遠藤医師
「黒沢悠というのがキミの名前なんだね?」
「はい」
「やっと説明できるな。僕が主治医の遠藤だ。よろしくな」
僕は車椅子でナースステーションに連れて来られて、主治医から病状についての説明を受ける。
「これが悠君が運ばれてきた時に撮ったレントゲンだよ」
遠藤医師は液晶モニターに映し出した画像を僕に見せる。僕でもわかる胸のレントゲン写真だ。
「ここの下のところだけど、わかるかな?白くなって膨らんでるよね?これは、心囊っていう心臓の周りにある袋に血が貯まって膨らんでいるんだよ。おそらく事故の時に胸を強打して心臓に小さな穴が空いたからなんだ。直ぐに手術して穴は塞いだから、今は治ってるよ。手術の傷も塞がったしね」
そうだ。僕の胸には大きな傷跡ができていた。この手術でできたものだと理解する。
「これがなんだかわかるかい?」
遠藤医師は五センチほどの針を手にして僕に見せる。
「わかりません」
見た事がないので正直に答える。
「救急車で運び込まれた時にキミの心囊に刺さっていたものと同じものだ」
僕はハッとする。父さんが僕の胸に刺したんだ。
「救急隊に聞いたら、通りすがりの医師を名乗る男が刺したっていうんだよねぇ。キミは何か見ていないかい?」
「い、いえ。僕は憶えていません」
「適切な処置だったよ。これがなかったらキミは死んでいたかもしれないね。これはカテラン針っていって特殊な針だから通りすがりに持っている物じゃないんだけどねぇ。誰か分かればお礼も言えるのにねぇ。キミを運んできた救急隊も全員異動になって話は聞けないっていうし、警察も何も言ってこないんだ。奇妙な事故だよねぇ。キミもそう思うだろ?」
「いえ。僕にはサッパリわかりません。何も憶えてないので……」
おそらく信じてはいないだろう。遠藤医師は諦めた様子でそれ以上は追求しなかった。
「まぁ、いいでしょう。別に見つけ出して医師法がどうとか追求したいわけじゃないからね。僕の好奇心だ。悠くんは頑張ってリハビリをして、一日でも早く退院出来るようにしないとな」
「はい。お世話になります」