89 四天王襲来
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
こっちのハエトリソウに噛まれているのが魔王軍の毒の妖精。
負け惜しみを吐く毒の妖精の言葉を聞いたあとに、不思議な雰囲気を発するなにかが近づいているのを感じたの。
まるで私と同じ、聖女の光魔法を持ったような存在。
いったいなにが近づいて来ているのか。
「ママー」「ほめて、ほめてー」「私たち、頑張ったのー」
大鷲型モンスターのベギーアデアドラーに寄生している子アルラウネたちが私を呼んでいました。
そうだよ、いまは謎の気配よりも我が子たちのほうが大事だよ!
大鷲に生えたままになっている子アルラウネたちをなんとかしないと。
あたふたと心配している私に対して、こどもたちは笑顔で応えてくれます。
「ママ、ここ、土がない」「栄養全部、使ったから、もう限界」「だから、ママのところに、帰るね」
私は悟ってしまいました。
このヤドリギ作戦、どうやら強硬手段で乗り切ったようです。
知らない間にヤドリギの植物を捕食していたと思っていたけど、どうやらそうではなかったみたい。
そのため、子アルラウネたちは寄生植物のようには栄養が吸収できないの。
だからこのまま大鷲に生えていても、子アルラウネたちの先は長くない。
しかも種から発芽したてだというのに、私が与えたエネルギーのほとんどを戦闘で使ってしまった。
だからこのまま枯れるくらいなら、この前の実験のように種に戻って私の中に戻ろうとしているのだ。
クローンである子アルラウネたちが、親指を立てるようにハンドサインを送ってきます。
まるでなにか映画のワンシーンのよう。
どうやら覚悟はできているみたい。
私は目から蜜を流しながら、我が子たちの雄姿を見届けます。
幼女姿のアルラウネたちが次々と雄花にかぶりついていき、自家受粉していきました。
集団でお腹を大きくさせて、みんな実となって種となります。
私はアルラウネたちの種を一つずつ丁寧に蔓で拾いました。
その全てを、下の口で捕食します。
母体回帰だと思って、みんな私の中へお帰りなさい。
種を飲み込んだ瞬間、子アルラウネの体験した映像が脳内に流れ込んでくる。
上空での戦いはこんな感じだったのかと思いながら、子アルラウネたちに賞賛を送ります。
みんな、本当によく頑張ったね。
私の代わりにありがとう。
あとは私として、一緒に生活を続けようね。
私は一人だけど、もう一人ではない。
たくさんの子アルラウネたちとともに、生きているのだ。
私が子アルラウネたちとの再会に涙を流していると、ハエトリソウに掴まったままの毒の妖精が気を落としたように呟きました。
「良い気になっているのも今のうちだけだからね。勝ったと思っているのなら大間違いだよ」
「どう、間違い、なの?」
「あたいが援軍に呼んだのはなにもベギーアデアドラーだけじゃない。その上の大物もちょうどこの森の近くに待機させていたんだから」
ということは、さきほどの謎の聖女の気配は魔王軍の援軍だったのかな。
でもね、ちょっとくらいの大物が来たとしても、負けない自信があります。
それだけの戦闘経験が私にはあるからね。
それに私がベギーアデアドラーを倒している間に、仲間たちが戻ってきました。
魔女っこと妖精キーリ、そして妹分であるアマゾネストレント。
みんながいれば、どんな敵がきても怖いくなよ。
毒の妖精はニヤリと笑みを浮かべながら、空を指さしました。
「ほら、援軍のご到着だよ」
突如、辺りがピカッと光り出す。
まるで音のない雷が落ちたみたい。
この感じ、そういえば前にも一度あったね。
あれは白い鳥さんに掴まって東の森から西の森へと移動している最中。
大鷲のベギーアデアドラーに襲われたんだけど、空がピカッと光るとなぜかベギーアデアドラーはどこかへ飛び去ってしまった。
あのときの光と同じだね。
しばらくすると、空中に光る鳥人が現れました。
鳥と人間の体を合わせ持つ魔族です。
黄金に輝く鳥人は、そのまま低空へと下りてきました。
それを見た闇の妖精が、歓喜するように叫びます。
