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手記 蜜狂い少年はアルラウネの夢を見るか 前編

少年視点です。

 オレの名はアルミン。

 大賢者の祖父を持つ、10才の魔術師見習いだ。


 祖父との旅は修行ばかりで辛いことしかなかった。

 大賢者として名が知れている祖父から個別指導を受けているのだから、厳しくなるのは仕方がない。


 でもたまにはオレに甘い対応をしても良いと思うんだよね。

 両親も魔王軍に殺されてしまったし、祖父にとってオレは二人の忘れ形見みたいなもの。

 だからもっと修行も甘くして欲しい。辛いのは嫌だ。


 そんな鬼ジジイが、旅の途中で立ち寄った村から依頼を受けたのだ。

 なんでもサル型のモンスター、バルバアッフェが最近この辺りで暴れているらしい。


 バルバアッフェは知能が高い魔物として有名だ。

 冒険者の剣や槍を奪って己で使用するくらい賢い。

 でも頭が良いからこそ、人里にはあまり近寄らないはずなのだ。


 バルバアッフェはモンスターでは珍しく家族思いだ。仲間が殺されることをあまり歓迎しない。

 だからこそ剣の腕では人の兵士に負けるけど、森のモンスターになら剣で勝てるということも知っている。

 そのため、縄張りの外には滅多に出ないのだ。


 そんなバルバアッフェが縄張りである森を出る。これは一大事らしい。

 村長曰く、最近の森は生態系が変わっているのかもしれないとのことだ。


 相当強いモンスターが森に現れて、他のモンスターを駆逐しているのかもしれない。それで家族を殺されないようにとバルバアッフェは森を出た。


 それで代わりに人間の家族を殺したのだ。両親が殺され、残ったのは10才の子供だけだという。白髪の大人しそうな女の子を村長の家で見かけたのだけど、その子が殺された夫婦の一人娘らしい。可哀そうに。


 森に新たに現れたモンスターは、バルバアッフェが人よりも恐ろしいと認識していることになる。

 それほどのモンスターが近くに住んでいるのはとても危険らしい。


 そんな森の化け物よりも、近くのモンスターで困っているのをなんとかしなければと、ジジイは一人でサル狩りに出かけた。


 村に残っている間に修行を続けるようにときつく言われたけど、そんなの聞くつもりはない。

 やっとオレは自由になったんだ。もう激辛の鬼ジジイの言うことは知らない。

 

 これでもオレはかなり強くなっている自信がある。

 魔法の素質だってある。

 オレはこんな田舎の森に棲んでいるモンスターに負けることはない。


 そうと決まればと、オレは村から脱出した。

 向かう先は森の向こう側。

 王国から帝国へ亡命するのだ。


 でも、オレは甘かった。


 森に入って早々、ハチ型モンスターのツォルンビーネに遭遇してしまい、毒針で動けなくされてしまったのだ。


 毒のせいで全身からサウナに入ったように汗が出ているのに、体の中が寒い。雪に包まれているような感覚だった。目も開かない。

 このままオレは毒で死ぬか、はたまたハチに食われて死ぬのかと諦めて、オレは気を失った。



 次に目を覚ますと、綺麗な女の人に抱きかかえられていた。


 ハチに殺されると思っていたのに、出てきたのは女の人。


 しかもかなり綺麗な人だった。まるで宮殿に飾られている聖女の絵画から出てきたような美少女。

 たぶんオレよりも4、5才くらい年上かな。

 

「お姉さん、誰?」

 

 返答はない。

 ただオレの頭を優しく撫でてくれるだけだった。


「ここは、いったい?」


 周囲を見渡せば森の中なのは間違いない。

 うへぇ!?

 ちょっと、このお姉さんの体、下が花なんだけど!


 理解した。

 このお姉さんはモンスター。名前はたしかアルラウネ。

 人を誘って虜にする危険な魔物だ。


「うわぁああああ!?」


 すぐに逃げようとしたけど、オレはここでも甘かった。

 蔓で捕まってしまったのだ。

 

「……オレを食べるのか、化け物?」


 アルラウネがショックを受けたような顔をする。

 驚いた。こいつ、もしかして人の言葉がわかるのか?


 半分は人型だし、知能はかなり高いと推測する。

 けれども次の瞬間、オレはもっとビックリすることになる。


「たべ……ない、よ……」


 しゃべったぁああああああああああああ!?

 

 嘘だろう。信じられない。

 アルラウネはモンスターとはいえ外見が半分人間なだけの植物。

 人と会話することはできないと大賢者のジジイが話していた。


 それなのにこのアルラウネはこうやって言葉を操るのだ。やっぱり信じられない。


「…………わたし、あなたを、食べない」


 新種だ、新種に違いない。

 その証拠に、このアルラウネは自分のことを「お姉さん」と呼ぶように命令してきた。


 なにこれ、何の罰ゲームなの?

 どうしてオレは魔物のことを「お姉さん」と呼ばなくちゃならないんだよ。

 もしかしてオレ、こいつに誘惑されているのか?

 アルラウネは人の男を誘い込むと本に書いてあった気がする。


 いくらこのアルラウネの胸がちょっと大きいからって、オレはそう簡単には落とされないぞ。決して恥ずかしくて直視できずに顔を横にしているわけではない。


 顔が暑いのも毒のせいだからな。

 というかなんでこのアルラウネは胸に蔓を巻いているんだよ。

 お前植物だろ。花がブラジャーしてるとか意味わかんないんだけど!

 

 でも、もっと意味がわからないことがあった。


 このアルラウネ、凄く良い匂いする……。

 今までの人生で出会ったことがない、不思議な香りだった。


 その正体はすぐにわかることになる。

 なんとアルラウネの蜜だったのだ。


 口から滴る蜜はよだれにしか見えなくて汚そうだったけど、それでもオレの口内もよだれで一杯になっていた。体が蜜を欲している。

 オレは蜜を一口だけ食べることにした。


 今思えば、ここからオレの人生は大きく変わってしまった。


 天国を味わってしまった、この瞬間から。



 オレは、このアルラウネの虜になったのだ。


長くなってしまったので前後編になります。

本日も一日二回更新となります。


次回、蜜狂い少年はアルラウネの夢を見るか 後編です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >人を誘って虜にする危険な魔物だ。 うん、何一つ間違ってませんねw
[一言] 麻痺毒でよかったなー、蜂の種類によっては中枢神経破壊するタイプもいるから……
[良い点] おませなショタキャラですねw 蔓ブラしておいて良かったですね
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