135 聖域攻防戦 その2
私、植物モンスター幼女のアルラウネ。
聖域を守るために、ドラゴンドライアドのドラ子さんと交戦中なの。
ドラ子さんの水レーザーを受けた私は、植物の力を使って完全に再生しました。
植物は動くことはできない。
けれども、その代わり動物にはない驚異的な再生能力を持っているんだから!
「少しは、植物のこと、見直し、ましたか?」
「なんなんだお前は……いくら植物モンスターとはいえ、この再生速度はあり得ない」
実は私、元聖女なの。
聖女の光魔法と植物の再生能力を組み合わせれば、これくらい簡単ですよ。
「だが所詮はただのモンスター。無限に再生できるわけではないですよねえ……二重超高圧の水流砲」
ドラゴンの口から水のレーザーが発射されました。
再び体を切断される私。
でも、超回復魔法を使って、一瞬のうちに身体を再生させました。
無駄だよー。
根っこさえ残っていれば、私は何度でも蘇るの。
とはいえドラ子さんの言う通り、実は無限に再生できるわけではありません。
雨のおかげで成長に必要な水分は豊富だけど、その代わり日光が足りないの。
このままだといずれ私の中の光のエネルギーが底をつく時がくるかもしれない。
少しでも体力を温存するため、私は自分の残骸となった体を捕食しました。
おかげで、少しだけ力が戻ったよ。
自分で自分を食べるのはちょっと気が引けるけど、そんなことを言っている場合じゃないよね。
それに植物となってしまったせいか、そういったことは人間のときほど悪いことだとは思わないの。
「アルラウネさまー!」
空から妖精キーリの声が聞こえてきます。
上を向くと、キーリと一緒に人の姿に戻った魔女っこが大きな袋を持って浮遊していました。
「なんだあの人間は……なぜ人の身でありながら空を飛べる?」
ドラ子が不思議そうに呟きます。
それから少しの間を開け、口元を三日月のようにして笑みを浮かべました。
「あいつらもアルラウネの仲間だねえ。なら、生かしておく理由はないわけだ。超高圧の水流砲」
「魔女っこ、避けてー!」
水のレーザーが魔女っこ目掛けて放たれました。
マズイよ、あんな攻撃を小柄な魔女っこがくらえばひとたまりもない。
一撃で命を散らしてしまうって!
私の声に反応した魔女っこの姿が歪みました。
人の姿から白い鳥へと変身したのだ。
身体が小さくなったおかげで水レーザーを緊急回避することができたいみたい。
──良かったぁ。
心臓が止まるかと思ったよ。まあ植物だから心臓ないんだけどね。
「アルラウネ、例のもの持ってきたよ」
魔女っこが鳥の姿になったことで、先ほどまで手に持っていた袋が地面へと落下します。
そのせいで中身が外に出てしまったの。
大量の黄色い羽根が、雪のようにひらひらと舞い降りてきました。
「なんだい、その羽根は?」と、ドラ子が口にします。
「これは、私の、栄養です」
私は十数本の蔓を使って、空中に舞う羽根を搔き集めました。
これは四天王の黄金鳥人こと光冠のガルダフレースヴェルグさんの羽根です。
倒したあとに、キーリに頼んで羽根を毟ってもらったものだよ。
いつか売ろうと思って保存していたんだけど、それを今回使うことにしたの。
なぜなら、この羽根には光魔法のオーラが籠っているのだから。
パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ、パクリ。
「そんな羽根を食べたくらいで、いい気にならないことだねえ」
ドラ子さん。
それがいい気になるんですよ。
だって今の私は、光魔法のオーラをたくさん充電した状態なんだから。
これだけあれば成長するのには十分だよね。
気分が良いから変身シーンのセリフを叫んじゃうよ。
ハニープリズムパワー、メイクアップ!
私、大人に変身するのよ!
