95 ドライアドの姉妹
私、ついに平穏を手にした植物モンスター娘のアルラウネ。
かわいい妹である魔女っこをの頭を、蔓でなでなでしているの。
よしよーし。
魔女っこは可愛いね。
食べちゃいたいくらい、愛しいの。
あ、パクリとする意味じゃないからね。
私、そこまで野蛮で食欲旺盛な女の子ではありません。
「アルラウネさま凄いー!」
遅れて妖精キーリと妹分のトレントがやって来ました。
これだけの惨事があったのに、誰一人として欠けていない。
それがなによりも嬉しいね。
以前の森にいたとき、私はずっと一人ぼっちだった。
でも、いまはこんなにも仲間がいる。
どれだけ辛いことにあっても、一人ではないというだけで私は幸せだよ。
魔女っこ、妹分のトレント、それに妖精キーリ。
私の側にいてくれて、ありがとうね。
これからも一緒に過ごそうね!
仲間のありがたさを体感していると、一つ名案が思い浮かびました。
この先、私たちはこの森で生きていく。
すると、やっぱりお金が必要になるの。
人間である魔女っこがいるからね。
そこで活躍するのが、さっきの四天王の光冠のガルダフレースヴェルグさん。
あの鳥人の黄金色の羽根、かなり強度があったし、光り輝いていて綺麗だった。
もしかしてあの羽根、売れるんじゃないの?
魔女っこの姉として、金策もきちんと考えないとね。
私は地中に潜ませていた巨大ハエトリソウを地上へと生やします。
中にいる黄金鳥人さんが動いていないことを確認してから、ボトリと体を吐き出させました。
ハエトリソウはあまり消化能力が高くないの。
今後は改良していくつもりではあるけど、今回は万全を期して下の球根で食べ直そうと思っていたのだ。
良かった、まだ鳥人さんは完全に溶けてはいなかったみたい。
光魔法が込められていた金色の羽もまだ形を保っているね。
これならまだ使えそうだよ。
お願いするなら、やっぱり妖精さんだよね。
「キーリ、あれの羽根、毟って」
「やだよー。消化液まみれで気持ち悪いし」
「羽根と交換で、蜜、あげる」
「かしこまりましたアルラウネさま!」
妖精キーリが意気揚々としながら羽根を採取していきました。
うん、これで素材の確保ができたね。
臨時ボーナスがはいったと喜んだところで、急にすぐ近くの地面からいきなり芽が生えてきました。
発芽したその新芽は、そのまますくすくと大きな木へと育っていきます。
まるで私の植物生成を思わせるような急成長。
いったいこれ、どうなっているの?
「まさか貴女が四天王を倒してしまうとは、思いませんでした」
驚くことに、大木に寄りかかる様に一人の女性が出現しました。
蔦のような緑色の髪、そして頭から生えている髪飾りのような枝。
そして蔦でアレンジされた見事な白いドレス。
間違いないね、森の精霊ドライアド様です。
でも、森の精霊であるドライアド様は本体である大樹からは動けないはず。
それなのにいったい、どうやってここに来れたんだろう?
「驚かせてしまいすみません。わたくしの本体である大樹の根を地中深くから伸ばすことで、こうやって限定的に森の中を移動することができるのです」
ということは、いま生えてきた木はドライアド様が宿る大樹の一部ということだね。
本体の根っこを伸ばすことで、その部分に精霊の体を出現することができるのか。
そんな方法ありなの?
ドライアド様すごいのですが!
「よくぞこの森と聖域を守ってくれました。礼を言います、アルラウネ」
「いいえ、私は、森の用心棒、ですから」
「しかし、安心するのはまだ早いのです。この戦いは、精霊魔法を使って観察していました。アルラウネ、貴方は大鷲の口の中に、青い花が生えていたのを見たのではないかしら?」
そういえば大鷲のモンスター、ベギーアデアドラーの嘴から、青い花がはみ出ていた。
残念ながら光冠のガルダフレースヴェルグの滅消の御神光冠によって、死体は消滅させられてしまったので確認のしようがないのだけどね。
あれだけの巨体なら数日かけてもぐもぐと捕食できたのに、無くなってしまうなんてもったいなかったよ。
「あの青い花は寄生花。わたくしの姉である西の森のドライアドによって植え付けられたものです」
ドライアド様の姉君。
つまり、50年前に当時の勇者を殺したという魔王軍の精霊だね。
でもそれと青い花がなにか関係があるのかな。
「そこに四天王が倒れているのはちょうど良いですね。四天王の嘴を開いて、喉の奥を確認してみなさい」
私はドライアド様に言われるがまま、黄金鳥人さんことガルダフレースヴェルグさんの嘴を蔓であーんと開きます。
そうして蔓を喉の奥に突っ込んでみると、なにかが生えている感触がする。
えいやと思いっきり引っこ抜くと、蔓は青い花を握っていました。
驚くことに、四天王の体の中に青い花が生えていたのだ。
「この花は、いったい、なんですか?」
「その青い花が脳に寄生されると、体の自由が奪われてしまうのです。そして姉の操り人形になってしまうという、恐ろしい花なのですよ」
花によって体が操られてしまう。
それはたしかに恐ろしい能力を持っているお花だね。
「ドライアド様の、姉君は、いったい、何者、なのですか?」
「わたくしの姉は、50年前に当時の勇者を手に掛けました。そのときの功績から魔王軍に入り、今は四天王と呼ばれるような存在にまでなっています」
ということはまさか──
「姉は西の森の精霊ドライアドであり、魔王軍の一翼を担う四天王の一人なのです」
まさか、こんな短期間で四天王という言葉をふたたび聞くことになるとは思わなかったよ。
青い花はドライアド様の姉が、他人を操ることに使っているという。
つまり四天王の光冠のガルダフレースヴェルグは、同じ四天王である姉ドライアドに操られていたのだ。
大鷲を使って私を襲ったのも、四天王の光冠のガルダフレースヴェルグをこの森にけしかけたのも、全ては西の森の姉ドライアドがやったこと。
なるほど、そういうことだったのか。
どうやら真の黒幕は、もう一人の森の精霊様だったようです。
お読みいただきありがとうございます。
次回、闇落ちドライアドの闇落ち理由です。