92 光魔法おいしいです、おかわりを所望します
私、植物モンスター幼女のアルラウネ。
あそこで飛んでいるのは魔王軍の四天王の鳥人、光冠のガルダフレースヴェルグさん。
どうやら私には四天王の光魔法は効果がないみたいなの。
むしろ逆に回復している。
光合成おいしい!
「吾輩の聖破光線が効かないなんてありえないのである……」
四天王の鳥人さんが混乱しているね。
まあわからないでもないよ。
クマパパの親戚を一撃で倒した攻撃魔法が、こんな小さなアルラウネには無傷だなんてショックだよね。
でもね、私すごくいま気分が良いの。
聖なる光で光合成ができて、とてもハッピー。
私、おかわりを所望します。
「吾輩はいったいどうすれば良いのであるか」
「い、いたいよー。光の攻撃、こわいよー。死んじゃい、そうだ、よう」
「まさか、効果があったのであるか……?」
私は怪我をしたフリをすることにしました。
そうすれば追加攻撃をしてくれるかも。
ほら、饅頭こわいって言うよね。
私、光魔法こわいの。
「そ、そうであるな。吾輩の光魔法が効かないなど、なにかの間違いであったのである」
自信家すぎて偉そうにしているこの鳥人さんは、私の演技に乗ってくれました。
きっと自分のアイデンティティである光魔法が通じないことを信じたくないんだね。
「聖破光線」
あぁー、日光浴気持ちいよー!
だけどちょっと温度が強すぎるから葉焼けしちゃいそう。
と思ったけど、光魔法の光線だから聖女だったときの耐性のおかげか平気みたい。
でも眩しいからちょっとサングラス欲しいかも。
「ま、まだ生きているのであるか……?」
鳥人さんがゼェゼェと息を吐いていました。
なんだか疲れているみたいだね。
「ならば最後の手段である。吾輩の奥義を見せてやるのである」
突如、辺りの空気が一変します。
鳥人さんの周囲に、光が集まり出したのだ。
光冠のガルダフレースヴェルグの周りに、大きな光の輪が発生します。
その輪から空気が振動するほどのエネルギーが漏れていきます。
この光魔法はまずいね。
きっとアレをやるつもりだ。
「魔女っこに、トレント、それとキーリ、早く、ここから、離れて!」
私の声と四天王の尋常ならざる雰囲気に反応した妖精キーリが、トレントに飛び乗りながら指示を出します。
続いて妹分であるトレントが魔女っこを強制的に抱えました。
魔女っこは暴れながら、私に手を伸ばそうとしてくる。
「ちょ、ちょっと待って! まだアルラウネが!」
「私は、いいから、早く、行って」
「でも!」
「私は、大丈夫」
「アルラウネ……」
しぶる魔女っこの頭を蔓で優しく撫でてあげます。
そうして、走り出すようトレントに蔓で軽くムチを入れる。
私のムチに応えてくれたトレントは、魔女っこを抱えたまま森の奥へとダッシュしていきました。
見えないくらい遠くへ逃げる魔女っこたち。
これだけ離れれば大丈夫だよね。
私はどの道逃げられないし、ここでみんなのためにも戦うよ。
さて、問題はこちらのストーカー四天王さんです。
実は攻撃系の光魔法の最終奥義ともいって良いようなものを、私に浴びせようとしているの。
さすがに幼女のままの小さなこの体では、これは耐えられないかも。
「吾輩のこの光魔法を受けて無事でいられる者は、大陸広しとはいえほぼ皆無なのである」
光の輪が原子分解するように消滅します。
そして一瞬のうちに、辺りが真っ白な光の世界に包まれました。
「滅消の御神光冠!」
森の一部が、御光によって崩壊していきました。
空から見れば巨大な円状の光冠が、この場に誕生しているはず。
その輪の中に入ったものは、全て聖なる光によって分解されるように浄化されるのだ。
それが光魔法の奥義、滅消の御神光冠。
光の輪は徐々に広がっていき、ついに私の全身をも優しく包み込む。
私の周りに存在していた森の木々や大岩が、霧のように消滅していく。
地表も一部、消えていた。
そのうち私も……。
そう、私も…………。
わた…………………………うん、消えないね。
私、凄く元気です。
というか光合成しすぎてお腹いっぱいなの。
消滅どころか、滅消の御神光冠の光のエネルギーとついでに霧消させられた周囲の栄養ごと、私の体に吸収してしまっている。
植物なのに、もうとうぶん太陽光は浴びないで良いかなと思えるくらい、栄養満点です。
光魔法が発動終了したみたいで、真っ白になっていた光の世界が元に戻りました。
地上に生えていたのは私だけ。
私を中心に、半径数十メートルほど周囲の森の木々や大岩は、全て消え去っていました。
まるで森に穴が空いたみたい。
それほどまでの強力な攻撃だったけど、どうやらこの光魔法も私にはおやつでしかなかったみたいだね。
