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ポメラニアン 苺パンツに出会う

ポメラニアンに異世界転犬したからとりあえず無双してみた




「あーっ犬になりてえ・・・」


公園のベンチで俺はそう呟いた。

バイトの休憩時間。パンとコーヒーを食べながらベンチにぐでっと座るおっさんこと、俺。

公園の中央の噴水には小学校高学年くらいの女の子が3人、しゃがんで何やら楽しそうにしゃべってる。

その中心にいるのは、ポメラニアン。


「キュウゥゥゥン?」

「あああまじでやばい!かわいすぎるんですけど!」

「ツイッターにあげよ」

「いや、そっちから撮んなし。わたしのパンツ丸見えだし」

チワワの一挙手一投足に高い声を上げる女子小学生達。


「犬になりてえ・・・ってゆーかポメラニアンになりてえ・・・」


ポメラニアンはいいよなー。鳴きごえだけでかわいいとか言われるし。

オッサンはつらいよなー。声だけできもいとか言われるし(バイトの女子大生に)

いや、実際キモいというのは自分でも自覚している。


俺。荒草 弾(あれくさ だん)。

名前だけ見るとコロ◯ロコミックに出てきそうな感じだが、35歳のれっきとしたおっさん。

ラーメンと牛丼の食いすぎで腹は出てるし

歩くたびにドスンドスンと音がするタイプのデブ。


そして童貞。

素人がつく方の童貞。

意味がわからないそこの君は親御さんに聞いてみよう!


彼女もできないまま、就職もできないまま、ダラダラと35歳になってしまった。

両親とは疎遠。

家賃の安さだけで引っ越してきた街には友達もいない。

毎日、バイトのパン屋さんと1Kのアパートを往復するだけの日々。

これまでも、そしてこれからもずっとそうだろう。


そんな自分に興味を持ってくれる人は、この世界にはきっといない。


それに比べて、あのポメラニアンときたら。

ちょっと鳴くだけで皆の視線を集められる。

つぶらな瞳で見つめれば女の子に抱っこされる。

存在自体が魅力の塊。

存在自体が脂肪の塊なのは俺。

つまり、俺は犬以下ってこと?

まあ、犬以下だよな。


「あー・・・ポメラニアンになりてえ」


ポメラニアンになれば、女の子の注目を集め放題だ。

フサフサモフモフの毛目当てに、女の子達が俺の体をいじくりまわしてくれる。

パンツ見放題だし。

なんなら、いたずらのフリをして、女の子のスカートの中にダイブしたり、太ももに飛びつくことも可能。

そんないたずらをしても、きっと女の子達はかわいいー!とか言って、もっと俺を好きになってくれる。

ポメラニアン最強じゃねーか!!!


生まれ変わりたい、ポメラニアンになりたい。

そんなことを考えてると、目の前の景色がぼんやり霞んできた。


あれ?声でないんですけど。

あれ?手が動かないんですけど。

そういえば今日は記録的な猛暑とかで、最高気温が38℃を超えるとか。

そんな中、直射日光をバリバリ浴び続けたらどうなるか。

熱射病。

ゆでた卵が元に戻らないように、脳のタンパク質が熱で固まるとかいうアレ。


ヤバイヤバイヤバイ!

チワワになりたいとか言ってる場合じゃないんですけど!救急車!

でももう体はピクリとも動かない。


ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!

視界が霞む。

体から切り離された意識が空中にフワリと浮かぶ感覚。


ヤバイヤバイ・・・ヤバ・・・

遠くで、キュウゥゥンと何かの鳴く声が聞こえた気がした。


こうして。

俺は死んだ。










「キャラクターメイキングを開始します」


「60分間リアクションが無かったため、オートメイキングモードを開始します」


「残留思念からの自動生成を行います」


「種族:獣族を選択します」

「個体:ポメラニアンを選択します」

「性別:オスを選択します」

「カラー:オレンジを選択します」

「ジョブ:野良犬を選択します」

「スキル:敏捷LV1 嗅覚LV1 防寒LV1 危機感知LV1 を獲得しました」

「ユニークスキル:魅了LV1を獲得しました」

「初期装備:ふさふさの毛皮 やわらかい爪を獲得しました」


「これでよろしいですか?」


「60分間リアクションが無かったため、自動承認されました」


「転生を開始します」










ざわざわとざわめきが聞こえる。

それがだんだんと近づいてきて、何の音かわかってくる。

人の話し声。

車輪の転がる音。

木々のざわめき。


あれ?

俺死んだんじゃなかったっけ?

皮膚にひんやりと冷たい感触。

感触?俺、生きてるの?

生きてるってことは、誰かが公園で倒れてる俺を見つけてくれたのか。

ってことは、ここは病院?

