93 アルラウネ・テッポウウリ交響楽団
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
幼女から元の聖女の姿に急成長したの。
あそこで唖然としたまま飛んでいるのは、四天王である光冠のガルダフレースヴェルグさん。
私が幼女から大人のレディーに成長したことが、相当ショックだったみたい。
しかも私のストーカーだったわけだしね。
頭を押さえて、「ありえぬ」と連呼しているよ。
「さきほどの幼い姿からでは想像もできないほど、神々しく感じる美しい姿と光のエネルギー。まるで聖女イリスのよう……」
「くすっ、ごきげんよう、ストーカーさん」
「せ、聖女……!? いや、ありえぬありえぬ。いくら顔がそっくりでも、こやつはただの植物モンスター。あの強大な光の魔力を秘めていた聖女イリスなはずはないのである」
頭をかきむしるストーカー四天王さん。
どうやら、憧れだった聖女が植物の魔物に堕ちていることは信じられないみたいだね。
まあ、そのほうが好都合だから、ラッキーなんだけど。
「……ふんっ。光魔法が効かないうえ、大きく成長したところで問題ないのである。集団で直接攻撃すれば、アルラウネごときひとたまりもない。これを見るのである!」
鳥人さんが、森の上空を指さしました。
そこには、鳥型モンスターの大群が集まっていたのです。
「吾輩の滅消の御神光冠でドライアドの結界の一部に穴を開けたのである。もう塞がれてしまったが、これだけの数を招きいれれば上出来であるな」
上空では、鷹、犬鷲、ハヤブサなど大小様々な鳥モンスターたちが百羽以上も飛んでいました。
「さあ行け、吾輩の鳥モンスターたちよ。そこの生意気なアルラウネを食い千切るのである!」
鳥の大群が一斉に私めがけて飛んできます。
さすがにこの数に一度に襲われたら、いまの私ではひとたまりもないね。
戦いたくても、多勢に無勢すぎて相手にならないでしょう。
まあ私が幼女のままだったらのお話ですが。
ごきげんよう、鳥のみなさま。
わたくしの成長お祝いパーティーにお越しいただき、ありがとう存じます。
ひいてはわたくし、皆さまへの歓迎の演奏会をさせていだたきます。
楽器はこちら、テッポウウリマシンガンです。
でも、一人で一つの楽器では音が寂しいですって?
ご安心くださいませ。
わたくし、一人でオーケストラができますの。
ほら、ご覧になってください。
テッポウウリマシンガンを四十丁ほど生成させていただきましたわ。
わたくし、いま光合成のしすぎで力が溢れかえっているのです。
楽器編成は全てテッポウウリマシンガンですが、そこはご容赦してくださいませ。
それでは指揮者アルラウネによる、アルラウネ・テッポウウリ交響楽団の演奏をお聴きくださいませ。
ズポポポポポポポポポポポポンッ!!
幼女アルラウネのときの倍の大きさの毒種を連射していきます。
威力もスピードも幼女のときとは比較できない。
そんな四十丁のテッポウウリマシンガンによる毒種の交響曲が森に響き渡りました。
わたくしの演奏に感激した鳥モンスターさんたちが、一羽二羽と次々に地面に落下していきます。
どの鳥さんたちも泡を吹いてわたくしの交響曲を絶賛してくれていました。
指揮をするようにテッポウウリマシンガンを鳥さんの一団へ向けると、毒種の炸裂音とともにオーディエンスたちが地上へと吸い込まれていきます。
あぁ、快感……っ!
