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140 ドリュアデスの森の戦い

 ドリンクバーさんの仲間の冒険者が、トロールの棍棒の餌食となりました。


 私はとっさに地中に張り巡らせていた茨を地上に伸ばします。

 トロールから守るように、人間さんたちの前に茨の壁を作りました。


 ついでにドライアド姉妹のほうにも壁を建設しちゃうよ。

 すぐに破られちゃうだろうけど、少しの間は持つよね。



 倒れた冒険者の元へニーナが駆けつけます。

 回復魔法をかけるんだろうね。

 

 壁を作って安心したのも束の間、魔女っこが「アルラウネ、妖精が飛んできた!」と叫びました。


 茨の壁の上空から妖精たちが侵入してきます。

 青い花で操られているから、妖精も敵なんだったね。



 地面でペタンと座っていたキーリが、勢いよく飛び立ちながら「妖精はあたしに任せて!」と叫びました。


 上空で妖精たちの戦闘が始まります。

 いくらキーリが森の妖精の中で特別だといっても、さすがに1対20くらいの戦力差があるから厳しいだろうね。


 まあ大変なのは、ドライアド姉妹や300匹のトロールも同じなんだけどさ。

 冒険者4人とニーナだけじゃ、トロールの大群に打ち勝つことは不可能だろうし。

 塔の街で最強の冒険者チームだと話していた気がするけど、相手の数が多すぎると思うの。


 せめてトロールと妖精の洗脳だけでも解くことができれば良いんだけど。

 そうなればあとはドライアドだけになるから、なんとかなるかもしれないのに。




 人間さんたちのほうを見ると、青色の鎧の冒険者が「水竜の憑依鎧ヴァッサーヴルム・ハルニッシュ!」と声を上げました。


 水で生成された水竜の鎧を身にまとう水魔法です。

 そういえばあの水魔法、おいしかったよね。

 水の飲み放題って感じで…………そうだ、ドリンクバーさんがいたよ!


 良いこと思いついちゃった。

 あの時やったことをアレンジすればいいんだ!



「ドリンクバー、さん!」

「……………………」



 反応がないよ!

 早くこっちを向いて―!



「ドリンクバー、さん!!」

「……………………」



 うぅ、ドリンクバーさんの本名がわからないよぉ。

 でも、さすがにこれならわかるでしょう。



「水魔法、使ってる、人間さん!」

「え、ボクのことかい!?」



 そうだよ、さっきから言っているでしょ。

 あなたのことですよ!



「ドリンクバー、さん、私に、水魔法で、攻撃して」


「ドリンクバーって、もしかしてボクのこと? 忘れてしまったなら仕方ないが、ボクの名前は──」


「茨の壁が、破られ、そうなの。だから、早く!」



「わかったよう」と言いながら、ドリンクバーさんが私に水魔法で攻撃をしてきます。


 あぁ、気持ち良いね。

 お水おいしい。



 このドリンクバーさんのお水飲み放題と、ドラ子の雨乞い魔法によって水分満載となった地面があれば、すぐに貯水できるよ!



 私はカンガルーポケットの貯水嚢(ちょすいのう)を生成して、水を限界まで貯めていきます。

 これだけ水分があれば、十分かな。

 


 私は体内の水分を、葉っぱの気孔(きこう)から水蒸気として大放出しました。

 蒸散(じょうさん)をしたの。



 前回ドリンクバーさんと戦った時は根腐れしそうになって、この蒸散(じょうさん)をしたんだよね。

 あの時は水蒸気にタマネギの催涙物質を混ぜたんだけど、今回はさらにアレンジしました。



 私を中心に、霧が広がっていきます。

 視界がなくなった中、姉ドライアドが「お姫様が霧を出したのかい?」という声が聞こえてきました。



 ドリンクバーさんは「この霧、甘い香りがする」と不思議そうに口にします。

 その直後、ニーナの喜びに満ちた悲鳴が聞こえてきました。


「この味は……聖蜜ですよっ!!」



 その通りなの。

 蒸散した際に、出ていく水分に私の蜜をたっぷりと混ぜてみたのです。

 少し薄まってはしまったけど、それでも甘いと感じられるくらいには濃度は高くしておきました。



 蒸散によって発生した蜜霧は、トロールの大群へ襲います。


 一瞬のうちに、辺りはトロールたちの絶叫によって騒然となりました。

 どうやら蜜を吸い込んでくれたみたい。


 

 攻撃範囲は横だけではありません。

 空の上にいた妖精たちも、蜜霧によって混乱していました。



 バタバタと空から妖精が落ちてきます。

 妖精たちはみんな、口から青い花を吐き出しているみたい。

 上手く行ったみたいだね。



 蜜霧が晴れます。


 周囲にはトロールだった肉片と一緒に、300人ほどの人間さんたちが倒れていました。

 トロール化した人間さんたちは、全て私の蜜によって浄化されて元に戻ったようです。

 やったね!