そのわりには、冷たい。冷たくて固いところに俺は座っている。

座っている?ベッドの上なら寝てるだろ普通。


真っ暗で何も見えない。

いや、遠くの方がぼんやりと光ってる。

その光がだんだんと広がる。

光の先には何かの模様が見える。

赤い楕円の中に白い点々。あれは・・・苺・・・?

それも本物の苺じゃなくて、簡略化された苺。まるで何かに描かれた絵柄のような。


そう認識した途端、音と光が劇的に蘇った。




「あああまじでやばい!かわいすぎるんですけど!」

「抱っこ!抱っこしてもいいかなぁ?」

「あー!ずるいーあたしが先だし!」


人々の喧騒。石畳を転がる馬車の音。木々のざわめき。

は?ここどこ?

何で俺、道端で寝てるの?

そしてお嬢さん方は誰?何で寝てるおっさんのこと見てるの?


目の前には小学校高学年くらいの女の子が3人。寝てる俺をしゃがんで見てる。

俺の目線がやたら低いのと、女の子達がしゃがんでいるから、その、パンツが丸見えだ。

そのうちひとりのパンツは可愛い苺柄である。

あー・・・さっきの苺ってそういう。

ついでだからにおいも嗅いでみる。

くんくん。うん。苺柄にふさわしい、甘酸っぱくてフレッシュな香りだね。

その時。


『1037の経験値を獲得しました』

『仮称:ポメラニアンのレベルが1から5へとアップしました』

『スキル:敏捷がレベル1から3へとアップしました』

『スキル:嗅覚がレベル1から3へとアップしました』

『スキル:防寒がレベル1から2へとアップしました』

『スキル:危機感知がレベル1から2へとアップしました』

『ユニークスキル:魅了がレベル1から2へとアップしました』

『新たなスキルの可能性が解放されました。スキルツリーを確認してください』


は!?

なになに何の声?

スキル?レベルアップ?

うーん、女の子のぱんつのにおいを嗅いだからレベルが上がった・・・?

夢だとしたら、俺は重症だ。


じゃなくて!

おっさんがローアングルから女子小学生のパンツを眺める。

これはまずい。まずすぎる。

おまわりさんこっちです。

おさわりまんこっちです。

ふざけてる場合じゃねえええ逃げるんだよおおお!!!


俺は光の速度(自称)で立ち上がると、全速力で逃げだそうとしてーーー転んだ。


「きゃあああ可愛い!」

「二本足で立とうとしたー!」

「ちんちんだ!ちんちん!」


お嬢さん、それは往来で叫んでいい言葉ではないですよ。でもありがとうございます!ありがとうございます!

っていうか、何転んでんだ俺。

やっぱり日頃の運動不足が祟ったのか。スポーツジム入会して、結局1回も行ってないもんなぁ。


じゃなくて逃げろって!

この際四つん這いでもいい、とにかくこの子達から離れないと。

少女達に背を向け、四つん這いで逃げ出す。

くそっ。ずいぶん遅いな!俺の手足こんなに短かったっけ?

それになんか、全身がフサフサしてるような。


ぎゅむっ。

突然少女の一人にしっぽを掴まれ動けなくなる。

・・・しっぽ?


「はぁ・・・しっぽフサフサ・・・」

「あたしー!次あたしが抱っこする!」

「毛全部剃ったらどうなるのかな」


まてまてまて、さっきから違和感あるぞ、何で俺の全身がフサフサなんだ?ってかしっぽって!?

体を見下ろす。

体全体が茶色の毛で覆われている。

そこからちょこんとのぞく、短めの前足。

うそだろ・・・


俺は何気なしに右を向いた。賑わう街道に立つブティックのショーウィンドウ。

そのガラスに映っていた。

少女達3人に弄ばれる、丸い生き物。

数多の女の子を魅了してやまないつぶらな瞳。

愛嬌を醸し出すてへぺろな舌。

そして天国のようなフサフサな触り心地の毛。

それが俺。俺は




「ポメラニアンになってるぅーーー!!!!!!」


挿絵(By みてみん)


瞬間、ざわめきが止まった。

少女達が無表情のまま俺から3歩離れる。

大人たちが信じられないものを見たような目つきで俺を見る。

破られる静寂。飛び交う怒号。

魔物が現れたぞ!と叫ぶ人。

遠くからこっちに駆けてくる衛兵。


あれ?俺、今喋った?

ってか魔物ってなに?どこにいるの?


ほんの束の間の混乱。それが運の尽きだった。

ぐるりと取り囲む衛兵。その中心にいるのは、俺こと、ポメラニアン。

ギラリと鈍く光る槍の穂先。

その数8本。

その全てが、俺へと向けられていた。



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