100 私は悪いアルラウネじゃないよ
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
太陽光がポカポカして日光浴気持ち良いの。
私の周囲は、ストーカー四天王の光魔法によって更地に変えられてしまいました。
そのせいで、日当たりと見晴らしがよくなったのだ。
以前までは目にできなかった、塔の街のシンボルである高い塔が、私のいる場所からでも見えるようになったの。
塔の街は高台にあるから、こうして森から塔を眺めるのが私の暇つぶしの一環になっている。
そんな塔の街から、再び冒険者さんたちがやって来てしまったのです。
「なんだ、どんな化け物だと思えば可愛らしいアルラウネじゃないか」「あの二人は新人冒険者だから、ビビったんだろう」
どうやら昨日とは違う冒険者の二人組みたい。
とにかく争いを好まないモンスターであることを知らせないとね。
「人間さん、どうか私の、話を、聞いてください」
「こいつ、植物のくせに言葉がわかるぞ」「ユニークモンスターか。倒せば自慢できそうだな」
そ、そんなぁ。
冒険者同士の自慢のネタにするためだけに、私を殺そうとするなんて……。
モンスターだからって、あまりにもひどすぎる。
私、泣いちゃいそうです。
そんな私の気持ちも知らずに、冒険者さんが弓で矢を放ちました。
同時に、もう一人の冒険者が槍を構えながらこちらに走ってきます。
まったく、そんな物騒な物をレディーに向けてはいけませんよ。
「えいっ」
飛んでくる矢を蔓で掴みました。
ついでに地中から蔓を出して、槍を無理やり奪い取っちゃいます。
「な、なんだこのアルラウネっ!?」「おそろしく強いぞ!」
私が強いのではなくて、あなたがたが弱いのです。
蔓に咲かせたマンイーターから、眠り粉を二人に吸わせます。
うるさい殿方たちは黙ってくださいました。
さて、この人間たちはどうしましょう。
食べるつもりもないし、このまま置いておいても仕方ないよね。
うん、森の外に捨てましょう。
私はパンパンと手を叩きます。
すると、背後に枯れ木として控えていたトレントが、私の前にサッっと走りながら移動してきました。
「この人間、森の外に、置いてきて」
私の言いたいことをくみ取ってくれた妹分は、二人の人間を担いで森の外へと走っていきました。
あっ。二人の弓と槍を一緒に戻すの、忘れていたよ。
しかも武器以外にも荷物まで落ちているね。
──って、あれ?
その冒険者さんのカバンの中に、魔女っこの木筒が見えるのですが!
えぇ、もしかしていまの冒険者さん、蜜の購入者だったの!?
世の中、広いようで狭いね。
とりあえず、武器もカバンもこの場に置いておくしかないかな。
「ほらっ。やっぱりまた人間が来たでしょう」
「キーリの、言う通り、だった」
私の背中に隠れていた妖精さんが、ふわりと飛び上がりました。
また襲われるんじゃないかと心配してくれて、ついていてくれたのだ。
「もしかしたら、こないだの四天王との闘いが人間に見られていたのかもしれないね」
「それで、私を、調べに、来たの?」
「人間は人間でない者を恐れる傾向があるからね。森にいる生き物ならなんでも狩りの対象だよ。ほら、噂をすれば……」
キーリが森のほうを指さします。
すると、新たに三人組の冒険者が現れました。
これじゃ落ち着くこともできないね。
まずは話し合あって穏便に済まないか交渉しましょう。
「聞いて、ください。私は、悪い、アルラウネでは、ないです」
「そうやって油断させたところで、鳥モンスターのように食べようってつもりなんだろう、化け物のお花さんよう」「化け物というより美人じゃないか。惚れちゃいそうだねえ」「お二人共、狩りの最中に油断は禁物ですよ」
うぅ、また信じてもらえなかったよ。
モンスターというだけで悪だと思うなんて、人間って酷いよね。
私も元は人間だったけどさ、もう少し植物モンスターに優しくして欲しいよ。
しかもなんだか、前の二組と比べるとちょっとだけ強そうな三人パーティーな気がする。
魔法使いも混じっているみたい。
でも、私の敵ではないの。
