手記 蜜狂い少年はアルラウネの夢を見るか 後編
引き続き少年視点です。
オレの名前はアルミン。
森の中でハチ型モンスターに襲われてどこかへ運ばれたら、なぜか花の魔物であるアルラウネに捕まっていた。
でも、これはきっと運命だったんだ。
だってこの先のオレの人生は、アルラウネの蜜を食べたこの時から全てが変わってしまったんだから。
一口、蜜を舐めてみる。
すると世界が七色に輝いたのだ。
蜜が、凄く、美味しいぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!!
ナニコレ。
ナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレ!?
天界に住まうとされる天使は極楽を味わっていると聞いたことがあったけど、もしかしたらこれを食べているから天国だと言われているのかもしれないと思えるくらい美味しかった。
それからのことは全て夢の中の出来事のようだった。
アルラウネに色々と聞かれた気がするし、なんで植物モンスターなのに国名とか道の名前とか世間のこと知っているんだよと何度もツッコミたくなった。
けれどもオレはそんな野暮なことはしない。
だって、アルラウネがオレに蜜をくれるからだ。
蜜が、オレを変えてくれた。
オレの精神的なご主人様は、今日から蜜になったのだ。
アルラウネに蜜を与えられて数日が経った。
オレは森での生活に満足していた。だってここには蜜があるから!
でもそんな生活も終わりを迎えてしまう。
ジジイがオレを探していることがわかったからだ。
アルラウネから餞別にと、小さな蜜の玉を貰った。
オレはそれを見た瞬間、すぐに食べなければならないと確信を得た。
口の中に蜜玉を入れると、舌が蜜になって溶けてしまうような甘さと同時にオレは生まれ変わるような感覚を味わった。
アルラウネに言われるがまま飲み込むと、胃袋の辺りが温かく包まれるのを感じる。
なんだろう、今のオレならどんな怪我をしてもすぐに回復してしまう、そんな気分になれるんだ。
優しいアルラウネはオレにもう一つ蜜玉をくれた。
凄い!
甘っいよ!
オレは無敵になった気分だった。
ジジイと合流した。
ジジイはサルのモンスターと会えなかったらしい。代わりに簡単な結界のようなものを張ったから村には近寄れないようにしたようだ。
すぐにジジイとオレは村を去った。
どうやら近くの山岳地帯でドラゴンの目撃情報があったらしい。この辺りでドラゴンというと魔王軍所属の個体に違いないとジジイが呟いていた、
けれども結局、山岳地帯に行ってもドラゴンと会うことはなかった。こんなことならあの村にもっと滞在していたかったな。そうすればこっそりとアルラウネに会いに行けたというのに。
そうしてオレの修行も再開された。
けれども、もう辛くない。
なにせオレには蜜玉がある。どんな厳しい修行も、甘く感じてしまう。
オレの新しい人生が始まった。
生活の全ても蜜が基準だ。
蜜こそオレ一番の好物であり家族であり最愛の人であり未来であり過去であり人生なのだ。
蜜のためならなんでもできる。
でも、そんな蜜玉も、もう溶けてなくなりそうだった。
ジジイがいる限り、あの森にはそう簡単には戻れない。
不思議なことなのだけど、あのアルラウネの蜜を飲んだ時、光回復魔法を受けたときと同じような温かい感じがしたのだ。
光魔法が使えるのは人間の女性だけ。
そういえば魔法が使えないはずのアルラウネが、なぜか魔法の知識を持っていたことにも驚愕させられた。
木漏れ日のような太陽光が濃縮されたあの至福の時。
そう、まるで聖女が使用するという光回復魔法に包まれたような感覚だった。
あの感動をずっと味わっていたい。
そのためには、光魔法を使えばいいじゃないか。
幸い、まだ蜜玉の残滓は残っている。
この感覚を頼りにして、蜜玉を再生させる感覚で回復魔法を行使する。
そうすれば、体内でずっと蜜の味を堪能することができるはずだ。
そうと決まれば特訓だ。
けれども、それからが辛かった。
蜜の禁断症状が出てしまったからだ。
これまでの甘い生活が嘘のよう。
やはり蜜が、足りない……。
あの蜜をまた舌の上で味わいたい。
喉の奥底まで感じたあの至高の甘さ。
オレの正体は実は蜜だったんじゃないかと勘違いして体中が全て蕩けてパンケーキに乗ってしまうんじゃないかと思えるくらいの甘さ。
あの蜜を味わうためなら、オレは悪魔にだって魂を売れる。
アルラウネの下僕にだってなれる。
そうだ、アルラウネに会いに行こう!
オレが蜜の味を知ってから、もう三年が過ぎていた。
ジジイも歳だ。
オレが全速力で逃亡すれば、追われたとしても捕まるのに数日はかかるはず。その間に、またあの蜜玉を貰おう。
そうしてオレはあの森にやって来た。
──はずだった。
そう、森はなくなっていた。
跡形もない。ただ黒い大地が続いているだけだった。
アルラウネの姿もない。
植物であるはずのアルラウネが移動できるとは思えない。ならいったいどこへ消えてしまったのか。
あの村もなくなっていた。
焼け落ちたような廃墟が寂しく風化していっていた。
残っているのは、簡素な墓だけ。
前に来た時はこんなに墓石の数はなかったはず。
白髪の女の子の両親のように、みんな誰かに殺されてしまったのだろうか。
いったいこの地で何が起きたのか。
それを知る人は誰もいなかった。
オレは絶望した。
アルラウネも、あの墓石の村人のように死んでしまったのではないか。
そうだとすると、オレはもう二度とあの蜜を飲むことはできない。
残っているのは、わずかに体の中で残り続ける蜜玉のみ。
この蜜玉を再生させ続けることしか道は残っていない。
再生というと回復魔法だ。
人間が使える回復魔法は光回復魔法のみ。
女神の加護を受けた女性しか使用できず、数万人に一人しか才能を持った者は現れない。
けれども、どうしてかオレはその光魔法を少しだけ使えるようになっていた。
あの蜜玉を体の中心にするよう意識して発動すると、どうしてか光魔法が使えたんだ。
その日から、オレは体内の蜜玉を再生させ続けてきた。
そうしてオレは気がついてしまった。
あの新種のアルラウネ、もしかしたら他にも存在しているんじゃないか?
そうと決まれば、探しに行こう。
今以上に光魔法を鍛えながら旅に出よう。
全ては蜜のために……!
後に男でありながら光回復魔法を使用できる唯一の存在となり、他国どころか大陸全土、さらには魔王にまでその名を知らしめる大賢者となるのだが、そのことを少年時代のアルミンはまだ知らなかった。
少年視点のお話です。少し長くなってしまいました。
これも全ては少年が蜜のことばかり考えているからですね。
初登場時には普通の男の子だったのに、気がついたら蜜狂いの変態になってしまいました。どうして……。
もう二度と蜜玉を貰うことができなくなったと少年が悟ったあの日、世界に絶望したそうです。それも、毎晩の夢にアルラウネが出てくるほどに。
次からは植物モンスター娘視点に戻ります。
明日も一日二回更新を予定しております。
次回、森の主襲来です。