「このお方は魔王軍の四天王の一人、光冠のガルダフレースヴェルグ様だよ!」
四天王という言葉に、私はあまり驚くことはできませんでした。
なぜなら、それ以上の衝撃がその鳥人にはあったのです。
その鳥人の四天王が発する光に、私は見覚えがあった。
それは聖女が発する光魔法と同じ輝き。
並みの聖女見習いなら認識することはできないほど、神々しい光を放っていました。
やつは魔族。
しかも魔王軍の四天王だという。
それなのに聖女の光の力を持っている。
そのことに、私は衝撃を受けてしまいました。
空から降りてきた黄金色に輝く鳥人は、空中に留まりながら渋い声を発する。
「先日人間の砦を落としたばかりだというのに、今度は森で植物狩りとは、吾輩も随分となめられたものであるな」
この光冠のガルダフレースヴェルグと呼ばれたのは、3メートルくらいある鳥人の男でした。
顔は大鷲だけど、首から下は鳥と人間が混ざり合っている。
背中から右に2枚、左に2枚と計4枚の翼を生やしていました。
全身が黄金色の羽に包まれていて、目にするだけで眩しいと思えてしまう。
特出するべきは、聖女の光のオーラ。
羽根の一枚一枚が金色に輝いているのだけど、そこから聖女の光魔法の気配がする。
「あり、えない……」
本来、光魔法は女神さまに認められた人間の女性にしか使うことができない。
だから魔族が光魔法を使えるだなんてことは聞いたことも見たこともないの。
だというのに、この四天王の鳥人は、間違いなく体内に光魔法を宿している。
存在するはずのない、光魔法の使い手の魔族なのだ。
私は、考えるよりも先に、声を発していました。
「どうして、あなたが、光魔法を、使える、の?」
「…………うむ、そこのアルラウネ、なぜ吾輩が光魔法を使えることがわかる?」
──ドキッ。
植物となってなくなったはずの心臓が、大きく跳ねたと勘違いしてしまったくらい、私は驚いてしまった。
──いまのは失言だった。
光魔法をまだ披露していない四天王に対して、森のアルラウネがあなたはなぜ光魔法が使えるのですかだなんて質問するのは、完全に不自然すぎる。
それはつまり、四天王がまだ隠している光魔法の力を、ただの植物モンスターであるはずのアルラウネが見抜いていたということだから。
私は聖女時代、歴代でも最強クラスの聖女と言われていた。
だから他人の光魔法の気配を察知することくらいは、簡単にできてしまうのだ。
上空にいる四天王の鳥人さんが、鋭い視線で私を見下していました。
「通常、光魔法は人間の聖女の専売特許であり、光魔法を使用できる特殊な魔族は吾輩以外には存在しない。それなのになぜ森のアルラウネごときが、吾輩が光魔法を使えると見抜いたのであるか?」
あ、まずいかも。
森で生まれて育ったアルラウネが、光魔法のことなんて知っているはずがないよね。
しかもそれを見破って、言い当ててしまうんだから。
ほら、そのせいで疑いの視線で見られてしまっているよ。
「そういえばアルラウネのその顔、どこかで見覚えがある気がするのである」
え、私の顔を知っているの?
いまの顔は聖女時代の幼少期とまったく同じ顔だよ。
でもね、私はあなたみたいな金ピカの派手な鳥人さんには見覚えがないの。
そんな目立つ外見をしていたら、きっと忘れることができないからね。
「吾輩の気のせいかもしれないが、数年前に隠れて観察しに行った、人間の聖女の顔に少し似ているような……」
うそでしょう。
この四天王、まさか私の聖女時代の顔を知っているなんて。
「だがあの聖女は死んだはず。しかし、アルラウネの顔を数才ほど成長させれば、死んだ聖女に似ている顔つきになるような……」
光冠のガルダフレースヴェルグが、私の顔をべったりと観察してきます。
蔓が、震える。
私の正体が、見破られそうになっているのだ。
「アルラウネ、お前はいったい何者であるか?」
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次回、聖女の光魔法と黄金鳥人の光の秘密です。







