136 聖域攻防戦 その3
私、植物モンスター少女のアルラウネ。
美幼女アルラウネ軍団がドラゴンに咲き乱れているところに、聖女見習いのニーナがやって来たの。
なんでここにニーナが?
街はトロールが出てきて大変なはずなのに、わざわざニーナが森に来るとは思わなかったよ。
しかも森の聖域に現れるということは、なにか目的があってここに来たのかもしれないね。
ニーナとお仲間の人間さんたちがビックリしたようにドラ子さんを眺めます。
「どうしてあのアルラウネがここに?」「なんなんだあのドラゴンは。女の身体が生えているぞ」という声が人間さんたちから聞こえてきました。
そりゃそうだよね、ドラゴンの頭にドライアドが生えているうえ、体中に小さなアルラウネたくさん咲いているんだから、どんな状況だよと思うのは無理ないです。
どうやらドラ子さんもニーナたちの登場は想定外だったみたいで、機嫌が悪そうに呟きます。
「あの人間は聖女見習い……ということは、あいつも失敗したのかい。三精獣はアタシ以外使えないやつばかりだねえ」
「あなたは、強い、自信が、あるん、だね」
「そりゃそうだよ、なにせアタシは精霊とドラゴンの融合体。種族的に、アタシを越えるような生物はそうは存在しないのさ」
ドラ子の身体から水が湧き出ました。
溢れ出る水が剣の形に変化して、子アルラウネたち目掛けて飛んで行きます。
「まずは邪魔なチビアルラウネから始末しましょうかねえ。水刃の雨」
子アルラウネたちに水の刃が刺さりました。
寄生されるのがよっぽど嫌みたいだね。
けれども、子アルラウネにはそれくらいの水魔法は通用しないの。
「我が子たち、カンガルーポケット、使いなさい」
私の言葉を聞いた子アルラウネたちが「ママー」「わかったー」と、蔓にカンガルーポケットの貯水嚢を生成します。
そうして突き刺さった水刃を吸収して、貯水嚢に貯めていきました。
傷口はすぐさま回復魔法で再生して、元通りです。
「やりますねえ……ですが水で刺してだめなら、他の物で刈り取れば良いのさ!」
ドラ子が近くの木に触ると、木の枝が巨大な鎌へと変化しました。
精霊魔法で武器を作り出したみたい。
「これなら吸収はできないだろう!」
ドラ子が鎌で子アルラウネの球根を真っ二つに切り裂きました。
ボトリと、子アルラウネの人間部分の身体が地面に落下します。
我が子ー!
よ、よくも私の子どもを。
許せない!
でもね、私の子供たちはこれくらいで死んだりはしないんだよね。
斬られた子アルラウネの球根が再生してきました。
あっという間に、元の子アルラウネに戻ったの。
子アルラウネも私と同じで、根っこが残っていれば再生できるのだ。
ネナシカズラの寄生根はドラゴンの体内を侵食中です。
つまり、身体の中の根っこをどうにかしないと、子アルラウネたちは永遠に再生し続けることになるんだよ。
「ぐぅ…………身体に力が入らない」
ドラ子さんが辛そうに呟きました。
子アルラウネが再生する栄養分は、ドラゴンの身体から頂戴しているの。
つまり子アルラウネを倒せば倒すほど、ドラ子さんの体力は吸収されてしまうということだね。
まあなにもしないでもエネルギーを吸い取っているから、なにをしても無駄というわけ。
「こ、こうなったらやむを得ない……超高圧の水流砲」
なんと、驚くことにドラ子さんはドラゴンの自分の身体に水レーザーを放ちました。
肉をレーザーで抉って、子アルラウネを根っこごと分離させようと考えたみたい。
ドラゴンの胸の一部が切り落ちて、子アルラウネが一人肉ごと地面へと落ちていきました。
肉を切らせてアルラウネを断つとはまさにこのことだよ。
ドラ子さんやりますね。
このままだと、せっかくの子アルラウネたちの餌がなくなっちゃう。
生みの親として、子アルラウネたちの食生活を守らないといけないよね。
私、ママとして頑張るよー!
