プロローグ
ん……?来訪者とは珍しいでありますね。むしろ初めてであります。こんな何も無いところになんの用があると言うのでありますか?
神獣に守られる樹海の奥、普通は見つからない空間にどうやって来たのか分からない以上、わたしの立場としては見逃せないのでありますが、敵意とかそういう物は全く感じないのでとりあえずはよしとしておくのでありますよ。
わたしの優しさに感謝するのであります。
それよりも椅子をひとつ増やしたから、まずは座るのでありますよ。紅茶とクッキーくらいは出すつもりでありますから、ちょっと待って欲しいのであります。
……ふぅ。さて、この紅茶とクッキーでありますが、わたしにとっては本当の本当に、盗まれたりダメになったりしたら死んでも死にきれない程大切な、それはもう大切な物であります。
分かったらちゃんとひと口ひと口、余韻すらも味わいつくすように食べるのでありますよ。ストックしてある分が無くなったらもう補充出来ないでありますから。
そしてその大切な物を振る舞う代わりに、わたしのお話しを聞くのであります。
え?そんなに大切なら振る舞わなくてもいい、でありますか?
あ……っと、実はここ数十年程はやらないといけないことも無く暇だったでありますから、近くの町に買い物に出る以外はここで一人で思い出に耽っていたのであります。
その買い物に出た時もわたしが誰かバレないようにフードを被ってほとんど話さないように気を付けていたであります。
そんな日々の中久々に目の前に、人目に触れない場所で現れたのがあなたでありますね。
つまりは話し相手が欲しかったわけでありますよ。ちょっと寂しかったと言ってもいいでありますね。と言ってもわたしが一方的に語るようなものであります。
紅茶とクッキーはお詫びのつもりで出した物。他に無いくらい、美味しいんでありますよ?ぜひ召し上がるであります。
さて、今のお話しはこれくらいでいいでありますね。
これから一人の少女のお話しをするのであります。今から三百年くらい昔の事、少し長くなるかもしれないでありますが、付き合って欲しいのでありますよ。