10 サークルクラッシャー、その名もマンイーター!
ツォルンビーネが花のモンスターを運んできた。
私に次ぐ、ハチさんが囲う新しい姫である。
名前はマンイーター。
凶悪そうな歯が生えた花が顔で、胴体が木の幹。そしてクラゲのようにたくさんの根っこを生やしていた。高さは私よりも低いのでそんなに大きくはないけど、普通の花と比べると巨大だ。
まさかハチさんたちはこのマンイーターからも蜜をむしり取ろうと思っているのだろうか。
新入りを連れてきたのはもしかして日照りのときに、私が蜜をあげるのをやめたのが理由かな。あれは緊急事態だったんだから仕方ないじゃんね。
それにこのマンイーターから美味しそうな蜜が出るとは思えないんですけど。なんというかね、外見が凄い。
見た目が怖すぎるわ。
「あなたの親戚にラフレシアはいますか?」と質問してみたい。
人とか積極的に襲いますって顔をしているよ、この花。
それだけではなく、こやつは私に対して威嚇までしてきたのだ。
ギャギャーと私に向けて奇声を上げるマンイーター。
どう見ても敵対的ですね。
でも私は大人な対応をしましょう。
こんにちはと蔓を使って握手を試みる。
同じ花のモンスター同士、仲良くしましょうね。
だが信じられないことに、こいつは私の蔓を噛み切ったのだ。
初対面の相手の蔓を噛み切るとか淑女の風上にもおけない。
それだけでなく、このマンイーターは己の蔓を使って私を殴って来た。正拳突きのような鋭いパンチだ。
だけれど私はほぼ無傷。
正直いって、敵のパワー不足。
一日一万回くらいなにかに感謝を込めながら正拳突きをするような修行をしてから私に挑んできなさいと言いたくなるくらい、力の差を感じた。私は格上だったのだ!
小物のマンイーターごときにやられるアルラウネではないことよ。
こいつめ、まさか出会って早々に私を攻撃してくるなんて。
もしかして私が邪魔だというのではなかろうか。
頭来たね。花だからって容赦はしないよ。私も花としてプライドがあるしね。
ハチからの愛情を独り占めしようとしているのはわかった。そんなことは私が許さない!
でも我慢しましょう。
ここでは私は先輩だからね。
後輩が少しヤンチャしていても、優しく窘めるのが先輩というものでしょう。
あ、ちょっと待って。
あのムカつく聖女見習いのクソ後輩を思い出してしまった。
よくも私の婚約者である勇者様を寝取った上に私に濡れ衣を着せて殺してくれてやがりましたね。
後輩死すべし、殺すべし。
私以外に森の姫などいらない。
私がハチたちを幸せにするのだ!
敵と決まれば、私はもう容赦をしない。
マンイーターを蔓で捕獲。
蔓の太さも長さも数も全てが私のほうが上。
そのまま蔓で強引にマンイーターの体を引きちぎる。こう見えて私は怪力の持ち主なのだ。
マンイーターごとき、敵ではなかったね。
さてと、ハチさんに見つからないように、証拠を隠滅しましょう。
球根の口を大きく広げて、マンイーターを放り込む。
むしゃむしゃ。
これで平和な日常が返って来たね。
巡回してきたハチさんが不思議そうに私を見ていたけど、マンイーターが消えたことには言及しないで帰ってくれた。良かったよ、賄賂に与えた蜜が効いたのかもしれないね。
それからだった。
私の体が変になったのは。
なんか蔓から新しく芽が生えそうな気がしてきたの。
こんな感覚は初めて。
それで回復魔法を使う感覚で蔓に力を入れて急成長させてみたらほら、マンイーターの花が蔓に咲きましたとさ。
え、なんなのこれ!?
なんで私の蔓からマンイーターが生えてきてんの?
もしかして私の親戚ってラフレシア??
ためしにと、他の蔓でも生やしてみる。
するとどうでしょう。私はマンイーターの花を自由自在に咲かせることができるようになったのでした。
これはきっとあれだね。
マンイーターの力を体に取り込んじゃった感じだね。
今まで動物型のモンスターをたくさん食べてきたけど、一度もこんなことはできなかった。
ということは、植物型のモンスターや他の木や花なら私はその植物の能力や個性を身に宿すことができるということなんじゃないか?
ということで実験です。
近くに生えていた黄色い花を咲かせている雑草を引き抜きます。
下の口で捕食します。
もぐもぐ、ごくりん。
蔓に力を入れてみると、黄色い花が一輪咲いちゃった。
あの雑草と同じものである。
これは間違いないね。
私、植物を吸収して使役できる能力を持っているみたい。
回復魔法で植物を急成長させることができるからなのだろうか。
はたまた聖女としての力を限界まで使って、超回復で花のモンスターを吸収して同化したからだろうか。原理はわからないけど、これを使わない手はないだろう。
とりあえず、この能力のことを『植物生成』と名付けましょう。
それからの私は近場の植物を食べつくし、自分の力へと変換していった。
武器は多いほうが良い。
とはいっても、元はただの植物。
戦いに使えそうなものはあまりない。
使えそうといえば、私の隣に生えていた樹を丸飲みしたんだけど、蔓をその樹の幹みたいに変化させることができるようになったのが一番の攻撃手段かな。
この隣の樹ね、かなり高い樹だったんだけど、こいつの枝のせいで影ができて私はいつも太陽光を半分くらいしか浴びられなかったんだよ。
だからずっと煩わしいと思っていたんだけど、これで綺麗さっぱり。
私から太陽光を奪う不届き者もいなくなった。私は嬉しい。
そうして私に日常が戻った。
森の姫としてハチに蜜を捧げて、餌を運んでもらう毎日。
雨が降ると両手を上げて喜んで、翌日にはまたお水欲しいと呟く。
そんな日々を過ごしていたら、ついに危惧していたことがやって来てしまった。
ハチさんたちからの新しい貢物。
ただの動物でもなければ動物型のモンスターでもない。ましては新入りの花のモンスターでもない。
人間の子供が、私の目の前に運ばれてきてしまったのだ。
しかもまだ生きている。
ハチさんよ、この子はどこのみなしごですか?
間違いなく誘拐だよね。私はまだ犯罪者になりたくない!
どうしよっか、この子。
ほんとにね、どうしましょう。
栄養不足という言葉を飲み込みながら、私は蔓で自分の頭を抱えた。
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お読みいただきありがとうございます。
次回、はじめての人間です。







