OP前 その2
長めです。
窓から飛び出した…そう、ここは二階である。
「空間魔法・対象・足」
唱えれば、ふわりと体が浮く。
そしてそのまま走り出す。空中を。
これは空間魔法の基礎の応用だ。
まず「空間魔法」で体を浮かし、続く「対象・足」で部分浮遊にする。
対象は絞った方が魔力の消費が少ないのだ。
「あー、最初のうちはバランスが取れなくって、地面に顔面衝突してたっけ。」
今となっては懐かしい思い出である。
顔に怪我をして帰って、リィ姉にものすごく心配されたな…。
「あれ?」
なんだか心がギューっとする。
懐かしいような、悲しいような、複雑な感情が胸にこみ上げてくる。これは、なんだろう?
「まぁ、いっか。」
色々考えているうちに城に到着だ。
王城の裏門から入って、王太子殿下の執務室ーといえば聞こえはいいが、実際のところは軟禁室だーのドアの前に立つ。
「すぅーーっ、はぁーー。」
一回深呼吸。
中からは、何やら叫び声が聞こえている。
ならば、ノックなど不要だろうな。
「失礼します。」
「誰だ!」
そう叫んで振り向いたのは、この国の王太子殿下だ。
「近衛騎士団二番隊隊長、オーディリア・フィクスです。緊急事態と聞き、馳せ参じました。」
「なんだお前か…って、はぁ⁉︎お前今日、非番だろ!なんでここにいるんだよ!」
…どうやら確信犯だったらしい。
私の父は、フィクス公爵家の当主で、現宰相だ。
きっと父に怒られたくなかったのだろう。
どうせ王族の不始末はもみ消されるし、父に怒られたところで殿下の悪い癖が直るわけでもないが。
「わざわざ知らせてくれた人がいました。」
ここに。
ちらっと横にいる青年・ルイを見る。
「彼女が必要だと思ったので。」
涼しい顔で答える同僚はすこしも悪びれたところがない。
(後始末が面倒だと思っただけだろ)
と思ったが、一応王太子の御前なので、言わないでおく。
「なんでコイツが要るんだよ!」
王太子は食ってかかるが、面倒なので遮る。
「ところで、何を叫んでいたのですか?」
「はぁ⁉︎お前、俺の言葉を遮るなんて…」
「質問に答えてください。」
冷ややかな声で繰り返す。
「……あぁ、そうだ!なんで俺、学園敷地内に立ち入り禁止なんだよ!」
「僕が今回の件での殿下への罰を読み上げてたらいきなり叫び出してね…」
呆れた顔をしながらルイが教えてくれる。
(あー、成る程。)
「…それは今回、殿下が学園内で生徒に手を出したからでしょう。」
「それがどうし…」
ガチャッとドアが開いた。
「ちょうどいいところに…お父様、宜しく頼みます。」
「ああ。ご苦労。お前は学園の方に詫び状を。」
「はい。…行こう、ルイ。」
「それでは、失礼しました。」
(王太子殿下よ、みっちり怒られてしまえ!)
この後、王太子殿下は宰相殿にめっちゃ怒られます。