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海外赴任

 長い時間をかけて求めあった二人は手を繋ぎ、じっと横向になりお互いの顔を見つめ合う。

 ほんの少しの時間も失いたくない…そんな気持ちで視界に相手を入れたまま自然に目を閉じる。



 静かに朝を迎えた事に気がついた花は、陸をおこさないようにキッチンへ向かう。

 ずっと作ってあげれてなかった朝食を食べさせてあげたかった。


 昨日買った食材で簡単ではあるが用意して、陸を優しく起こす。

「陸さん…。おはようございます。」

 なかなか起きない陸の顔を見ながら花は柔らかい髪を撫でる。

「お味噌汁、冷めちゃいますよ?」

 陸は少しずつ開く目線の先に笑顔の花がいる事がまだ夢を見ているかのようだった。


「花、おはよう。」

 そう言って花を抱き寄せる。

 陸の腕に身を任せて抱かれる花。


「ご飯のいい匂いがする…。」

 陸は幸せそうに微笑む。





 食事を済ませた二人はすぐにでも住めるように片付けを始める。

 昨日買った花に水をやり、プランターに植え替える。


 陸があんなにも思い描いていた幸せの世界が、徐々にできあがろうとしていた。

 どんなに大変でも、二人の呼吸は仕事と同じようにぴったりだった。

 仕事で鍛え上げられた信頼関係は、言葉を発する前にお互いを思いやり先取りして動き出す。

 そんな風にただ作業をしているだけでも心が繋がれている事が嬉しかった。


 花の引っ越しの手配もすみ、来週には全て完了するところまできた。



 陸は花に海外赴任の話をもうしなければいけないと思っていた。

 選択肢は何通りかあったが、どれを選ぶのが最善なのか、花とちゃんと話したかった。


 夕飯を終えて陸は花を呼ぶ。


「花…話があるんだ。」

 その陸の表情に、花はもうなんとなくは気がついていた。


「海外赴任の話ですよね。」

 陸の言いづらそうな表情を察して先に花の方から口火を切る。


「あぁ。社長からも直々に俺に行って欲しいっていう意思表示は来てるんだ。

 この先、今の会社でずっと働いて行くなら、この海外赴任は大きくプラスになると思ってる。

 でも、花と離れるのが…辛いんだ。」

 陸は今更情けない気持ちを着飾ったところで花には見抜かれてしまうと思い正直に自分の気持ちを伝える。


「期間は…決まってないんですか?」

 花はどれくらいなら待てるのか自分に問う。


「今回は一年だ。これはもう決定らしい。伸びることもないし縮まることもない。」

 花は迷った。

 行かないで…そう言いたかった。

 でも陸が仕事においてどれほど期待されている人材なのかも十分分かっていた。


「一年…。分かりました。私待ってます…ここで陸さんの帰り。」

 陸は花を抱きしめる。

 やっと花の記憶が戻ってこの家に辿り着けたのに…。

 最初から分かっていたことだったが、こんなにも離れるのが辛いとは…。



「花、結婚しよう。」



 唐突なプロポーズに驚く花。


「覚えてるか?記憶なくす前に結婚しようって言った話。もう立ち消えしちゃったかな…。」

 陸は残念そうに俯く。


「そんな!消えてなんかないです。私の気持ちは何にも変わってないですよ。」

 花の目には固い決意が見えた。


「俺の帰りを待ってて欲しい。もっとスキルアップして、花がメロメロになる位いい男になって帰ってくるから。」

 花の頭を優しく頭を撫でる。


「もう、十分メロメロですよ。」

 ギュッと抱きつく花。


 あと何日、こうしていられるだろう…。

 そう思うとまた涙が溢れそうになる。


 強くならなきゃ…

 そう自分に言い聞かせる花だった。


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