根っこが太く長く成長していきます。
それに呼応するように、球根が大きく膨らみ、葉っぱが青々と茂りました。
赤い花ビラが鮮やかに大きく広がっていくよ。
雌しべである人間部分も成長していきます。
幼女であった身体が大きくなり、少女のものへと変わりました。
胸の膨らみが横に広がり、徐々に丸みを帯びていきます。
ですが悲しいことに、急にそこで成長が止まってしまいました。
控えめに小さく膨らんだ私の胸は、大きいとは言えない代物となったのです。
子供の胸のままでした。
「10才、ちょっと、すぎくらいかな」
私の身体は、大人までは成長しなかったみたいです。
だいたい第二次性徴期くらいかな。
黄金鳥人さんの超高位光魔法を数発受けた時と比べると、光のエネルギーがかなり少なかったの。
そのせいで、前回と同じになるまでの成長はできなかったね。
それでも幼女から少女となった分、身体は大きく、根は地中の深くまで伸ばすことができました。
私は膨らみかけの胸を蔓ブラで隠します。
さすがにこれくらいの年齢になると、そのまま裸というのは恥ずかしすぎるよね。
私の華麗なる変身を驚きながら凝視していたドラ子さんが、震える声で私に尋ねてきました。
「その成長速度……モンスターのものとは思えない。いったいお前は何者なんだ、アルラウネ?」
「私は、ただの、お花ですよ」
もう聖女ではないからね。
私はただの植物モンスターです。
さて、変身もできたことだし、今度はこちらから攻撃するとしましょうか。
上半身はブラだけで、下半身は裸だけど、心にセーラー服を着ることにします。
美少女戦士セーラーアルラウネとは私のことなの。
蜜に代わって、おしおきよ!
「大きくなったところで無駄ですよう。二重超高圧の水流砲」
ドラ子さんが水レーザーを発射する前に、私はテッポウウリマシンガンを生成しました。
実は成長しながら影でこっそりと作っていたの。
早撃ち勝負は私の勝ちだね。
ズポポポポポポンッ!
無数の種の弾丸がドラ子さんへと駆け抜けていきます。
一拍遅れて水レーザーを発射したドラ子さんは、私を狙わずに種の弾丸を次々と打ち落としていきました。
それでも、弾数なら私のほうが上です。
十数発の種が、ドラゴンの固い皮膚に突き刺さりました。
「こんな種、痛くもかゆくもないねえ」
「勘違い、しないで。これからが、本番なの」
美少女戦士は一人だけじゃないんだよ。
種が一斉に芽吹きます。
黄色い根っこが傷口から体内に侵入して、ドラゴンの肉をえぐりました。
球根が膨らみ、そこから小さな花が咲きます。
幼女アルラウネが、ドラゴンに咲いたのです。
「ママー」「おはよー」「なにここ、ドラゴン?」「青いねー」「水っぽいかも」「お肉から、栄養、もらっちゃおうー」「ドラゴン、おいしいー」
黄色い吸血鬼ことネナシカズラの寄生根が、ドラゴンの身体を侵食していきます。
黄金鳥人さんのときにはできなかったけど、今の子アルラウネたちならドラゴンにだって寄生することができるの!
「なんだい、アルラウネがうじゃうじゃと生えてきて……いったいアタシに何をしたんだ、アルラウネ!」
「あなたには、私の、子供たちの、餌になって、もらおうと、思うの」
ドラ子さんの顔が引きつりました。
栄養を吸われてご飯になるのが、そんなに嫌なのかな。
その時、すぐそこの森の茂みからガサガサという音がしました。
私とドラ子が同時に視線を向け、それにならって子アルラウネたちが一斉に音のしたほうへと目を向けます。
すると、木の影から人間が出てきました。
五人組のその人間は、なぜか見覚えがある顔をしています。
その中の一人の女の子を見て、私は心の中で声を上げました。
──ニーナ!
聖女見習いのニーナが、そこに立っていたのです。
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次回、聖域攻防戦 その3です。