選抜
加藤は応接室へ戻ると、冷蔵庫の隣に設置されている棚の鍵付き引き出しを開けてパソコンを取り出した。
選抜チームという題名のチャットルームをクリックし、先ほど簡単にメモした相談者のプロフィールを書きこんでいく。
部屋番号:スミレ3号室
性別 女
年齢13歳 中学1年生
家族構成 父母 兄、弟、妹 (長女)
部活動 回答なし
得意科目 英語
苦手科目 体育
好きなこと 漫画を読むこと
嫌いなこと 回答なし
外傷(衣服有)特になし 精神的傷害あり
案内人特筆事項 家族間トラブルの可能性あり
現段階での注意レベル 2 会話が可能であり、暴走行為は行っていない良好な状態
選抜希望人物 同年代、子供のいる親、外国在住経験者
希望面談日 明日6/3午前中
すべて書き込むと送信ボタンをクリックし、反応を待つ。先ほどのコップは片付けられているようだったので、新しいカップに紅茶を淹れテーブルに戻ると返事があった。
「お疲れ様です。データ受信致しました。1時間以内に面談者に連絡を取り手配します。選抜チーム第1営業部 千葉」
データ送信が完了したのを確認し、パソコン画面にロックをかける。1時間後にもう一度確認するため時計を見てから棚に置いてある読みかけの本を取りに行くことにした。午後9時を回ったところだった。
「花地区に新しい相談者がきました。明日の午前中までに面談希望です。案内人情報から面談候補者リストを出力しましたので審議に集まれる人第3ブースにお願いします。」
第1営業部は、面談期限の早い相談者が回されるためタイムシフトをかなり細かく区切られており、この時部署には6人ほど在席している。千葉の呼びかけに、3人が集まった。審議には、担当者を含めて最低3人以上必要になる条件はクリアした。
家出サービスでは、全ての面談候補者の情報を一括管理し相談者の概要と案内人の情報を元に、最適候補者を10人まで選出するプログラムが構築されている。
選抜チームは、最適候補者10人の中から必要最低人数3人以上6人未満を審議し面談可能か候補者に連絡を取っていく。
「案内人の希望候補者から見ると、1番と5番と8番は必要になると思います。」
千葉が、同年代、子供を持つ親、外国在住経験者の要件を満たす3人をあげるとこれに異議はなく最低人数3人が決定した。
「リストにはありませんが、家族構成に長女とあるので、同年代だけではなくもう少し年下の小学3年生くらいの候補者を入れるべきではないでしょうか。兄弟間の問題点だけでなく学校での状況を聞き出せるかと」
桜井からの新しい候補者の提案について千葉は考えてみた。確かに条件に年下は含めていなかった。
「ちょっと待ってくれ、家族間に問題がある可能性は指摘されているが兄弟ではなく親ではないのか?ならば、もう一人親としての経験を持つ4番が望ましい」
木山が、これに反する意見をあげてもう一人が同意見だと賛同した。4番を候補に入れて、桜井の意見を保留とした。あと、2人入れるとしたら誰か必要となる人物はいますか。
「この2番の人とかがいいんじゃないですかぁ。趣味に漫画を描くって書いてありますし話が合うんじゃないかなぁ」
相談者は13歳という多感な時期でもあるし、会話のしやすい人間を多めに入れることも必要であると判断された。
「では、最終的に1番、2番、4番、5番、8番の5名にて決定します。先ほどの年下候補者に関して再検索し最適候補者10名に含まれた場合には採用とします。異論がある方はお願いします。」
3人がそれぞれ問題ないと回答し、決定確認書類にサインした。
10時を回ると、加藤はもう一度パソコンを起動しチャットの画面を開いた。担当の千葉から返信がきていた。
「スミレ3号室の面談者が確定致しました。6/3午前10時より以下のメンバーを手配します。
1番 2児の母親 50代
2番 大学生 男性 20代
4番 3児の父親 40代
5番 中学2年生 女子
8番 外国籍 女性 30代
11番 小学3年生 男子
面談者番号170603101として案内しています。午前9時までに訪問するように連絡済です。
問題がある場合には、こちらまでお電話ください。宜しくお願い致します。千葉」
2回程読み返し内容をじっくり確認してみた。選抜チームには、基本的に案内人と面談仲介人を経験した者が選ばれるため人選に大体間違いはないが、それでも加藤は常に面談者確定には疑いの目を欠かさなかった。
相談者が、心の中にしまっている全てを預けられるベストな面談者を送り出すのが彼女の仕事だ。
6名の候補者の意味をすべて理解し、千葉宛にメッセージを送信した。
「手配頂きましてありがとうございます。6名確認しました。面談者様に会えるのを楽しみにしております。」