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黒医  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第一章 ゼロから始める
7/9

仙台

 約10時間。


 ロサンゼルスから日本への飛行時間だ。2年ぶりに日本の土を踏む。とは言っても成田空港のタイルなんだけど。

 このまま誰も迎えに来なかったら僕はどうなってしまうんだろうか?そのまま警察にでも行くしかないのかな。

 などと考えるが、そんなはずはあるわけもなく人混みの中にその人を見つけてしまう。糸井は周りに大勢の人がいるのも気にせず体全部を使い大きく手を振って僕の名前を叫ぶ。


「おーい!悠君!こっちこっち!」


 周りの人達が糸井に注目する。僕はなるべく他人のフリをして糸井に近づいていった。


「悠君!おかえり!酷いじゃないか。私がこんなに喜びを表しているのに無視するなんて」


「そんなに叫ばなくてもわかりますよ。それに先週も会ったばかりじゃないですか」


「まぁ、それはそうだけどさぁ。折角なんだから久しぶりに帰国したぞ!っていう雰囲気を味わってもらいたくてね」


 僕がカルフォルニアにある学校のギフテッドクラスに入ってからUSMLE(米国医師試験)に合格して研修が終わるまでの2年間、糸井は毎週のように現れて僕を見張っていたのだ。


「はいはい。糸井さんはそういう人でしたね」


「キミも随分と私の相手をするのが上手くなったじゃないか」


「お陰様で、だいぶ擦り切れましたので……」


 本当にこの2年間は地獄のような日々だった。ギフテッドクラスに入り込んだはよかったものの本物の天才達の学習スピードについていけず何度も挫折仕掛けた。挫折仕掛けるといつも糸井が現れて家族を思い出させる。僕は凡人なりに工夫して天才に成りすまし、やっとの思いで大学院までの卒業資格を得た。2年間で最も学習したことはいかに天才の目を欺けるかだった気がする。


「僕はこれからどうすれば?」


「悠君のこれからの事は計画済みだよ!車できたから移動しながら話そうじゃないか」


 空港を出て、糸井が用意した車に乗り込む。慣れない飛行機での移動が長かったせいか出発してすぐに眠ってしまった。

 どのくらい眠っていたのだろうか。気づいたときには車はまだ走行中だった。都内であればそんなに長くは眠っていなかったはずだ。


「4時間も寝てたのか……」


「お、起きたかい?」


 僕の呟きに気づいた糸井が話しかけてくる。


「まだ着かないんですか?渋滞にはみえないですが……」


「もうすぐ仙台に入るよ。ここら辺だったね。憶えているかい?」


 僕は高速道路の標識を見やる。そうだ、福島を過ぎて宮城入ったこの辺りで僕達一家は事故にあったんだ。


「結局、事故の原因になった相手の車は見つからなかったよ。表向きには不法滞在のアジア系一家の事故死ということにしてあるんだ。私は警察官僚にも知り合いが多いからね。悠君が他にとられてしまう前に私が手を回したんだ」


 糸井が聞いてもいないことを教えてくれる。


「自慢ですか?僕にとっては終わった話です。今更家族なんか……」


 事故のことに関しては糸井を恨んでいるわけではない。あれは不運な事故だったのだ。ただ、糸井が全て本当の事を言っているとも思えない。やはり、家族の誰かは生きていると僕は思っている。いずれ聞き出してやるが、今は大人しくしているべきだ。


「まさか、ここを見せるためにわざわざ車で?」


「正解です!」


「それはそれはご苦労様です」


「事故の時のことは憶えていますか?」


「大型トラックが横に並んだのを憶えています。その後のことは以前お話しした通り、みんな倒れていました。今更事故の事を聞いてどうするんですか?」


「いえね、事故相手が見つかれば脅してお金を取れるんじゃないかなぁと思いましてね」


 どこまでもやることがあっち系の人だな。


「あー、そういえば若い女性が運転してましたね。珍しいなと思ったのを憶えています」


「どんな女性でしたか!?」


 急に糸井が食いついてくる。


「さぁ……。若そうだってくらいにしか」


「そうですか……。なにか思い出したら教えてくださいね。あ、もうすぐ仙台市内に入りますよ」


 高速を降り市街地に入る。すでに夜の8時を過ぎているため道はそれほど混んでいない。30分ほど車は走り、ビルが建ち並ぶ中心街へと移動した。


「どうです?いい街でしょう?都会の割に住みやすいんですよ」


 糸井の言う通り以前住んでいた相模原に比べると仙台は随分都会に見えた。


「ここで僕は何をするんですか?糸井さんの事だからマトモな仕事だとは思えないですけど……」


「今から悠君の職場に案内しますよ。詳しくは着いてからのお楽しみってことで」


 人や車が多く行き交う駅前を通り、糸井は車を駅周辺のコインパーキングに駐車する。


「ここからすぐですので、歩きましょう」


 僕は糸井の後に続いて歩く。さっき車の中から見た街並みと違い小さな飲食店やマンションが多い。


「同じ街でも随分違うんですね」


「そうですね。さっき見てきたほうは西口。こっちは東口だからね。西口のほうには繁華街があるから賑やかだけど、東口は割と落ち着いた雰囲気でしょう?着きましたよ。ここです」


 5分ほど歩いた小路で立ち止まる。目の前には5階建のビルがありいくつかのテナントが入っているようだ。

 糸井は階段を上がり、僕も後に続く。2階に上がり扉の前に立つ。


「南條美容外科クリニック?」


「そうです。ここが悠君の職場になります。そして、ここの5階が悠君が暮らす部屋ですよ」


 すでに診察は終わったのか自動ドアは開かない。糸井がインターホンを押すとしばらくして応答がある。


「はいはーい。今日は終わりですよー」


 いかにもチャラい感じの応答が返ってきた。


「南條先生。糸井です」


「糸井さんか!待ってました!今開けるねー」


 自動ドアの前に男がやってきて僕達を中に招き入れる。








黄金のファフニールが一区切りしたので、こちらを少しずつ更新していきます。

評価・感想・苦情・誹謗中傷など、お待ちしております。

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