ギフテッド
僕が意識を取り戻してから一週間が過ぎた。骨折はなかったため、歩けるようにもなったし食事も普通のご飯を食べている。あれから毎日、糸井は僕の部屋にやってくる。
「悠くん。だいぶ動けるようになりましたね」
「はい。おかげさまで……」
「じゃぁ、そろそろ始めたほうがいいね」
糸井がわざと僕に質問させるように話す。
「何をですか?」
質問された事が嬉しかったのか上機嫌だ。
「何をって、決まってるでしょう。医者になるための準備ですよ」
中学生の僕が医者の真似事なんてできるはずがない。よくわからないけど大学を卒業しないとなれないはずだ。
「僕はまだ中学生ですよ?医者にはなれないと思いますけど……」
「悠くんが日本の大学を卒業して医者としてまともにお給料をもらうには後9年かかります。私としても、そんなに長くは待っていられない。しかし、知識もないのに医者として働いてもらうわけにもいかない」
じゃぁ、どうすればいいんだろう。言ってる事がめちゃくちゃだ。
「悠くん。ギフテッドというのを聞いた事がありますか?」
「いえ。聞いた事がありません」
「ギフテッドというのは、産まれた頃より類い稀な才能を発揮する人達の事をいいます。優れた記憶力を持っていて学業だけではなく芸術まで多岐にわたって活躍しています」
「僕がギフテッドというわけじゃないですよね?」
「そうですね。まぁ普通でしょう。ですから、今からギフテッドになってもらいます」
何を言ってるんだこの人は……。
「さっき、産まれた頃からって言ってたじゃないですか。今からなろうとしてなれるものなんですか?」
「正確にはギフテッドのフリをしてもらいます。キミには九月までに二カ国以上をマスターしてもらって、天才のフリをしてアメリカでギフテッドのための特別クラスに入ってもらいます。飛び級が普通のギフテッドですから、一年で医師免許をとれるまでになってもらいます」
もう五月の半ばだというのに九月までに二カ国以上!?しかも天才のフリって……。
「大丈夫ですよ!私もお手伝いしますから!」
糸井はそう言うと分厚い本を何冊も取り出し僕に渡す。
「死ぬ気で覚えないとダメですよ?覚えれないと本当に死ぬ事になるかもしれないですけどね!」
この日から糸井の指示に従い、猛勉強を始めた。寝る時間すら削って勉強をする。すでに体力は戻っていたが、個室に入院したままで数ヶ月を過ごす。
八月末、僕は糸井の言う通りに二カ国をマスターし、高IQを出すための訓練も受けた。驚いたのは、糸井は数カ国語を使いこなし、僕の質問にも的確な答えをくれた事だ。
そして、糸井と共にアメリカへ出国する。