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129 ミルク出ちゃいました

 私、植物モンスター幼女のアルラウネ。

 厨房から執務室に移動して、いつものように炎龍様とテディおじさまの会話を聞いているところなの。



「それでだが、例の内調の件はどうだ?」


万事(ばんじ)つつがなく」


「それなら良い。それで、アルラウネ。これはいったいなんだ?」


「タピオカ、ミルク、ティーです!」



 私とスキュラさんの渾身(こんしん)の力作ですよ。

 まさか本当にできるとは思わなかったけど、スキュラさんのおかげで完成したのです。


 その自信作を、さきほど炎龍様に献上したところなの。



「ずいぶんと変わった飲み物だな。グラスの中に丸い物体がたくさん沈んでいるが」


「それが、タピオカ、です」



 炎龍様は「ふむ」と言いながら、タピオカミルクティーを口に含みました。

 


「飲み物を飲んだはずなのに、食べ物の触感も味わえるというのは新鮮かもしれぬな」



 そうでしょう、そうでしょう。

 見た目も変わっているし、炎龍様がお求めになっていた珍しい食べ物そのものですよー!



「しかもこのミルク、かなり濃厚というか、なんというか」


「それ、私が、出した、ミルクです」


「…………なん、だと?」



 炎龍様と目が合いました。

 じーっと見つめ合う私と炎龍様。


 え、そんなに真剣な目つきで見つめられると、恥ずかしいのですが……。



「アルラウネ…………其方(そなた)、ミルクを出したというのは、まさか乳ではあるまいな?」



 ──乳?

 え、そんなわけないよー!


 

「ちがい、ます!」



 勘違いされるのは恥ずかしすぎるよう。

 私、幼女だから出したくても出ないの。

 早く訂正しないと。



「ミルクは、これです」



 私は蔓にココナッツを生成しました。

 そう、実は植物園にココヤシの木が生えていたのです。

 


 ココヤシの木にはココナッツと呼ばれる果実ができるんだけど、その実の中にココナッツミルクが入っているの。


 成熟したココナッツから取れる甘くて乳状のこのココナッツミルクと、若いココナッツから取れるココナッツジュース。

 この二つにタピオカを混ぜて作ったのが、炎龍様に献上したタピオカミルクティーです。

 

 

 ちなみにティー部分であるお茶を私産にすることは諦めました。

 なのでこれは正確に命名すると、タピオカココナッツミルクジュースなのです。

 


「どうりで、牛のミルクとは味が違ったわけだ」



 炎龍様が安心したように呟きました。

 牛乳はさすがに私では作れないからね。

 あくまで植物産でかためてきましたよ。



「ここまで驚いたのは、アルラウネを見つけたとき以来だな。一瞬、我はなにを飲まされたのかと言葉が出なかったぞ」



 私、胸からはミルクは出ないけど、果実からは出すことができるの。

 その代わり、胸からは別のものが出るんだけどね…………。



「タピオカよりも我は、アルラウネが乳を出したという言葉に驚いた。だがそれ以上に、他の植物を蔓に生み出すことができる能力に賞賛を送りたい」



 あれ、おかしいね。

 タピオカココナッツミルクジュースを飲んだことよりも、他のことに注目がいってしまったみたいだよ。



「やはり其方は我の思った通り、面白いアルラウネだ。メイドにしたのは正解だったな」



 もしかしてこれ、褒められてる?


 あぁ、炎龍様に頭をポンポンとされるの悪くないよー。

 魔女っこのときの癒されるような感じとは違って、なんだか落ち着く気がする。

 手が大きいから、それで安心感があるのかも。



「約束通り、植物園への行くことを許す。メイドに命じて運ばせよう」



 やったー!

 これで植物園内にある例の植物を捕食すれば、魔王城から脱出できるかもしれないよ!




 私が喜んでいると、いつの間にか部屋の外に出ていたテディおじさまが、扉を開けて入ってきました。



「グリュー様、四天王のフェアギスマインニヒト様がお目通(めどお)りを願いたいとのことですが」


「精霊姫が……いいだろう、通せ」



 姉ドライアドが炎龍様に会いに来た?

 いったい何の用なんだろう。



 陸ガメと一緒に、姉ドライアドが執務室へと入ってきました。

 炎龍様に挨拶の口上を述べると、「本日は出立のご挨拶に参りました」と言います。



「フェアギスマインニヒトよ、もう出陣するのか?」


「ちょうど今、この山からガルデーニア王国のドリュアデスの森へと良い風が吹いているのでございます。風と共に鳥モンスターに乗っていけば、すぐに塔の街へと辿り着くことでしょう」


「そうか……其方には期待している。消えたガルダフレースヴェルグの後任としての責務を果たせ」


「かしこまりました」

 


 うやうやしく首を垂れた姉ドライアドは、私を一瞥(いちべつ)してから部屋を出ていきました。



 これってつまり、姉ドライアドがドリュアデスの森へと戻るということだよね。

 出陣と言っていたし、姉ドライアドは森と街を攻めようとしているんだよ。



 ついに姉ドライアドが動いてしまった。

 こうしてはいられない、一刻も早く、森に帰らないと。

 森にいる魔女っこたちの命が危ないよ!



