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裁縫メイド伝記  作者: 神無月 雪華
一章・メイドさんになりました編
10/14

告白しました

シリアス回。


「・・・何で、皆あの男を信用してるの?」


アリスとエリス、セラが居なくなった夕食後の食堂に一つの人影が現れる。


「・・・あの男って、誰の事だい?ティナリー?」


カナレイが現れた人影・・・この屋敷に居るアリスの知らない最後のメイドのティナリーを睨みつける。


「決まってる。あの男はあの男。お嬢様に媚びへつらってるアリスと言う奴。」

「・・・あの子はいい子だよ。それに、媚びへつらうなんて事はしていない。」


ツェルニもティナリーを睨みながら言う。


「どうしてそう言えるの?あいつは誰も信用していないのに。」

「ティナリー、発言を取り消しなさい。これは命令です。」


フィナシュが強い口調で『命令』をする。

それを聞いてティナリーは反発するように笑う。


「勇者共に王宮の知り合いを通して聞いたこと。あの男は自分の両親、姉が死んだ時に泣きもしなかった奴。そんな奴、相応しくない、きっとお嬢様の財を狙っているに決まっている。」

「ティナリー!」


ラデルドも叫ぶ。

ティナリーはこの屋敷の人に拾われたメイドであるが故にそれ以外の人間を極端に嫌う傾向にあった。

そして、彼女は家族が死んだ時ひどく悲しんだ。

彼女にとって家族とは変えがたいものなのだから。


「家族の死に涙流さない奴、お嬢様を幸せになんてできるはずが無い・・・」


ガタッと音がする。

音がした扉の方を見ると怒りに顔を歪めたエリスと静かに嫌悪感をあらわにしたサラ、そして、顔を真っ青にして震えているアリスが居た。


「ティナ「ごめんなさい」・・・アリス?」


エリスがティナリーを怒るより先にアリスがひどく霞んだ声で謝罪を口にした。


「生まれてきてごめんなさい。」


その場に崩れ落ちて自らを卑下し出すアリスを、その場にいた誰もが驚いた顔で見る。


「僕なんかが生きていてごめんなさい。僕なんかが生きていてごめんなさい。僕なんかが生きていてごめんなさい。僕なんかが生きていてごめんなさい。僕なんかが生きていてごめんなさい。僕なんがが、僕なんかが生きているからみんなに迷惑がかかってごめんなさい。何も出来ないクズでごめんなさい。気味が悪くてごめんなさい。お嬢様に迷惑をかけてごめんなさい。誰も信頼出来なくてごめんなさい。僕なんかが誰かの為に生きようとしてごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」