「け、剣が効かない!?」「こんな恐ろしい美人は初めてで、オレっちもう死んじゃいそうだよお」「バカな、風魔法の刃が通じないだと……!」
一通り騒いだ冒険者さんたちには、ぐっすりとお休みしていただきました。
森への遠足で疲れていたみたいで、すぐに眠ってしまったの。
前の冒険者を捨てに行ったトレントが戻り次第、再び冒険者さんを森の外へと連れて行ってもらいます。
あっ、また武器と荷物を持たせるのを忘れちゃったよ。
これ、どうしよう。
少しずつ落とし物が増えてきちゃった。
結果、この日だけであと二組の冒険者が現れました。
全員、眠らせて森の外に置いて来たの。
だから大怪我をした人はいないから、恨まれてはいないとは思うんだけどね。
武器と荷物が森に置いたままになっているのは気にしているかもしれないけど、命と比べれば安いものだろうし。
とはいえ、溜まっていく荷物、どうしようかな。
いつか誰かに引き取ってもらいたいんだけど。
私が冒険者さんの荷物の処遇について悩んでいると、魔女っこが不安そうな顔をしながら私に抱き着いてきます。
私が人間に襲われたことが心配みたい。
「アルラウネ、大丈夫?」
「平気。それよりも、今日は、どのくらい、売れたの?」
「それがね、凄いんだよ! 10人も蜜を買ってくれたの!」
「凄いね。えらい、えらい」
「アルラウネのおかげだよ。試食してくれた人は全員、蜜を買ってくれたの。一口舐めたとたん、目の色を変えてお金を出してくれたんだ」
うんうん、魔女っこに笑顔が戻って、私は嬉しいよ。
そんな魔女っこにもご褒美の蜜をあげちゃいましょうねー。
蔓をがぶりと咥えて、蜜蔓を作ります。
あーんと言いながら、それを魔女っこの口元に垂らしました。
「とろとろで、美味しい。口の中が蕩けちゃいそう」
「おかわりは、いるハグッ!?」
「おかわりは自分で採取するから、大丈夫」
魔女っこに指を突っ込まれて、強引に蜜をかき乱されます。
私の中が他人に蹂躙される感覚に、私は魔女っこの観葉植物であるという事実を思い出してしまうね。
そう考えると、恥ずかしくなってドロリと蜜が溢れました。
口の外へと流れていった蜜を指ですくい取った魔女っこが、ペロリと舐め取ります。
「アルラウネ、おいしいよ」
「うん……」
「もう一回、おかわりしていい?」
「いいよ…………」
魔女っこの指が、私の中へと伸びていく。
でも、やられっぱなしだとつまらないよね。
蔓で魔女っこを捕獲して、ぎゅっと抱きしめちゃいます。
外から見れば、植物モンスターが女の子を蔓で拘束しているようにしか見えないでしょう。
でも、これは私の愛情表現であって、魔女っことじゃれ合っているだけなのです。
私、別に触手モンスターとかではないの!
蔓に包れるのが気持ち良いのか、魔女っこの寝息が聞こえてきました。
どうやら疲れていたみたいだね。
蜜売りのお仕事、お疲れ様です。
ふと、魔女っこが持って帰ったバケツの中に新しい野菜が入っていることに気がつきます。
これはタマネギだね。
蜜の売り上げで買ってきたのかな。
よーし、お姉さんがタマネギ料理を作っちゃうよ!
魔女っこのために、頑張らないとね。
パクリ。
これでタマネギを生成することができるようになったよ。
魔女っこのためにも、食べ物をたくさん作らないと。
お姉さんとして、魔女っこの食生活は私が頑張って管理するのだ!
私は魔女っこから必要とされている。
それだけで、嬉しいの。
だから、大人しく冒険者に討伐されるわけにはいきません。
そこまで強くもない冒険者が何人来ようが、私の敵ではない。
飛んでいる小さな虫を叩きつぶすような感覚で、冒険者さんたちはお掃除なの。
どれだけ襲われようが、私の平穏な生活は揺るがないのです。
私と魔女っこの生活は、誰にも邪魔させはしません!
初投稿から3ヵ月が経ちました!
おかげさまで、異世界転生/転移の四半期ランキング57位に載ることができました\(*T▽T*)/ワーイ♪
今日まで毎日更新が続けられたのも、ひとえに皆さまの応援のおかげです。
改めまして感謝申し上げますm(_ _)m
次回、街で大盛況の蜜売り魔女っこと、冒険者さんに大人気の植物モンスターである私です。