蘇る記憶
毎日暑い日が続いていたが、今日は比較的過ごしやすい心地よい風が抜けていく昼下がりだった。
二人はぎこちなく手を繋いでベランダの花を買いにホームセンターに足を運ぶ。
抱きしめることも、手を繋ぐこともまだ花が慣れないことを承知して、付き合いたての二人の様にしていることが陸にとって新鮮だった。
出会った頃の花を見ている様で顔が綻ぶ陸。
「やだ、なんか顔についてました?」
恥ずかしそうに自分の頰を払う姿も愛おしい。
「いや、ずっと見てたかっただけだよ。」
思ったことを素直に伝える陸に花はなかなか心臓が休まらない。
「ここさ、一緒に来たんだよ。花は知らないかもしれないけど、俺たち本当なら新居に一緒に住んでるはずだったんだ。家も花と一緒にもう決めて、入居まであと一週間ってとこで事故が起こって…、で、俺だけが引っ越して今に至るって訳。」
笑顔で話す裏できっと辛かっただろうと想像するには易しすぎた。
「あの…、ここの買い物が住んだら、辻本さんのお家に行ってもいいですか?」
びっくりする陸に、
「あ、いや、へんな意味じゃなくて…、二人でどんな部屋を探したのか見てみたいなって…。」
恥ずかしいそうに下を向く花。
「いいよ、花。」
陸は本当に嬉しかった。
思い出してもらえなくても、未来だけを見よう…、そう心から思えた。
土曜日なだけあって家族づれが目立つ。
いつか、自分たちも…。
そんな日が来るのはきっと、まだまだ先だろうが、そんな日が来て欲しい。
陸は花々を嬉しそうに選ぶ彼女の姿があの日とデジャヴした。
入り口付近は駐車場から出る車と入る車が忙しなく行き交っている。
小さな子供が盛んに動き回っている中、危ないなぁと心配そうに見ていた時だった。
三歳くらいの男の子が飛び出した。
陸は走って来る車に気づき、咄嗟に子供の元へ走り寄る。
「危ない!!!」
叫んだ花は必死に陸の元へ走り出す。
通り過ぎた車から驚いた運転手が駆け寄る。
子供をしっかりと抱きかかえ一瞬気を失った陸。
「陸さん!!陸さん!!!お願い、目を開けて!!!」
泣き叫ぶ花の声に目が覚めた陸。
驚いた子供は母親の方に向かって走っていく。
「ありがとうございました…!」
幸い擦り傷だけで済んだ陸にお礼を言う母親を見送る陸と花。
「はぁ…、びっくりした…。もう嫌です、こんな思いするの…。」
涙を零す花。
「大げさだな…。大丈夫だよ。」
よいしょっと起き上がってパンパンとズボンについた汚れを払う。
「だってあの時…陸さん死んじゃったって思ったんだから…!」
震える花の異変に気付く陸。
「花……?覚えてるのか…?あの事件の事…。」
恐る恐る聞く陸。
「当たり前じゃないですか!私、本当に陸さんが死んじゃうって怖かったんだから…!」
本気で心配する彼女の瞳の奥に自分が映っているのが見えた。
「花、ここ来た事…覚えてるよな?」
慎重に確認する陸。
「はい、引っ越しの準備で…。」
「………!」
お互い顔を見合わせる。
「陸さん…、私陸さんの事…全部覚えてます…!」
「……花!!!」
ぎゅーっと強く抱きしめた陸の目には涙が光っていた。
花は陸の首に腕を回し二人は人目もはばからず唇を重ねる。
ずっと、こうしたかった…。
こんなに近くにいたのになかなか届かなかった心…。
もう絶対に離さない。
二人は微笑み新しい未来のために選んだ花々を持って新居に向かった…。




