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11 はじめての人間

 さてと、困ったぞ。

 この子、どうしよう?


 見たところ、10才くらいの少年だろうか。

 ツォルンビーネの毒にやられて体が硬直しているみたいだね。

 まさかショタが運ばれてくるとは思わなかったよ。


 (とい)、この子供をどうしますか?


 選択肢。

①子供を食べる。人食はちょっと……。


②子供をハチに返す。ハチの餌になるのでさらにむごいことに。


③このまま放置。きっとハチの毒が回って死んじゃうね。


④助ける。もうこれしかないじゃん!



 少年を介抱するために、蔓で体を抱え込んだ。

 うん、毒にやられている以外はそこまで外傷はないね。ハチに小さな毒針を刺されているくらいだ。

 これなら少年の体に回っている毒を中和できれば助かるかもしれない。


 よーし、回復魔法を使ってと。

 あ、ダメでした。

 回復魔法は使えないんだった。使おうとすると自分の体である植物が成長するだけで終わりなんだよね。どうしよう。


 この子と私が一体化すれば、治る気がするんだけど。

 下の口で食べるわけにもいかないし、上半身でじゃねえ。ちょっと、ねえ。


 そうだ、なにも少年と一つになる必要なんてないよ。

 私の体の一部を、この子に与えれば良いんじゃないか?


 というわけで実験開始。

 口内を蜜で一杯にして、蜜を対象に回復魔法をかけてみます。

 それを手に垂らして、少年の口へと流し込む。


 お、少年の体が光り出したぞ。

 回復魔法が込められた蜜を飲んだのが効いたようで、刺された傷口が治癒していった。


 毒も浄化されたようで、少年の呼吸が安定したものへと移り変わっていく。

 元聖女というのも伊達ではないね。そう自画自賛してしまうよ。状態異常なんて私の魔法にかかれば無効化できるのだ。


 それにしても驚いた。

 力を込めれば、私の蜜は回復薬にもなるみたい。


 これは大発見ではないだろうか。これさえあれば、傷ついたハチさんたちを私の蜜で治療できるということだ。

『元』聖女というのを返上して聖女アルラウネと名乗っても良いのではなかろうか。



「…………ここは?」


 おや。少年が目を覚ましたみたいだね。

 おはようだよと、顔を覗き込んでみる。


「お姉さん、誰?」


 最初は警戒していた少年だったけど、私の顔を見ると安心したのか落ち着いて来た。

 怖くないよー。という意思を込めて、頭を撫でてあげる。よしよーし。


「ここは、いったい?」


 少年が周囲を見回す。

 けど、そのせいでバレてしまった。私の下半身が花であり植物のモンスターということを。


「うわぁあああ!?」


 少年が逃げようと暴れ出す。

 でもそれを阻止。

 せっかくの話し相手をそう簡単には逃がさないのだ。

 子供は蔓で拘束だよ。


「……オレを食べるのか、化け物?」


 ガーン。

 化け物だなんて、ショックだよ。


 私はね、綺麗なお花を目指しているの。

 だから化け物だなんて言わないで。

 親戚にラフレシアだっていないんだから。


 たしかに下の球根の口はちょっと禍々しいし、いろんなモンスターを捕食してきた実績もあるけど、あなたを栄養にする予定は今のところないんだよ。

 だから安心してよ。


「たべ……ない、よ……」


 少年に私の気持ちを伝えようとしたからだろうか。

 無意識のうちに私の口から声が出ていた。


 ウソだろう、このモンスター言葉がわかるのかよ、という表情をする少年くん。

 

 でも、そんな彼以上に私自身が驚いていた。



 あれ?

 ちょっと。私って、喋れたの!?

 いままで声出せなかったのに??


 思い当たるのは一つだけ。

 もしかしてあいつが原因だろうか。

 親戚がラフレシアである植物の魔物。

 そう、私の栄養となった後輩マンイーターだ。


 そういえばあいつ、「ギャギャー」と騒いでいたけど、花なのに声出していたね。

 その特性を吸収したから、声が出せるようになったのかも。


 やったね。これで心の中だけでなく独り言で暇をつぶすことができるようになったよ!


「…………わたし、あなたを、食べない」


 ゼーゼー。

 だめぇ、声を出すのが辛い。


 もとが植物だからかな。

 発声機能が人間よりもかなり劣っているみたい。


「化け物、でも、ない……そこ、だいじ…………」


 必死に舌を動かす私。

 なんとか言いたいことは伝えられたのではないだろうか。


 もうこれだけ喋ったのだし、休んでも良いよね?

 ああ、喉が渇いた。お水欲しい。


「人語を理解するモンスターなんて初めて見たぞ……」

「モンスター、でなく、お姉さん」

「え?」

「お姉さん、と、お呼び」

「は、はい」

 


 少年が驚きながら私のことを見る。

 胸辺りに視線が移ったところで、いきなり顔を横に向けてしまう。

 顔が真っ赤になっていた。


 お姉さんの魅惑のボティに当てられているのかな。

 ちょっと小悪魔になった気分で、少年に抱き着いてみる。


 少年の体温が温かい。

 アルラウネになって初めての人肌。

 私も元はこの子みたいに人間だったんだなと思い出してしまう。懐かしいなあ。


「お姉さんから甘くて凄く良い匂いがするんだけど?」


 良い匂いがすると言われるのは悪い気持ちはしないね。

 よーし、お姉さん、ちょっと蜜をサービスしちゃうよ!