いま、わたくしがこのステージを支配しているのだという、たしかな実感がそこにはありました。
さて、名残惜しいですがこれにて演奏は終了です。
アルラウネ・テッポウウリ交響楽団の演奏でした。
指揮はわたくし、アルラウネがさせていただきましたわ。
それでは皆さま、ごきげんよう。
「ブラボー!」
私は心の中で喝采を叫びました。
うん、良い演奏会になったね。
おかげで飛んでいるのは四天王である黄金鳥人さんしか残っていないよ。
どうやら鳥人さんも私の毒種を身に受けているみたい。
幼女のときは固い羽根に種の棘は弾かれたけど、大きく成長したことで攻撃が通じるようになったのだ。
けれども、光冠のガルダフレースヴェルグさんは光回復魔法を自身にかけていた。
そのため種のダメージと毒にやられることはなかったけど、毒種が脅威だということは感じているみたい。
顔が引きつっているよ。
それでね、私わかっちゃったの。
光回復魔法の回復量から察するに、光冠のガルダフレースヴェルグさんは攻撃系の光魔法は得意だけど、回復魔法は苦手みたい。
そりゃ聖女の光魔法を吸収しているだけで、元はただの魔族。
9人の聖女見習いを食べたといっても、容量に限界があるよね。
そのせいで、回復魔法ではなく攻撃魔法にリソースを割いているようなの。
ちなみに、9人の聖女見習いを集めても聖女時代の私一人分の力には到底及びません。
それなのにあんな大規模攻撃魔法を連発しているところから考えると、回復魔法までマスターしているとは思えなかったんだよね。
そのことを踏まえて、私はテッポウウリマシンガンを再び連射します。
予想通り、黄金鳥人さんはなるべく毒種を受けたくないみたいで逃げ回っている。
上手く毒種を避けながら、飛んで移動しています。
でも、それが誘い込まれているとは気がついていないみたい。
テッポウリマシンガンの種を数発身に受けた黄金鳥人さんの動きが止まりました。
実はね、いま黄金鳥人さんにモウセンゴケの種を撃ち込んだの。
体に突き刺さった種から粘着性のあるモウセンゴケの蔓が発芽して、鳥人さんの全身に絡みつきます。
ネバネバしたモウセンゴケによって、自由を奪われてしまっているね。
大鷲のときは子アルラウネを弾にしたけど、こうやって他の植物でも強引に寄生させられるみたい。
貴重な実験データが取れました。
さてと、動きを止まったことだし、そろそろ最後の仕上げだね。
こうやって無限に思えるほどテッポウウリマシンガンの掃射をしても、私は元気が有り余っているの。
いままで出来なかったような大規模の植物生成が、いまの私ならできる。
これでおしまいにしましょう。
女子高生時代に見た鉄塔のように、地面から巨大なハエトリソウを生やします。
地中からメキメキとしながら急速に空へと伸びていく。
幼女アルラウネのときと比べると、高さも大きさも太さも、なにもかも桁違いの化け物ハエトリソウなの。
さあ光冠のガルダフレースヴェルグさん、これで最後だよ。
あなたをハエのように捕まえてあげましょう。
光冠のガルダフレースヴェルグさんは、触手のように全身を拘束するモウセンゴケの蔓によって動きが封じられている。
しかもテッポウウリマシンガンの掃射による壁に阻まれていて、真下から急に伸びてきた巨大ハエトリソウを避けることができなかったみたい。
大きな二枚の捕虫葉が、無慈悲にも鳥人さんへと食いかかります。
「ヒギャァアアア!!」
ガルダフレースヴェルグさんは私の巨大ハエトリソウに噛まれて、二枚の捕虫葉によって挟まってしまいました。
このハエトリソウの口、実は特別製なの。
歯のようになっているトゲトゲの口に刺さると、そこから麻酔と毒を注入するおまけつきのハエトリソウなんだよね。
仮に光回復魔法で状態異常を治されても、ハエトリソウの外に出ることはできない。
なにせ光魔法で攻撃すると、私は回復してしまうのだから。
逆に黄金鳥人さんが光回復魔法で体を治癒し続けても、消化液で溶かされるほうが早いの。
あなたの回復魔法では、私が死んだときのように胃袋の中で回復し続けるほどの力はない。
だから、もうこれで終わりだよ。
「こ、こんなこと、あるはずが……吾輩は魔王軍の四天王なのであるぞ」
「私は、この森の、用心棒、なの」
「植物モンスターごときが、用心棒……?」
「それに、あなたは、植物を、見下した。植物って、本当は、凄いんだから」
光冠のガルダフレースヴェルグさんは麻酔と毒によって、既に体の自由が利かなくなっているみたい。
化け物を見るような目をしながら、私を見ています。
私はもう優しい聖女ではないからね。
植物モンスターのアルラウネなのだ。
だからあなたにかける慈悲はもう持ち合わせていないの。
私は人間の手のひらで、ぎゅっと握る仕草をします。
同時に、ハエトリソウが光冠のガルダフレースヴェルグさんを完全に丸呑みしました。
そのままハエトリソウを地中へと引き戻します。
ドゴゴゴゴゴゴッ!
轟音をたてながら、ハエトリソウは地面の中へと埋まって隠れてしまいました。
ストーカー四天王の姿はもうどこにもない。
「ごちそう、さま」
丸呑みされたのはあなたのほうだったみたいだね、ガルダフレースヴェルグさん。
聖女の胃袋で消化されるのだし、本望だったかな。
「あたいはきっと夢を見ているんだ。だって四天王がアルラウネなんかにやられるはずがないよね…………」
消滅した森の一部の外れから、毒の妖精が現れました。
呆然としながらこちらを見ているね。
そういえば、毒の妖精もいたんだった。
すっかり忘れていたよ。
ストーカー四天王を倒したことだし、今度はあなたの番ですよ。
綺麗なお花に除草液をかける悪い妖精さんは、私が許しません。
私は毒の妖精に向けて、大量の蔓を伸ばしました。
無数の触手に蹂躙されるように、毒の妖精が蔓に絡まります。
はい、捕まえました。
今度こそ、悪い子にはお仕置きですね。
お読みいただきありがとうございます。
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次回、毒の妖精と謎の種です。