陸の母
「ここは…どこだろう…?」
花は一面真っ白な世界のなかで心地よく寝そべっている。
そういえば…。
あの日の夜に私車とぶつかって…。
もしかして、死んじゃったの?!
陸さんは?
助かったの?!
何もない真っ白な世界の中には、なんの情報も見つけられない。
夢なのかな…?
「夢見たいなものよ。」
突然後ろに見たことのない、でもどこか懐かしい様な女性が立っていた。
「あなたが花ちゃんね!一度でいいから会ってみたかったわ!」
全く面識がないはずなのに、その女性と会えたことが不思議と嬉しく感じる花。
「あの…ここって、天国ですか?」
もう絶対そうだろうと思いながらも、もしかするとまだ生きているかもしれないとほんの少しの期待を込めて聞いてみる。
「天国…ではないわ。入り口みたいなもんね。」
女性は微笑む。
「私、車に轢かれて…。一緒にいた男の人が生きているかって分かりますか?」
花は何もかもが理解に苦しむ目の前の状況でも、少しでも情報が欲しくて女性にすがる様に聞く。
「陸の事ね。大丈夫。あなたに助けてもらって元気にしてるわよ。」
優しく花の頭を撫でる。
「あぁ…よかった…。」
泣きじゃくる花を優しく包み込むその雰囲気が、まるで陸に抱かれている様な錯覚に陥る。
「陸さん…。陸さん…。」
何度呼んでも現れるはずもない彼の名前を呼び続ける花。
「花ちゃん…。よーく聞いてね。ここには本当は陸が来るはずだったのよ。陸はせっかく花ちゃんに出逢えて幸せを掴もうって時に、こちらに呼ばれてしまうなんて、だったら代わりに私があの世に行こうと思ってね。」
ふふふと笑う顔は陸の笑顔にそっくりだった。
「あの…もしかして、陸さんのお母さんですか?」
花は恐る恐る聞いてみる。
「そう!よく分かったわね!あの子が小さい頃私は陸を置いて家を出てしまって…。それから三年後に病気で命を落としたのよ。陸はそのこと全く知らないけどね。」
花は、もう信じるしかないと思って真剣に耳を傾ける。
「私のわがままで出て行ったのに、死ぬまえに一目あの子に逢いたいって思ってどうしても成仏できなくて…。ずっとあの子をここからみてたってわけなの。」
陸の母は続ける。
「一人で頑張っている陸にどうしても幸せになって欲しくてね、私がここから見初めた花ちゃんに出会える様に仕込んだのよ。」
いたずらっこの様に笑う。
「とは言っても、ひとつだけよ。花ちゃんのオルゴール…あれ、私のだったのよ?
陸の父親からプレゼントしてもらった大切な…。
でもそれを花ちゃんが行くであろうアンティークショップに置かせてもらっただけ。
あのオルゴールを買ったのは花ちゃんの意思だし、花ちゃんの隣に陸が住んでいたのも偶然よ。花ちゃんが陸の本当の運命の人なら、私のオルゴールを探している陸と、どんなに離れていても必ずいつか巡り会うだろうって思ってたんだけど…私の予想を遥かに超えてあなたたちは運命で繋がっていたのね。」
嘘なのか…本当なのか…。花は混乱していた。
「陸さん、お母さんのオルゴールだなんて一言も言ってなかったけど…。」
その話が本当ならどうして黙っていたのだろう?
「花ちゃん大切にしていてくれてたから言い出せなかったのよ。」
優しい眼差しが陸と被って見えてくる。
「花ちゃん。あなたはここにくるのはまだ早すぎよ。代わりに私が行くから、もう一度陸を愛してあげて。
生き返る代わりに、私と関わる全ての記憶が消えてしまうわ。当然、陸との記憶も。でも諦めないで。必ず二人はまた引き合う運命にあるって私は信じてる。あなたたちが隣同士に住んで、同じ会社にいたことは全て奇跡よ。オルゴールの力を借りることなく、陸はあなたを見つけたわ。だから、今度はあなたが見つけてあげて。陸の本当の気持ちを…。」
ギュッと花を抱き締める陸の母。
「さあ、時間だわ。私はもう陸を見守ることができなくなる分、花ちゃん、あなたにお願いするわね。二人の力を信じているわ!」
そう言ってだんだんと透明になっていく。
「お母さん!!約束します!絶対に陸さんとまた一緒になるって!」
うっすらと消えゆく中で手を振る姿が見える。
煌々と強い光が花を包み込みあまりの眩しさに目を閉じる。
その光が完全に消えたと同時に花はゆっくりと目を開いた…。




