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オルゴールの秘密

 陸の海外赴任の話の後、花はなかなか気分が上がらない。


 ずっとぼーっと外を眺めている花に陸は預かっていたオルゴールを差し出す。

「花、これありがとな。」

 花はじっとそのオルゴールを見つめて、なにかを忘れているような気持ちになる。


 そっと陸はオルゴールを開く。

 優しい『トロイメライ』の音色が流れて行く。

 花はその音色に耳を傾けながら、なにかを陸に伝えたいと思うが思い出せない。


「あの…陸さん。このオルゴール…。」

 あぁ、分からない…!

 もう少しなのに…!と悔しくなる。


「どうした?」

 花の様子がおかしい事に気がつき声をかける。


「陸さん、そのオルゴール、どうしてそんなに気に入ってるんですか?」

 花はなんとなくだが聞いてみる。


「ずっと隠してたんだけどな…?

 これ、俺の母さんが父さんからプレゼントされたオルゴールなんだよ。」

 陸は家族になる花に自分の生身の両親は紹介できないが、代わりにこのオルゴールが近い役割を果たしてくれるのではないかと思った。


「…どういう事…ですか?」

 花は混乱する。

 自分が15万円でアンティークショップで買ったものに間違いないはずだ。


 陸はオルゴールの中の赤いベロアのシートを外す。

 中を見せると『T.Y』と確かに刻まれていた。


辻本葉子(つじもとようこ)、これが俺の母親の名前だ。」

 そう陸は話す。


「花の実家で前にも話したけど、俺の母親、子供の頃出て行っちゃったんだよ。家が差し押さえられて、これも一緒になくなった。だから、母さんが大切にしてたこのオルゴールを花の家で見つけた時、本当にびっくりしたんだ。俺、これ探すために今の会社に入ったようなもんだったから…。」


 花はだんだん意識を失っている間に起こった出来事が鮮明になってくる。

「陸さんのお母さんって…、あの、写真ないですか?」

 花は蘇ってくる記憶が消えないうちに確認したかった。


「一枚だけならあるけど…。」

 引き出しから持ってきた写真に写っていた女性は、紛れもなく花の代わりに天国へいった陸の母親だった。


「やっぱり…。」

 陸はさっぱりなんのことだかわからない。


「陸さん、信じてもらえるかは分からないし、私もそれが真実なのか…ただ夢を見ていただけなのかもしれないし…分からないんですけど、でも今言わないと、一生陸さんお母さんの存在がわからないままになっちゃいそうなので…。陸さんにとって、嫌な話かもしれないですけど…、聞いてもらえますか?」

 必死で訴える。


「わかった。話してみて…。」

 陸の真剣な表情を見て花は落ち着きを取り戻す。

 意識を失っていた間に見た全てのことを、陸に事細かに話して行く。


 陸は、花の手を取り、

「ありがとう…。」

 そう瞳を潤ませて呟いた。


 陸の母が亡くなったという話は、噂レベルではあったが陸の耳にも入って来ていた。

 ただ、それが本当の話なのかどうかは判断のしようがなかった。


 花の話は陸にとって衝撃的だった。

 信じる信じないなんてそんな次元の話ではなかった。


 オルゴールの秘密を陸が花に言えなかった理由も、陸の母はちゃんと分かっていて、代わりに花に伝えてくれたのだと思った。


 花が死なずに助かったのも、母のおかげだったと知り、陸は涙が溢れた。


「陸さん…。」

 花は陸の背中をさする。


「花、ありがとう…。本当に。

 今花の話を聞いて、俺はずっと母親に守られてたんだって気がついたんだ。

 花が俺の母さんに逢ってくれて本当に嬉しかった…。」

 花は静かに陸に寄り添う。


「陸さん。私、そのお母様のオルゴールと一緒に待ってるから寂しくないですよ。」

 まるで陸の母が側にいるかの様に話してくれる花を好きになって心から良かったと陸は思った…。

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