 両手をお椀のようにして口から蜜を滴り落とす。


「さあ、召し、上がれ」


 少年が引きつったような顔をしながら、蜜を指さしていた。

 うんうん、わかるよー。

 口から出てきたけど、そこは気にしないでね。

 

 初めは躊躇っていた少年だけど、甘い蜜の誘惑には勝てなかったみたい。

 指で蜜をすくって一口味見する。


「…………旨い!」


 少年は驚愕の表情を崩して、目を輝かせながらむしゃぶるように残りの蜜を飲み込んだ。


「お姉さん、そのう、おかわりが欲しいのですが……」


 申し訳なさそうに告げる少年が可愛らしい。

 久しぶりに人と会話できて嬉しいし楽しいから、この際だから何でも注文を聞いちゃうよ!


 でも、その前にっと。


「ここは、どこ?」


 少年に質問を投げかけてみる。

 ずっと森で暮らしてきから外界のことが全くわからないんだよね。


 首をかしげる少年。伝わらなかったようなのでもう一度声を出す。


「ここの、場所、どこの、国?」

「ああ、そういうこと。ここはガルデーニア王国とグランツ帝国の国境だよ」


 予想通りの回答が得られた。

 やはりここは二つの国の境にある森。私が聖女として仲間と旅をしていた時と同じ場所のようだ。


 一応、転生した際に他の場所に転移していた可能性も捨てきれなかったから気になっていたのだ。

 

 ご褒美にと、少年に蜜を与える。

 満足そうにペロリと舐め切る少年。うん、この子はペロリストになる才能を持っているね。いつかの変態クマさんを彷彿とさせるよ。


 次の蜜を餌にして、さらに質問をしてみる。


「いま、何年?」

「天地歴1020年だけど」


 これは驚いた。

 なんと、私が聖女として勇者様と後輩に裏切られてから、もう三年が経っているらしい。


 私は天地歴1000年生まれで、享年17才となっているはずなので、花のモンスターに食べられたのは天地歴1017年。それで今が三年後の天地歴1020年。

 アルラウネとなって目覚めてからまだ半年くらいしか経過してない気がするから、体が融合している間に二年以上の時が進んだのかもしれないね。

 

 それからも私は少年を質問攻めにした。


 3年前、この森で誰か死ななかったか?

 魔王は倒されたのか?

 ガルデーニア王国の勇者はどうなったのか?

 婚約者の聖女はどうなったか?

 などである。蜜がよっぽど欲しいのか、少年は全て丁寧に回答してくれた。


 残念ながら、この少年はお祖父さんと修行をしながら旅をしているらしく、ここの土地の者ではないから3年前に何があったのかは知らないみたい。

 魔王もまだ未討伐のまま。

 婚約者だった先代の聖女のことは存在も知らないと言っていた。まだ当時この子は7才だったわけだから仕方ないね。

 でもガルデーニア王国の勇者のことは有名らしく、新しく誕生した聖女様と結婚したとのことだ。


 あのクソ後輩め。

 魔王を倒さずにあまつさえ王子であり勇者である私の婚約者を寝取って玉の輿を実行しやがった。

 許すまじ、後輩。


 私に足が生えたら王国の城内にある植物園に乗り込んで花に擬態しながら後輩の命を狙うというのに。ああ、自由に動ける足を持つ動物たちが羨ましい。


 それからも、私は少年を質問攻めにした。

 他にも気になっていたことを全て聞き出すことに成功したのだ。

 少年もこれでやっと私から解放されるのかと、一息ついたみたい。



 でも、そうは問屋がおろさないんだよね。

 私はね、暇つぶしに飢えているの。

 

 体感はそんなに経ってはいないけど、実際に三年間も一人で過ごしてきたわけじゃん。

 

 植物だから移動できないし、話し相手もいなかった。


 朝起きて、光合成しながら日光浴して、たまに獲物を捕食して、夜になったら寝る。その繰り返し。代わり映えがないったらありゃしない。

 毎日が同じ。それでいてずっと一人ぼっち。

 晴れの日も、雨の日も、嵐の日も。一年中、私は一人だけ。


 だからね、こうやって人と会話するだけでめちゃくちゃ楽しいの。

 この世の全ての娯楽を味わっていると絶叫したくなるくらい、楽しいの。

 

 そういうことだからね、少年よ。

 私は君を逃がさない。

 このままお喋り相手の人形になってもらおうか。


「少年、にが、さない」


 私の発言を聞いて思い出したのだろう。

 私が人の体を持つとはいえ、根本的にはモンスターだということを。

 

 汝、隣人を愛しなさい。

 慈しむ聖母のような対応で私は少年を私のものにします。

 だって私、元聖女だから。優しいことには自信があるの。


 だからね少年よ、この蜜を舐めなさい。

 そうそう、良い子だね。

 え、もっと欲しいって?

 しょうがないね。飽きるまで食べさせてあげる。

 え、一生食べていたいって?

 しょうがないね。私は優しいから、そんなわがままも許しましょう。


 そうして私は、怯える少年を蜜中毒にしながら飼うことにした。

お読みいただきありがとうございます。

本日も一日二回更新予定となります。


次回、わたしアルラウネ0才、今日から蜜を餌にショタを飼うことにしたのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いたいけなショタの性癖を破壊する化け物です(羨ましい)
[良い点] 後輩「勇者様と国だけじゃなくて幼い少年にまで体を使ってたぶらかすなんて、さすが先輩ですね」 [気になる点] 風紀「どうやって上半身で少年と一体化しようと?」 [一言] 聖女らしいこと言っ…
[良い点] ひぃいいぃい:(;゛゜'ω゜'): モンスターって忘れてたぁあああああ((((;゜Д゜))))))) 「少年、にが、さない」の言葉に、背筋がぞくっとしましたね(゜∀゜)ゾクゾク(〃ω〃…
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