ、胸がきつくなってきたね。
素早い動きで、蔓ブラを調整します。
よし、これで完璧だよ。
まだ成長途中の子供だった身体が、出るところは出て、締まるところは引き締まった身体へと変化しました。
これで完全に元通り。
光合成おいしかったです!
姉ドライアドが「光魔法を受けて急激に身体を成長させることができるなんて、いったいどうやっているのかねえ」と驚くように呟きました。
どうやら精霊であるドライアドをもってしても、光魔法を吸収することは難しいみたいだね。
でも、驚くのはまだ早いですよ。
これからが本番なんだから!
妹のドライアド様がゆらりとバランスを崩します。
私が急成長したことによって、ネナシカズラで吸収していたドライアド様の栄養量が大幅に増大したのです。
さきほど『生命力吸収』によって吸われた量以上の膨大なエネルギーが、私の中に流れていました。
ニーナの光魔法と妹ドライアド様から奪い取った栄養によって成長したのは、私の身体とネナシカズラだけではありません。
もちろんガジュマルも大きくなったの。
姉ドライアドのガジュマルが、私のガジュマルによって締め潰されていきます。
成長前で力が拮抗していたのだから、成長しさえすれば、こちらの方が上になるのは当たり前のことなのです。
私のガジュマルが、姉ドライアドのガジュマルを次々と蹂躙していきました。
どうですか、ドライアド姉妹さん。
私とニーナが力を合わせればこれくらい簡単だよ!
そして姉ドライアドが私のガジュマルに苦戦している今がチャンスです。
「キーリ、今だよ!」
上空で待機していた妖精キーリが、「任せて、アルラウネ様!」と勢い良く聖域の扉めがけて突進していきました。
私のガジュマルの攻撃に防戦一方となっていた姉ドライアドが、「入れさせてなるものか」と叫びます。
「精霊魔法『性質変化』“食人木”」
聖域の扉前に生えていた木が、魔法を受けて表皮が真っ黒に変化しました。
幹が太くなり、枝が触手のように蠢めいて暴れ始めます。
木の頭上には大きな口が開いていて、大型の食虫植物のような外見です。
この食人木で聖域の扉を守るついでに、キーリを捕獲して食い殺そうとしているんだね。
「げえっ!? あ、アルラウネ様、あれはあたしには無理だってー!」
泣きごとを言い出したキーリに、私は鼓舞の言葉を送ります。
「私を、信じて、あの食人木、突っ込んで!」
「そ、そんなぁ…………もう、あたしが食われたら、責任取ってよねー!」
キーリが食人木へと突撃します。
飛んで火にいる夏の虫というように、食人木の触手がキーリへと襲い掛かりました。
「つ、捕まっちゃうよー!」
触手がキーリを捕まえようとした瞬間、地中から無数の茨が伸びてきました。
茨が食人木の触手に次々と巻き付いていき、動きを止めます。
瞬く間に、食人木は茨によって制圧されてしまいました。
姉ドライアドの困惑した声が周囲に響きます。
「地面から茨が…………これはいったい、どういうことですかねえ?」
実はね、その茨の持ち主の正体は子アルラウネたちなの。
クローンドライアドであるドラ子を燃やした時に、子アルラウネたちは種となって地面へと脱出しました。
そのまま子アルラウネたちには、何かあった時のために地面で隠れてもらっていたのだ。
地下で花を咲かせるリザンテラの能力を使えば、土の中でアルラウネを発芽させることも可能です。
ドラ子を倒してから子アルラウネたちが地上に姿を現さなかったのは、そのためなの。
万が一の時のために伏兵として隠し置いたんだけど、正解だったね。
「ドラゴンに寄生していたアルラウネたちは一緒に燃えて死んだのではなくて、種となって地面の下に隠れていたということかい。まったく、便利な能力だねえ」
キーリが姉ドライアドと食人木を抜けて、聖域の扉の前へと辿り着きました。
そのまま扉に触れると、小さく開きます。
妖精が入れるだけの狭い隙間に、キーリが吸い込まれるように入っていきました。
これでひと安心だと思ったけど、そうは問屋が卸してはくれません。
私の隣にいる妹のドライアド様が「本体を狙ったようですが、そうはさせません」と、聖域の中へと転移しようとしたのです。
でもね、そうはさせないのはこちらの方も一緒なの。
私は妹のドライアド様の身体を粘着質のあるモウセンゴケで捕まえました。
こうすれば聖域へと転移して、キーリを止めることはできないよね。
しばらくすると、妹のドライアド様の蔦が数本、ボトボトと抜け落ちてきます。
地面に散乱した蔦は、青い勿忘草へと変化しました。
どうやら、聖域にあるドライアド様の本体に寄生していた青い花を、キーリが蜜玉で上手く除去できたみたい。
キーリ、お手柄だよ!
「これはいったい……」と、ドライアド様が周囲を見渡します。
「正気に、戻り、ましたか?」
「どうやらわたくしは姉に操られていたようですね。お恥ずかしい限りです」
やったよ、ドライアド様の洗脳が解けたみたい!
私が妹のドライアド様に状況を説明していると、姉ドライアドが機嫌悪そうに言い放ちます。
「妹を解放したくらいで、良い気になっているんじゃないことだねえ」
負け惜しみは結構ですよ、姉ドライアドさん。
こちらは私とニーナだけでなく、妹のドライアド様や子アルラウネたちだっているんだから。
対するあなたは、お一人だけ。
一気に形勢逆転です。
少し前までは戦力差に絶望していたけど、今ではご覧の通り。
この調子でみんなの力を合わせれば、四天王の精霊姫にだって勝てるんだから。
さあ、フェアギスマインニヒトさん。
今度はこちらの番ですよ!
リザンテラ:ラン科の腐生植物。菌から栄養を得ることで、地中で生きることができます。
次回、アルラウネvsドライアド その3です。