表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

162/388

138 聖蜜の真価

 私、植物モンスター少女のアルラウネ。

 三精獣のドラ子から聖域を守ることに成功しました。


 そうしたら、トロール化した人間を助けるために聖蜜が必要だと、ニーナが興奮しながら詰め寄って来たの。



 聖蜜って、もしかしなくても私の蜜のことだったりするのかな。

 他に思いつくものがないんだけど、なんでそんな名称になっているのかがわからないの。


 ニーナの両手が私の口元に近づいてきます。

 このままだと私、後輩の聖女見習いに蜜を採取されちゃう!


 もうダメだと思った瞬間、横から魔女っこの声が聞こえてきました。



「やめて、わたしのアルラウネをいじめないで!」



 私とニーナの間に、魔女っこがするりと入ってきました。

 そのまま私を守るように、魔女っこがニーナに立ち向かいます。



「このアルラウネはわたしのものなの。お姉さん、聖蜜が欲しいならわたしを通してよね」



 魔女っこがニーナのことをお姉さんって言ってる!?

 なんだかショックです。

 お姉ちゃんは私なのに……。


 魔女っこの行動に驚いた様子のニーナが、優しく言葉をかけます。



「やっぱりイリ……紅花姫さまと知り合いだったのね。あの聖蜜をアルラウネから採取して、街で売っていたんでしょ?」


「それがなに? わたしとアルラウネが生きるために必要なことだったんだから、お姉さんには関係ないでしょ」


「勘違いしないで、わたしは二人の味方よ。聖蜜が欲しいのも理由があるの。一緒に街の人を助けましょう?」



 魔女っこが「街の人間なんてどうなっても関係ないし」と、小さく呟きます。

 まだ人間嫌いが治っていなかったみたい。

 仕方ない、ここは私の出番だね。



「街から、人間が、いなくなったら、蜜が売れない。それは、困る、でしょう?」



「たしかにそうかも」と、魔女っこがうなづいてくれました。

 これで少しは協力的になってくれそうだね。


 それよりも、魔女っことニーナが知り合いだったことに驚きだよ。

 いったいどこで接点があったんだろう。

 魔女っこに訊いてみましょうか。



「ニーナを、知っているの?」


「アルラウネの蜜を買ってくれている常連さんなの。お客さん第一号」



 ──うそでしょう。

 初めて蜜が売れた時、魔女っこが女の人に蜜を売ったと話していたけど、その相手がまさかニーナだったなんて…………。



 後輩であるニーナが私の体液の蜜を()(この)んで購入していたという事実もショックだけど、ニーナが蜜狂いになっていることがもっと衝撃的です。

 妖精キーリほどではなさそうだけど、かなり重症な気がするよ。



 なんだかごめんなさいね、ニーナ……。

 こんなめぐり合わせって、あるんだね。

 世界は広いようで狭いんだ。




 トロールへ目を向けると、蔓でグルグル巻きになっていました。

 種となってドラ子から地面に脱出した子アルラウネたちが、芽吹いて早々にトロールを捕獲していたみたい。

 優秀すぎるでしょう、私の子どもたち!



 魔女っこが「アルラウネがいっぱい増えてる……どうしよう」と混乱しています。

 やったね魔女っこ、家族が増えたよ!


 あわあわと動揺しているところ悪いけど、魔女っこに質問です。

 


「それで、聖蜜って、いったい、なんなの?」


「アルラウネの蜜のこと。気がついたら街でそういう名前になっちゃったの。理由はよくわかんない」



 やっぱり私の蜜のことかー。

 そんな高貴な名称になっているとは、恐れ多いね。

 ただのよだれなのに。



 私は自分の蔓をかぶりと咥えます。

 ジュルリと蜜をつけると、それをトロールの口の中に垂らしました。



 すると、トロールの身体が大きく反り返ります。

 苦しそうに叫ぶトロールが、徐々に溶けていきました。

 口から種の残骸を吐き出すと、溶けた肉の中から人間が出てきます。



 凄いや、本当にトロールが人間に戻ったよ!

 信じられないね。



 私は毒の妖精オーインがトロールになるところを目にしたことがあります。

 あれはたしかに、身体がトロールに変異していた。


 その状態から元の人間に戻すことができると言うことは、私の蜜はただの光回復魔法を帯びた蜜ではないのかもしれない。


 正直いって、恐ろしいです。

 回復薬とか、もうそういう次元を超えているような気がします。

 私の蜜はいったいなんなんだろう…………。




 ニーナ曰く、この聖蜜があれば、人を操る青い花の効果も打ち消すことができるみたい。

 それを聞いて、私は納得しました。

 


 魔王城で悪魔メイドさんが、姉ドライアドの青い花を吐き出していたよ。

 あれは私の蜜入りの泡を口に受けた直後に起きたことだったはず。

 きっと私の蜜が口から体内に入って、それで青い花の洗脳から解放することができたんだ!


 私の蜜、ちょっと万能すぎるね。

 みんながこぞってペロペロしたがるのも無理ないきがしてきたよ。

 こんな高性能なら、もっと高値で蜜を売れば良かったと後悔だよ!

