103 タマネギ大好き騎士団長さんと華道の心得
私、タマネギ成分たっぷりの植物モンスター娘のアルラウネ。
あそこでのたうち回っているのは料理下手な騎士さんたち。
みんな、私の蔓を切ったせいで、タマネギの催涙物質にやられてしまったの。
目と鼻から大量の体液を流しながら、悶絶しているね。
泣くほど嬉しいのでしたら、おかわりをあげましょう。
蔓の先端にタマネギを生成します。
そのタマネギを騎士さんたちのお口のなかに突っ込みました。
声にならない悲鳴を上げる騎士さんたち。
お腹がいっぱいになったのか、すぐに眠ってしまったみたい。
催眠粉入りのタマネギのお味は、お気に召してくれたでしょうか。
私を殺そうとしたことに比べれば、安いものだよね。
さて、炎魔法を使った騎士と冒険者、そして蔓を切った騎士はみんな地に伏せています。
残るは血気盛んな騎士団長さんだけだね。
一応、最後通告くらいはしてあげましょうか。
「降参、してくれ、ますか?」
「誇り高き塔の街の騎士団がモンスターに屈するなんて許されるはずがない!」
「その騎士さんは、タマネギを食べて、みんな寝ていますけど?」
「それもこれも、お前のせいだ! モンスターであるならそれは悪! 死、あるのみ!!」
騎士団長さんが魔法を唱え出しました。
「土騎牛」
土魔法の牛が出現します。
騎士団長さんは二本の大きな角を持つ騎牛に乗って、私に突撃してきました。
でもね、人間からすると怖そうな牛さんだけど、私からすると子牛みたい。
前に住んでいた森で幾度なく戦って来たウシ型モンスターと比べると、かわいいとしか感想がないの。
でも、わざわざ私のところに来てくれるのですし、少しだけ歓迎してあげますよ。
ごきげんよう、騎士団長さん。
わたくし、あなたをお食事会にご招待いたしますわ。
テッポウウリマシンガンで、魔法の土牛に一発の種を発射します。
土牛さんを苗床にして、刺さった種から芽が飛び出ていきます。
招待状として、モウセンゴケの種を植え付けたの。
元が土なら、いくらでも種から植物を生やすことができるよね。
元気に成長する巨大モウセンゴケは、あっという間に土の騎牛さんを飲み込んでしまいました。
「なんだこれはぁあああ!?」
モウセンゴケは騎士団長さんを捕獲します。
騎士団長のフルアーマーに、べっとりとしたモウセンゴケの粘着質の触手が這いずり回っているね。
このまま無理やり騎士団長の鎧をはいで、丸裸にしちゃいます。
騎士団長さんを下着姿のちょっと恥ずかしいラフな格好に着替えさせて、ご飯のお時間にしましょう。
今回はですね、わたくしの私的なお食事会なのです。
だから鎧はいりませんよね。
私的というわけで、今日はわたくしが腕を振るって料理をさしあげますわ。
騎士団長さんの顔の前に、タマネギをたくさん生成します。
せっかくですから、目の前で料理をお見せしますの。
騎士から奪った剣を蔓で使って、タマネギをスライスしていきます。
あぁ、騎士団長さん、大泣きするほどタマネギが好きだったのですね。
ごめんなさい。
わたくしったら、気がつきませんでした。
それだけ泣いて喜ぶということは、早くご飯が食べたいということなんですね。
では少し早いですが、お食べになっていただきましょうか。
騎士団長さんのお口の中に、タマネギを大量に詰め込んであげます。
目から大粒の涙が零れ落ちました。
どうやら好物のタマネギが食べられて、感激しているみたい。
大喜びする騎士団長さんは最初は暴れ出していたけど、すぐに静かになりました。
失神するほどタマネギの味に感動してくれるなんて、わたくしも嬉しいですの。
では、食事の次は華道のお時間にいたしましょう。
粘液と涙まみれの騎士団長さんを、そのへんの木に吊します。
ご覧になってください。
涙目になって粘液まみれになっている騎士団長さんの生け花ができましたよ!
わたくし、華道の心得もあるのです。
口からタマネギの花を咲かせて、騎士団長さんは立派な花器となってくださいました。
騎士団長さんの言葉を受けてわたくし、ショックのせいか気が高ぶっておりますの。
だからそのムシャクシャする気持ちを、お花にして表現してみました。
タマネギを咥えた騎士団長さんは涙目のままだし、なんだか嬉しそうだね。
そのまま生け花として森に花を咲かせてくださいね。
「これは驚いたな」
残った数人の人間さんの中から、青い鎧を着た一人の殿方が出てきました。
パチパチパチと拍手をしながら、不用心に私に近づいてくる。
騎士団長の鎧とは趣向が違うけど、立派な装備を付けている人間さんです。
「ボクは『龍水の結晶』のホルガー。ドラゴンキラーの美しき冒険者だ」
青髪でキリ目のこの人間さんは、どうやら冒険者さんだったみたいだね。
美しいと自称するのは、鎧のことではなく自分の顔のことかな。
たしかにちょっと美形かも。
とはいえ人間を辞めてお花になった私にとっては、あまり響かない容姿だけどね。
それに私の好みは勇者さまみたいな感じだし…………コホン。
この青髪の冒険者、ドラゴンキラーなんて言っていたし、装備からしてもかなり実力のある冒険者チームかもしれないね。
──ん、『龍水の結晶』?