「信じられぬ…………吾輩の滅消の御神光冠に辛うじて対抗できるとしたら、数年前に死んだ歴代最強クラスといわれていた聖女だけであるのであるのに」
鳥人さん、その聖女、たぶん私です。
本当は目の前にいるの。信じてはくれないだろうけどさ。
たしかに聖女時代の私なら、この攻撃は無効化できました。
私、光魔法の申し子だったからね。
アルラウネであるこの体に光魔法が効かないのは、植物として光合成してしまうのか。
それとも元聖女だから光魔法に耐性があるのか。
きっとその両方が理由だろうね。
「ひ、光魔法が効かなくとも、アルラウネの攻撃は吾輩には通じない。しかもこちらは空の上。吾輩の勝利は変わらないのである」
そうだね、四天王さん。
光魔法が効果なしといっても、私はただの植物モンスター幼女。
あなたとは戦闘能力では雲泥の差があるよ。
でもね、いまの私はかつてないほど栄養が体内に循環しているの。
こんなに元気なのはアルラウネになってから初めて。
ボーナスステージ状態であるいまの私なら、なんでもできちゃいそう。
それにね、私は光合成の力によって光回復魔法が使えるの。
植物を急成長させることができる力を持っている。
いままで植物生成は蔓やマンイーター、テッポウウリなどの体の一部にしか使ってきませんでした。
でもね、本当は球根や花冠がある本体だって急成長させることができる。
これまでそれができなかったのは栄養が足りなかったからだね。
けれども、いまの私はエネルギーに満ち溢れている。
だからやっちゃいます。
私の全身を、急成長させるのだ。
あいつを倒せるくらいまでに、強制的に。
私は光冠のガルダフレースヴェルグから貰った光魔法を、光合成をして栄養へと変換していきます。
そうして体を一気に成長させていく。
初めに根がどんどんと伸びて太くなりました。
呼応するように球根が巨大化していき、葉が盛大に茂り出す。
赤い花冠は満開の桜のように大きく華麗に咲き乱れます。
同時に、人間部分である雌しべも成長していく。
幼女であった体が、少女のものへと変わっていきました。
あ、胸がきつくなってきたよ。
そう思った瞬間、膨張していったバストによって蔓ブラが弾け飛びました。
一度で良いからこういうの、やってみたかったんだよねと思いながら、膨らみ続ける胸部を心の中で拝みます。もっと大きくなるのだ。
でも、このままではいけないね。
上空には殿方とおもわしきお方が大勢、私を凝視しているはず。
このままではお嫁にいけなくなってしまうよ!
素早い動きで、胸を蔓ブラで隠します。
森の淑女としての当然の行動ですの。
その時には、既に私の成長は止まっていました。
聖女として死んだときと同じくらいの年の外見。
つまり、炎龍様の炎で燃やされる前の姿に戻ったというわけなの。
大きく成長しました。
私、もう幼女じゃないよー!
上空から「こんなのあり得ないのである」という四天王さんの呟きが聞こえてきます。
「ぜ、絶対におかしいのである。このアルラウネ、光魔法が効かないだけでなく、あの聖女とそっくりの外見をしているだなんて…………」
あら、そういえば光冠のガルダフレースヴェルグさんは聖女時代の私をご存じだと話していましたね。
いまこの場にいるのは私とストーカー四天王さんの二人だけだし、ちょっと突っ込んだことを訊いてみましょうか。
「聖女を、知って、いるの?」
「無論である。吾輩の最終目標は聖女イリスを丸呑みして力を奪うこと。いつか聖女を倒して食うときのために、吾輩が四天王になる前から何度も観察していたのである」
どうやらこの鳥人さんは私の追っかけだったみたい。
まさか魔王軍にまでファンがいてくれたなんてね。
しかも四天王が私のストーカーなうえ私を食べるのが目標だったなんて、未だに受け入れられないくらいの変態でビックリです。
じゃあ私のストーカーさん。
ストーカーするくらい好きだったのなら、その聖女に倒されるのなら本望ということでもあるよね?
だっていつか戦おうと思っていたのでしょう。
夢が叶って良かったじゃん。
そんな夢見る殿方のために、ひと肌脱がせていただきましょう。
さっき蔓ブラを弾けさせて全裸になったのは、見なかったことにしてくださいね。
さあ、四天王の光冠のガルダフレースヴェルグさん。
植物モンスター娘のアルラウネとなった、元聖女のイリスがお相手さしあげますよ。
でも、あなたの最終目標である聖女丸呑みが叶うかはわからないの。
丸呑みされるのは、いったいどちらになるのかしらね。
お読みいただきありがとうございます。
次回、アルラウネ・テッポウウリ交響楽団です。