「ご主人様、これから、植物園に、行っても、よろしい、でしょうか?」


「良いだろう。メイドを呼んできなさい」



 テディおじさまが廊下に出てメイドを呼びに行きました。

 二人きりになると、炎龍様は再び声をかけてきます。



「それにしても、生後数日のアルラウネが見たこともない新しいジュースを生み出すとは信じられぬな」


「おそれ、いります」


「本当は何年も生きた知識あるアルラウネなのではないかと疑いたくなる。たとえるなら、我が燃やしたはずのアルラウネが実はまだ生きていて、姿を変えて目の前にいるのではないかと錯覚してしまうのだ」


「…………難しい、こと、わかん、ないです」



 ひいえぇええええええ!

 炎龍様の視線が怖いよう。


 生まれたばかりの幼女のはずなのに、ちょっとやりすぎたかな。

 いまにも私が炎龍様の部下の仇のアルラウネだとバレそうだよ。

 私、ピンチです!



「お待たせいたしました。メイドを連れてまいりました」


「やったー! おじさま、早く、廊下に、連れてってー」



 渡りに船です。

 良い時に戻って来てくれたよテディおじさまー!



「では、ご主人様、行って、参ります」


「ゆっくりしていくといい。植物園は初めてであろうからな」



 もちろんでございますことよ、炎龍様。

 おほほほほほ……。



 廊下に出たテディおじさまが、メイドさんに私を渡しました。

 そうして私はメイドさんに運ばれます。




 本日、私の足となってくれるのは、悪魔メイドさんでした。

 悪魔のような角と羽に尻尾まで生えているね。


 しかもこの悪魔メイドさん、こないだ姉ドライアドの部屋から炎龍様の部屋まで運んでくれた人と同じなの。

 ついでに先日、廊下で私のことを『壺』だと悪口を言っていたメイドの一人でもあります。



 あの時のことは、廊下に眠り粉を撒いて眠りメイドさんになってもらったので、それで帳消ししたつもりだよ。

 なので、この期に及んでなにかするつもりはないのです。

 

 ──そう、私からは。



「メイドさん、どこへ、向かって、いるのですか?」



 この悪魔メイドさんは魔王城の出口ではなく、他のところへ向かっているようなの。



「こちらで合っております」



 外への近道ってことかな?

 それなら文句はないんだけど、どうやら私は悪魔メイドさんにクレームを言わなければならなくなりました。


 なぜなら、悪魔メイドさんが私を連れてどこかの空き部屋に入ったからです。

 


「……なんの、つもり、ですか?」



 もしかして、こないだ私が眠らせたことの意趣返しなのかな。

 テディおじさまにたっぷりと怒られていたみたいだから、その恨みを晴らすために仕返しをしようとしているのかも。

 魔王城のメイド、悪質だよー!



 この悪魔め─────って、悪魔メイドさんでした。


 ここは魔王城だから、悪魔だってその辺で働いているの。




「待っていましたよ」



 突然、部屋の奥から声をかけられました。

 どうやら誰かが私を待っていたみたい。

 ということは、悪魔メイドはそこの人とグルだったのかな。



「私に、なんの、用ですか?」


「あなたへの用なんて一つしかありませんね」



 声の主は私よりもはるかに大きく、しかも知っている相手でした。

 ある意味、最悪といってもいいお方なの。



「仲間になるのを断ったことを、あの世で後悔することですね」



 両目で私を見据(みす)えていた人物。


 それは、姉ドライアドでした。


ココヤシ:ヤシ科。ココナッツはこのココヤシの果実のことをいいます。この果実は海水に浮かぶので、海に落ちたココナッツは遠い大陸や島の砂浜で発芽し、分布を広げることができます。


次回、襲撃の三精獣と戦闘メイドです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 炎竜さま、子どもは苦手だとかいいつつ、実際に子どもができたら子煩悩になるタイプだこれ
[一言] 世代変わってるけど別個体でも知識を引き継いでたら本人扱いなんだろうか?
[一言] 内調……魔王軍内部に裏切り者がいるか。 まぁ姉ドライアドでしょうね。 他の四天王も、魔王も動物だろうし……。 しかし、このメイドも植物をバカにしていたような……
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