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黒医  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第一章 ゼロから始める
9/9

初登校

 翌朝、僕は2年ぶりに濃紺のブレザーに袖を通す。この2年は自分の見た目や服装などに気を遣う暇もなかったため、ほとんど起きたままの状態だ。寝癖も立っていたが気にもならない。


「悠くーん。そんなんじゃダメだよ。キミは帰国子女っていう設定にしてあるから、ネクタイはもっと崩してアウトローな感じで、寝癖も直してもっとチャラい感じにしなくちゃ」


 糸井が勝手に僕の服装を直し始める。僕はされるがままに棒立ち状態だ。


「よし!これでいいね!」


「どこが“よし!”なんですか……。めちゃくちゃチャラいんですけど」


「このくらいでいいんですって!悠君はこれから高校生活で青春を謳歌するんですからっ!」


「はぁ……」


 あまりに楽しそうにしている糸井に怒りも沸いてこない。「では、行きましょうか」と糸井に促され外に出る。


「これで行くんですか!?」


 糸井が用意した車は真っ青なBMWだった。まるでSF映画にでも出てくるような車にはi8の文字が入っている。


「初登校は目立たなくちゃ!慣れるまでは私が送り迎えしますよ!」


 僕は渋々と右の助手席に乗り込む。上に開くドアはかなり注目を集める。一体この人は何処からこんな物を用意してくるんだろう?おっと、考えても無駄だった。あっち系の人なんだから……。

 糸井の運転するBMWは周りの視線を集めながら市街地を走る。10分程走ったところで糸井が車を停める。距離的には仙台駅から一駅分くらいだろうか。


「ここです」


 校門の前に車を横付けする。


「私立青葉学園高等学校?っていうか、近いじゃないですか!徒歩でも自転車でもよかったんじゃ?」


「通学途中で悠君の身に何かあったらと思うと私は……。う、う……」


 糸井が泣き真似をする。


「はいはい。わかりましたよ!」


「では、帰りは電話してくださいね!はい、これ悠君のスマホです」


 泣いてたんじゃなかったのかよ!僕は糸井からスマホを受け取り、車のドアを開ける。ドアが開いただけで登校中の生徒達の視線が集まる。やだなぁと思いながら重い足取りで校内へと進む。

 仙台駅からそう遠くない繁華街に位置する割りに校内周囲は緑が多く落ち着いた雰囲気だ。

 まずは職員室とかに行くのかな?普通の学校生活が久しぶりな上に日本はアメリカと全然違う。アメリカ人は他人のことなんて気にしないが、ここではやたらと視線を感じる。見ないで!目立ちたくないんだ。という願いは届かずキョロキョロしている僕に早速声をかけてくる人物が現れる。


「ねぇねぇ!ちょっとキミ!」


「はい。なんでしょう?」


 長い黒髪を後ろで一本に束ね、制服は周りの生徒に比べピシッと着こなしている。キツめの目だが色白で間違いなく美少女と呼ばれる人種だ。腰に手を充てて仁王立というテンプレ委員長キャラだ。


「ダメじゃない!校門前までの車での送り迎えは禁止されているのよ!?」


 糸井さん……。いきなり怒られたじゃないですか……。


「すみません。編入してきたばかりで知らなかったんです」


 僕は素直に謝る。すると彼女は幾分表情を和らげて話しかける。


「編入生なんだ……。だったらしょうかないか。次からは気をつけること!それと服装はちゃんとすること!わかった!?」


「はい。気をつけます。怒られついでに職員室の場所を教えてもらえませんか?」


「いいわよ。ついてきて」


 そう言うと委員長(仮)は僕の前を歩き校舎へと入っていく。


「キミは何年生?」


 委員長(仮)が歩きながら質問してくる。


「えーっと、たぶん2年かな?」


「かな?ってハッキリしないなぁ」


「すみません……」


「なんで謝るのよ。私が怒ってるみたいじゃない。ここよ」


 委員長(仮)が中に入り教師と思われる人物と会話する。


「じゃぁ、私は行くわね。頑張ってね!」


「はい。ありがとうございました」


 委員長(仮)は早足で職員室を後にする。キビキビした人だなぁ。と感心していると教師の一人から声がかかる。


「黒沢悠君。こっちに」


 僕は呼ばれたほうに移動して若い女性教諭の前で立ち止まる。女性教諭は教師とは思えないような短めのタイトスカートを履き白いブラウスからは胸元がチラチラと見える。目のやり場に困る……。


「黒沢君は3歳からカルフォルニアで育って、日本の大学に進学するために日本にいる叔父さんのところに来た。間違いない?」


「そうなんですか?」


「そうなんですか?って自分の事でしょ?」


 失敗した。細かい設定については糸井から聞いていなかった……。


「そうです、そうです。間違いありません」


「じゃぁ、英語はペラペラ?」


「そうですね。英語は話せますけど逆に日本語が不自由だったりします」


「そうなの!?よかったわ!私は英語が苦手だから助かるわ!担任の佐竹亜紀よ。よろしくね!黒沢悠君」


「こちらこそよろしくお願いします」


「じゃぁ、行こうか」と言う佐竹先生に連れられ教室に移動する。中からは「編入生だってよ」「ちっ、男かよー」などといった話し声が聞こえて来た。

 ギフテッドは学習進度に応じて年齢が下も上も関係なくクラス別けされたため、同年代の人達とはあまり関わりがなかった。約2年ぶりの同年代と同じクラスだけど、正直どう接すればいいのかわからない。僕は本気で帰りたくなった……。





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