 



 捕まえていた他のトロールにも蜜を飲ませ、人間を三人助けることができました。

 こちらの状況がひと段落したのを見計らって、森の茂みから青い鎧を着た殿方が出てきます。


 あれ、この人、見覚えがあるね。

 もしかして、ドリンクバーさんかな?

 また再会するとは思わなかったよ。


 ドリンクバーさんが倒れている人間の顔を見ると、驚いたように声を上げます。



「こいつら、行方不明になっていた冒険者だ。人食いアルラウネの餌食になったわけではなかったのか」



 どうやら、そこの三人がアルラウネ退治から戻らなかったせいで、私が人を食べたと濡れ衣を着せられた原因となったようです。

 つまり、こいつらのせいで私は街の人間に「人食いアルラウネ」だと暴言を吐かれながら、討伐されそうになったというわけ。


 きっと姉ドライアドの配下に捕まって、トロール化の実験かなにかに使われたんだろうね。

 そのせいでとばっちりが私に降りかかってきたわけだよ。

 ぐぬぬ、許せぬ!



「ということは人食いアルラウネ……いや、そこのアルラウネは無実で、真犯人は魔王軍の精霊姫だったというわけか!」



 ドリンクバーさんが仲間たちと「そうだったのか」と話し合い始めました。

 どうやら私の冤罪は解けたようです。



「アルラウネ……先日の非礼をわびよう。ニーナさんと仲も良いようだし、どうやら悪いモンスターではなかったんだな。話が通じるモンスターなど、初めてみたよ」

 


 ドリンクバーさんが謝罪してくれました。

 なんだかそこまで悪い人間ではなかったみたいだね。



「もう、良いですよ。許します」


 私が蔓でドリンクバーさんと仲直りの握手をしていると、ニーナが尋ねてきました。



「それで紅花姫さま、四天王のドライアドはどこに?」


「ここには、いないみたい。街に、いるんじゃ、ないの?」


「それが、ホルガーさんが陸ガメに乗ったドライアドを森で見たらしいんです」



 ニーナの言葉に続いて、ドリンクバーさんが説明をしてくれます。



「その通りだ。たしかにボクはあのアクアドラゴンと一緒にいた精霊姫を、この場所で見たんだ!」



 どうやら陸ガメに乗ったドライアドをここで目撃したみたい。

 それは間違いなく姉ドライアドだね。



 街ではなく森にいるなら、姉ドライアドはいったいどこで何をしているんだろう。

 

 姉ドライアドの目的は、聖域の中にいる妹ドライアドと、結界の役目を果たしている勇者の兜。

 その聖域はこちらが守っているのだし、たいしたことはできないとは思うんだけど。



 みんなでこの後どうするかと悩んでいると、それは起こりました。


 突然、木と木の間に扉が現れたの。

 そして扉が開かれます。


 妖精キーリが嬉しそうに辺りを飛び回りました。



「聖域の扉だよ。きっとドライアドさまが中から開けてくれたんだ!」



 音もなく扉が開いていきます。

 聖域の中から、霧が外に漏れていきました。




「誰かいるみたい」と、魔女っこがつぶやきます。

 

 霧の中に、人影が見えているの。



 けれども、人影にしてはやけに大きい。

 ドライアドさまにしては、背が高すぎるの。

 なぜならその人影は、大きなモンスターの上に立っているように見えているのだから。



 ドスンという、四足で歩行するモンスターの足音が聞こえてきます。

 同時に霧が晴れました。


 そして、私たちは信じられないものを目にすることになります。



 まず最初に、陸ガメの足が露わとなりました。

 カメの甲羅には太くて短い樹木が生えています。

 その木に寄りかかる様に、青色の蔦の髪を持った美しい女性が立っていました。



 ────うそ、でしょう……。



 聖域の扉から出てきたのは、姉ドライアドでした。


次回、四天王の罠です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✿「植物モンスター娘日記」コミックス5巻が3月23日に発売しました✿
お水をあげるつもりで、アルラウネちゃんをお迎えしていただけると嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.
コミカライズ版「植物モンスター娘日記5」



✿コミカライズ版「植物モンスター娘日記」✿
コミックス1巻はこちら!
コミカライズ版「植物モンスター娘日記」


書籍版 植物モンスター娘日記も

絶賛発売中です!

html>

電子書籍版には、
まさかのあのモンスター視点の
特典SSが限定で付いております!

どうぞよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
[一言] これだけの効果があったら聖蜜呼びも仕方ないよね。どれだけ強くなってもやっぱりこの蜜が最強(;><) そして聖域から姉ドライアドが……妹ドライアドさんどうなっちゃったのー!?( ;∀;)
[一言] 樹人やみみん「聖蜜……ではなくて、アルラ嬢の蜜をあのトロールの口に舐めさせて浄化しましょう!」 (この騒動が終わったら…アロマテラピーでもしようかな?樹人なので沢山精油出来るしw)
[一言] >「魔女っこ、ニーナを、知っているの?」 魔女だってのは、知られたらまずいんじゃ……。 ニーナは分かってくれるかもしれないけど、他にも人はいるし。 子アウラウネたちの傍で養蜂すれば、聖蜜の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