アリスは壊れたように謝罪を繰り返す。

その刹那、その場にいた誰もが光に包まれた。













それは、映像だった。

記憶だった。

記録だった。

少年の、記憶だった。

伽藍堂な、誰も彼もに絶望して、家族以外信用出来なくなった異常な少年の記憶だった。


少年は、普通の家庭に生まれ育った。

少年は父親と母親と姉に優しく育てられるはずだった。

しかし、少年が五歳の時に両親が事故で死んだのだ。

少年は聡い子だったから、死が何かを理解出来ていた。

少年は優しい子だったから、泣かないようにしている姉に迷惑をかけないように泣くのを必死に我慢して葬儀を過ごした。

しかし、世界は少年に優しくはなかった。

葬儀の最後にある一人の大人が言った言葉が少年の心を抉った。


「貴方がいなければご両親は死ななかったでしょうにね?」


少年は存在しない罪を背負った。


少年は死んだ両親の代わりに家事を行う姉の負担を減らすために家事を覚えて家事をしだした。

そのせいで少年は人より勉強を覚える事が遅かった。

そのせいで少年は人より運動が出来なかった。

それは、他人に優越感を抱かせた。

自分より下の者がいる。

その事実によって彼は他人から苛められるようになった。

容姿が女の子に見えたのも理由の一つだろう。

幼馴染の少女は苛められている少年を助けようとしたが、両親がそれを止めた。

少女の両親は娘が苛められるのを恐れたのだ。

少女の姉は少年の姉と友達だった。

少女の姉は少年を助けようとしたが、差し伸べられた手を少年は恐怖して逃げた。

家族である姉以外の誰も少年は信じる事が出来なくなっていた。

しかし、世界はまたも少年を苦しめる。

人を信じる事が出来ないのに、異常なまでに真っ当に育った少年が十三歳になった日。

少年の目の前で少年の姉が強盗に殺された。

少年は狂ったように走りなんとか生き延びた。

彼はまたありもしない罪を背負った。

両親も望んでいない、姉も望んでいない、『生き残った』という罪を。

心無い者達の『何も出来ない』という罪を。

誰かを『信じる』ことが出来ないという罪を。


それから数年間、少年は一人で生きてきた。

お金は両親の残した遺産があったからなんとか生きてこれた。

誰も信用しないで、少年は他人を客観的に見るようになった。

彼の目は他人を映す事をしなくなった。

しかし、彼は誰が見ても真っ当な人間に育った。

少年の歪みには、誰も気が付かなかった。

少年本人すら、他人を信用していない自分を知らなかった。


そして、彼は異世界に召喚された。

そこで少年はある一人の少女に出会った。

少年は初めて信じたいと思う事が出来た。

少年は初めて誰かを好きになった。

狂った少年の異常は僅か半日の少女とのかかわり合いで薄れて言った。

少年は、その時、初めて自分の歪みを理解した。

だから、この屋敷の人を信じようとした。

他の人に、心許した。

だが、その目が伽藍堂にみえたティナリーが少年の罪を溢れされた。

彼は、今まで溜め込んだ懺悔を繰り返した。











「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


光が晴れるとそこには泣きながら謝罪を繰り返すアリスが居た。

この場にいたアリス以外の全員は少年の抱えているものを知った。


「大丈夫よ、アリス。」


エリスは謝罪を繰り返すアリスを優しく抱きしめる。


「貴方は、生きていていいの。」

「・・・え?」


エリスの言葉にアリスは顔をあげる。


「貴方は、人を信じていいの。酷い人もいるけれど、優しい人もいるの。貴方は幸せになっていいの。貴方は気味悪くなんてないの。貴方は誰よりも美しいわ。」

「・・・僕は、お嬢様のそばに居ていいんですか?」

「ええ、ずっと、居て頂戴。」

「お嬢様・・・僕は。」


エリスは優しくアリスの唇に自分の唇を重ねる。


「今は、眠りなさい。後で、聞いてあげる。」


その言葉にアリスはエリスにもたれ掛かり、寝息をたてる。


「・・・ティナリー。貴方は」

「っ!」


優しくアリスの頭を撫でるエリスはティナリーに殺意を向ける。


「今回は不問にするわ。明日、アリスに謝りなさい。いいわね?」

「・・・はい。」


エリスは溜息をつきアリスの頭を撫でるのを止める。


「この子が何を抱えているのは知っていたから少しづつこのこの抱えているものを何とかしようと考えてたのに全部パーよ。」

「知っていたのか?エリス。」

「ええ、当然よお父様。この子は私と鏡合わせだもの。家族にしか恵まれなかったアリスと家族以外に恵まれた私。拾って育ててくれたお父様とお母様は良く知っているでしょ?この子の目は昔の誰も信じていなかった私と同じ。昔の私が通った道だもの。」


エリスは十二年前、ラデルドとフィナシュが保護した養子であった。

家族がどんな人かは覚えていないが、ロクでも無かったのは確かね、と笑うエリス。


「最も、生きる意味を持たずに生きてきたなんて、予想して無かったけど。ほんと、勇者共は見る目がないわね。」


アリスをサラに運んで貰ってエリスは部屋に戻ろうとする。


「・・・エリスお嬢様。」

「何かしら、ティナリー?」

「申しわけっ!?」


後悔で顔を歪めたティナリーが謝罪をしようとした瞬間、エリスはティナリーの頬をぶった。


「・・・貴方は馬鹿ね。この屋敷以外の人とほとんど関わりを持たずに人の醜いところばかり探すその性格、直しなさい。そして、謝るなら一番最初にアリスに謝りなさい。」


それだけ言うとエリスは食堂を後にした。

ティナリーはその後直ぐに姿を消した。


「人の心を知るなら清濁合わせ飲んで善も悪も両方を理解してやれ・・・か。」


ツェルニが呟いた言葉はここに居る全員の心に染み渡る。


「人を信じなかった分、アリス君はきっと、人の本質を見抜けたんじゃないかな?サラに懐いたようには見えたけど、お爺ちゃんには警戒を無意識にしてたみたいだし。」

「まぁ、嘗ては死神と呼ばれた暗殺者ですからなぁ。警戒をしても可笑しくはありません。」

「でも、今日は普通に接してたよ?多分、善悪両方を感じたんじゃない?お爺ちゃんは確かに昔人を殺したけど、それは快楽じゃなく誰かを守るためだったんでしょ?」


使用人一同とフィナシュ、ラデルドはアリスの本質を知り、決める。


「あの子のことは、今まで以上に家族として接しましょう?あの子に安らぎを与えられるように。」


フィナシュの言葉が彼らの決意を代弁していた。


















「・・・ここ、は。」


目を覚ますとお嬢様と僕の寝室のベットにいた。


「あら、起きたのね。まだ、休んでいなさいな。」

「・・・お嬢様。」


お嬢様はベットに腰掛け僕の頭を優しく撫でてくれていた。


「何かしら?」


身体を起こしてお嬢様に向き合う。


「好きです。」


出会ってから数日しかたって無いけれど、この気持ちに偽りは無い。

お嬢様は優しく微笑んでくれる。


「私もよ、アリス。そして、誓うわ。私は貴方を、必ず幸せにするわ。」

「それ、僕の言葉ですよね?」


そうかしら?と笑うお嬢様。

・・・本当に、この人には感謝してもしきれない。


「貴方、気づいてる?ギルド行く前は何かを決めたような顔をしていたけど、今はすっきりした顔してるわよ。悩みとか憑き物が落ちたような顔ね。」

「お嬢様のおかげです。僕の抱えていたもの、全部とっぱらってくれたじゃないですか。」

「なら、報酬に、キスして?」


顔を近づけて目を瞑るお嬢様。


「好きです。お嬢様。」


先程と同じく言葉を、それ以上に想いながら言う。


「ええ、私も貴方が好きよ。大好き。」


その言葉を言ったお嬢様のその唇に、僕は自分の唇を重ねた。


この日、僕は人間になれた。

人形の様な感情を持たなかった昔と決別して、お嬢様のメイドで、恋人になった。

アリス君の抱えているもの全部ぶちませたのは森咲 亜璃栖でなくメイドのアリスとしてこれからやっていくため。

書いてて一番辛かったのは最後の告白のシーンだったりするのは秘密。

ティナリーちゃんは悪い子じゃないんですよ?

ただ、家族以外興味を持ちにくいだけで。

次回、ティナリーちゃん謝罪回。


ちなみにアリス君は一章終わるまでにチートになる予定。

不可能な裁縫(インポッシブル・ソーイング)》をそろそろ使っていく予定。

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