そういえば前に私に倒された冒険者が、この街だとあとは『龍水の結晶』くらいしか私に勝てそうな冒険者はいないみたいなこと話していたね。
ということは、この人が塔の街で一番強い冒険者さんなのかな。
冒険者はモンスター退治の専門家。
街の騎士団長と比べると、モンスター的にはかなり厄介なお相手です。
「ボクは美しさだけではなく強さも求めているんだ。だからボクはいずれこの国で最強の男になる。お前を倒せば、その良い足掛かりになりそうだ」
獲物を見分するようなネットリとした視線を感じます。
どうやらこの冒険者もモンスターは無条件で殺す主義のお方みたい。
というか、国で最強の男を目指しているんだ。
おそらく現状で国内最強の男というと、私の婚約者であった勇者さまだろうね。
では、その勇者さまをよく知るわたくしが、あなたの実力を測ってご覧にいれましょう。
国最強の男になるつもりなら、勇者さまに捨てられた元聖女くらいは簡単に勝てるようにならないといけませんよ。
私が臨戦態勢になると、青髪の冒険者さんが片手を上げました。
呼応するように、三人の冒険者が前に出ました。
どうやら『龍水の結晶』のお仲間さんみたいだね。
「いつものやるぞ」
青髪の冒険者さんがそう言うと、お仲間たちがそれぞれ魔法を唱え出しました。
「疾風の加護」
これは突き抜けるような風の動きを得るという恩寵によって、素早さを上げる風魔法の支援魔法。
「土竜の加護」
これは大地のように硬い土の皮膚を得るという恩寵によって、防御力を上げる土魔法の支援魔法。
「侵火の加護」
これは脈動する火の力を得るという恩寵によって、攻撃力や筋力を上げる炎魔法の支援魔法。
どの支援魔法も、継続して魔法を唱え続けなければならないたぐいの魔法だね。その代わり、効力は抜群!
どうやらこの『龍水の結晶』は、お仲間が支援魔法をかけ続けて、リーダーである青髪の冒険者が一人で戦うスタイルみたい。
「水竜の牙から創造されたというこの宝槍のランスと、水竜の鱗から生まれたというこの宝具の鎧、そして3つの支援魔法を受けたボクに、勝てないモンスターなんていないッ!」
自信満々に宣言する龍水の結晶のリーダーさん。
では、その言葉が真実か確かめさせてもらいましょうか。
テッポウウリマシンガンを発射です。
ズポポポポポポンッ!
私の種が青髪の冒険者さんへと飛んでいきます。
けれども、体に当たる前に、水面にぶつかったかのように衝撃が吸収されます。
──じゃぽぽぽぽぽん。
突如、空中に現れた水の塊によって、種が防がれます。
いつの間にか、青髪の冒険者さんは水の鎧を身にまとっていました。
その水の肉壁によって、種が吸い込まれてしまったみたい。
「水竜の憑依鎧。水で生成された鎧を体に纏う、攻防一体の水魔法だ」
どうやら塔の街一番の冒険者というのは本当みたい。
特殊な水竜の槍と鎧によって、水魔法の力を何倍にも増加させているようだね。
魔法の鎧から噴水のように水が湧き出ていて、どんどんと水の塊が大きく膨れていく。
水竜のような形に留まったところで、膨張は止まりました。
青髪の冒険者さんが水でできた小さな水竜のようになっているよ。
水の鎧を全身に纏っているということは、タマネギの催涙物質もねむり粉も、水の塊によって阻まれてしまうだろうね。
攻撃というよりも守りに特化した魔法みたい。
だけど、この厄介な相手とどう戦おうかというような感情は、私には一滴たりとも生まれなかったの。
「どうだ、植物モンスター。美しく、そして恐ろしいボクの姿に驚いたか?」
恐ろしいだなんてとんでもないです。
むしろ、おいしそう……!
──ゴクリ。
だって、あなたはなんて素敵な体をしているのでしょうか!
その水の鎧は、私にお水の飲み放題をしてくださいと言っているようなもの。
私は植物。
お水を吸収することが生き甲斐の生物なの。
水竜の水を憑依させたあなたは、ただの貯水プールにしか思えない。
魔法の水の塊は、雨水や地面の水分とは違った味がしそうな気がするよ。
植物として、飲まずにはいられないよね。
この時点で私は、水竜の冒険者さんを獲物としてでしか見られなくなっていました。
扱い的には、ドリンクバーのジュースです。
いただきますー!
タマネギによって涙が出るのは硫化アリルが原因のようです。タマネギから揮発した硫化アリルが放出され、目や鼻の粘膜を刺激されて涙が出てくるようですね。
次回、水竜の鎧ドリンクバーと森のサラダバーです。