 代わりに、人間と融合した司祭ドライアドがぽつんと取り残されていました。

「いったいなにが起きたんだ……?」と、現実を受け入れられていないみたい。




「こりゃ凄いねえ、お姫様にはいつも驚かされるよう」



 茨の壁が、蔦によって崩されました。

 陸ガメが茨を踏みつけながら、姉ドライアドことフェアギスマインニヒトがゆっくりと近づいてきます。



「まさかこんな方法で私の洗脳花が看破されてしまうとは…………唯一の弱点は聖女の光魔法だけだったはずなんだが、お姫様の蜜はいったいどうなっているのかねえ」



 姉ドライアドは拍手をしながら、微笑みかかけてきます。



「もしかしてお姫様の蜜は、聖女の光魔法と同じ効果があったりするんじゃないかい?」


「飲んで、みれば、わかるかも、しれないですよ。一緒に、蜜でお茶を、しませんか?」


「悪いけどお姫様のご招待はお断りさせてもらうかねえ。アタシは不純物が混じっていない水のほうが好みなのさ」



 どうやら姉ドライアドには蜜霧は効かなかったみたいだね。

 精霊魔法で防がれたのか、効果がなかったのかはわからないのが気になります。


 妹のドライアド様にも蜜は効かなかったみたい。

 私に敵対的な視線を向けてきているから、まだ洗脳は解けていないようです。



「トロールは、全滅です。これで、形勢は、逆転ですよ?」


「そう思うのかい? トロールと妖精がどれだけいなくなったとしても、ドライアドが二人もいれば些細な差でしかないのさ」



 たしかにその通りかも。

 ドライアドの力がどれ程のものなのか私は知りません。

 聖女時代にも、戦うことはなかったからね。

 それでも、トロールが束になっても勝てないくらい強そうだとは想像がつくの。


 せめて妹ドライアドさまを味方に戻すことができれば、かなり有利になるはずなんだけど。



「どうすれば、妹の、ドライアド様を、解放できる、のかな?」



 私の疑問に対して、妖精キーリが答えてくれました。



「ドライアド様の本体は聖域にある古木なんだよ。本体に寄生している青い花にアルラウネの蜜をかければ、元に戻るかもしれない!」



 そういえば精霊であるドライアドの本体は木なんだよね。

 本体から遠く離れることができないから、姉ドライアドは陸ガメに木を移植して歩けるようにしているわけだし。



「キーリ、これを、あげる」


 

 私は喉の奥から、小さな蜜玉を吐き出しました。

 蔓を使って、キーリに蜜玉を渡します。 



「この蜜玉が、あれば、青い花を、枯らす、ことができる、と思うの」


「感謝しますアルラウネ様。あたしに任せてください!」



 キーリが蜜玉を持って、空高く飛び上がっていきます。


「みんな! あたしの代わりに、アルラウネ様の援護をお願いね!」

 キーリが仲間の妖精たちに声をかけました。

 青い花の洗脳が解けた妖精たちは正気が戻ったようです。

 妖精とはいえ、味方が増えたのは頼もしいね。



 あとの問題は、どうやってキーリを聖域の中へ無事に送るかです。

 姉ドライアドが黙って通してくれるとは思えないよね。


 案の定、こちらを観察していた姉ドライアドが私に話しかけてきます。



「さて、作戦会議は終わったかい?」


「おかげ、さまで」


「そうかい。盛り上がっているところ悪いけど、アタシは慎重な性格でねえ。万が一のことも考えて、次の手を準備しているのさ」



 姉ドライアドが陸ガメの甲羅に生えている木から、小さな丸い金属質の物を取り出します。



「アルラウネのお姫様、これがなんだかわかるかねえ?」



 私はそれに見覚えがありました。

 聖域の勇者の墓に置いてあったそれは、衝撃的だったせいで忘れることができなかったのですから。


 傷だらけで古びたその兜は、ただの兜ではありません。



 そこにあるのは50年程前に姉ドライアドが殺したという、勇者の兜でした。


お読みいただきありがとうございます。

おかげさまで、感想が1000件を突破いたいしましたヾ(≧∇≦)〃

いつも応援していただき、改めて感謝申し上げますm(_ _)m


次回、勇者の兜と恋人の勇者です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 霧状の蜜……なんか耳鼻科の吸引して摂取するタイプの薬がふと頭に浮かびました。まあ主人公さんの蜜も回復作用がある薬(ただし重度の依存性有り)みたいなものだから霧状の蜜なら似たようなものと言えな…
[一言] 聖蜜霧強い……! これはチートですわ( ≧∀≦) でも相手はドライアド姉妹二人……! まだまだ余力がありそうだし、がんばれアルラウネちゃん!
[一言] 呼吸するだけで摂取出来る聖蜜... 子供の時よく分からず楽しんでたスプレーのお菓子みたいだな お茶目さが出ちゃったね聖女様、焦ってたとはいえドリンクバーが存在しない世界でその愛称は通じんよ
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