気合を入れ直したところで、人間さんたちの方にいるニーナが大声を上げました。
「四天王のドライアドは、あなたですか?」
どうやらドラ子さんをフェアギスマインニヒトだと勘違いしているみたいだね。
まあ四天王だとしてもおかしくないような見た目と強さだから、そう思うのも仕方ないだろうけど。
「ニーナ、そいつは、四天王の、手下ですよ!」
「アルラウネに…………似ていますが、あたしの知っているアルラウネではないですよね。あなたはいったい何者ですか?」
ニ、ニーナぁあああああ!
違うの、私だよ!
たしかにニーナと最後に会ったときは、聖女として死んだときの姿だっただから、ニーナも私をひと目で認識することができた。
けれども10才くらいの時の私を、年下のニーナは知らない。
うそでしょう。
せっかくニーナと分かり合えたと思ったのに、また最初からなの?
くぅ……あの時、爆発瓶でニーナが気絶さえしなければ、色々とこちらの事情を教えることもできたのにくやしいよう。
「ドラゴンに小さなアルラウネが生えているわけですし、あなたも四天王の仲間ですね。悪いモンスターは聖女見習いであるあたしが成敗します!」
ニーナが杖を弓の様に構えて、光魔法の矢を放とうとしてきます。
このまま敵対するのはイヤ。
「ドラゴンは、アルラウネを、排除しようとした。私と、あのドライアドは、敵なの」
「言われてみれば」とニーナがドラ子に目を向けます。
人間からすると『モンスター=全員敵』という認識だから、厄介だよね。
敵でないとわかってもらえたわけだし、なんとかニーナに私がイリスだと気がついてもらわないと!
けれども、「私がイリス」だと声にして教えるわけにはいかないの。
ドラ子だけでなく、魔女っこが後ろで聞いているかもしれないからね。
だから、他の人にはわからないようにニーナにメッセージを送るのだ。
ニーナに私がイリスだと信じてもらうきっかけとなった、あの言葉で。
「ニーナ、伍長さんから、ハンカチは、受け取った? 汚れて、しまって、いなければ、いいんだけど」
ピタリとニーナの動きが止まりました。
「あなたは、もしかして……?」
「ニーナ、あなたの、特別な目なら、なにが真実だか、わかるはず」
光魔法のオーラを認識できるニーナなら、本当はわかっていたはずだよ。
アルラウネである私に、イリスの光魔法のオーラが存在していることを。
それは、こないだニーナが私をイリスだと信じてくれた、あのアルラウネと同じなんだから。
「ニーナ、私を、信じて!」
ニーナと私の視線が交差します。
小さく目を瞑ったニーナが、手にもっていた魔法の杖を掲げました。
「ホルガーさん、アルラウネを支援しましょう。敵はあのドラゴンとドライアドです!」
ニーナがドラ子さんに向けて臨戦態勢に入りました。
やったよ、ニーナに想いが通じたんだ!
森でニーナたちと戦ったあの時のことは無駄ではなかったね。
さぁ、これで味方が増えました。
私とニーナの共同戦線です。
そういえばニーナと一緒に戦うのは、これが初めてだね。
聖女時代には、まだ小さかったニーナとこうやって肩を並べて戦うことがくるなんて思いもしなかったよ。
「人間が増えたくらいで、アタシに敵うとでも思っているかねえ!」
ドラ子さんが私とニーナに向けて咆哮しました。
どうやら負けるつもりはないみたい。
ならこの改造ドライアドさんに思い知らせてあげましょうか。
ニーナ、あなたの力を私に貸してくださいね。
聖女の力というものを、見せてあげるのよ!
誤解も解けて、ついにニーナと共闘する時が来ました!
次回、聖域攻防戦 その4です。