召喚されました
なんで僕は異世界でメイドしているんだろうか。
いやまぁ、分かってるんですよ?
「何頭抱えてるのかしら?亜璃栖?」
「あ、いえ、なんでもありません。お嬢様。」
いけないいけない、今はお嬢様とのティータイムだった。
上質な紅茶(自分が淹れた物)の香りを楽しみながらどうしてこうなっているのかの回想に浸り始めてしまった。
異世界に来た時の記憶を。
◇
思い返せば、それは何の変哲もないいつも通りの日常だった。
いつも通り起きて、学校に行き、授業を受ける。
なら、どうして、僕等はこんな魔法陣みたいな物が描かれた床の上にいるのだろうか?
何故、周りに王冠被ったおっさんや鎧着た人たち、黒いローブ羽織った杖持った人が居るのだろうか?
ドッキリ、にしては僕らでやる必要が無い。
一般の学生にこんな手の込んだ仕込みするだけお金の無駄だろうから。
そもそもここはどこだろう?
考えつくことはひとつある。
でも、そんなこと普通ありえない。
そもそも、それは空想だから。
それが現実に起こったのなら認識を180度改めなくてはいけなくなるかもしれない。
最近読んだラノベでもないんだから、有り得ないでしょ。
異世界に居るなんて。
「ようこそおいでくださいました、異世界の勇者様方!」
うん、速攻考えが否定されましたね。
泣いていいです?
え?駄目?
そんなけったいな。
え?こんな状況でふざける事が出来てるから落ち着いているだろ?
はは、実はかなり錯乱してます、はい。
混乱すると脳内はめっちゃネタに走るんですよ僕。
「・・・君!・・す君!亜璃栖君!」
思考に耽っていたら先生に肩を揺すられていた。
ああ、ちなみに僕の名は森咲 亜璃栖と言います。
・・・男ですよ?
両親が何をとち狂ったのか、不思議の国のアリスから名を持ってきたのが原因です。
男で亜璃栖は流石にないわぁ、という感想は野暮でしょうか?
「亜璃栖君!混乱しているのはわかりますが王様が私達を呼んでますよ!」
「え?ああ、はい。」
混乱というか思考の海に・・・。
まぁ、いいか。
王冠被ったおっさんは王様だったそうです。
それもそうですね。
という訳で王宮の玉座みたいなところの前で立たされました。
え?立ったまま!?
椅子ください、椅子。
「状況が理解出来ていないのは分かる。これから説明するから許してほしい。」
王様が僕等に笑みを浮かべながら話しかけてくる。
そんな事より椅子をですね?
「まず、ここはザラグ国。君達勇者がいた世界とは別の、異世界、と言うところだ。」
「異世界!?どういう事だ!俺たちを元の所に帰せ!」
うちのクラス一のイケメン君が抗議をする。
でもなぁこの場合・・・大抵は
「すまない。君たちを元の世界には帰す事が出来ないんだ。」
ですよねぇー。
召喚するのに返還する技術不要ですもん。
てか、この後のお話はだいたい読んだラノベに似ていたよくあるお話。
簡単に説明すると
邪神が復活するらしい!
なら、それを倒せる勇者を異世界から召喚するしか無い!
勇者を召喚したぞ!←今ココ
うん、まぁ実にはた迷惑ですよね。
あと、異世界という証拠みたいな感じでステータスを確認出来るのかをクラスの誰かが聞いて実際にステータスを見れました。
僕のステータスは
アリス・モリサキ
職業・未定
性別 『 』
レベル1
専用武具・裁縫具(針、糸、鋏、定規、ペン)
筋力:3
防御力:5
俊敏:37
精神力:12
器用度:10
運:18
スキル
無し
・・・・・・これは酷い。
いやきっと普通だ!
てか裁縫具て。
「皆、ステータスは200は超えているはずだ。スキルも幾つかあるだろう。さらに人それぞれ専用武具か防具がある筈だ。」
・・・いやいや、50もいってないんですけど?
スキルも無いんですけど?
そもそも性別が不明なんですが!?
武具でも無ければ防具でも無い裁縫具なんですが?
「我々に力を貸してほしい!」
王様の名前はフィレンツァと言うそうです。
頭を下げる王様に心を動かされたらしいイケメン君が声を上げる。
こいつ人助けで悦に浸るタイプだとしたら面倒臭いなぁ?
「俺に出来ることなら喜んでやりましょう!世界が滅ぶのを見過ごせません!」
それにクラスの僕を除く全員と先生が頷く。
何でみんな感化されてるんですかねぇ?
「・・・申し訳ありませんが、僕のステータスはもう見るも無惨なので無理です。」
まぁ、そんな団結した空気、速攻壊すんですけどね。
だって戦闘力皆無ですしおすし。
「無惨なのでってどれ位なの?亜璃栖君。」
首をかしげて聞いてくる先生。
それは、まぁとてもとしか?
「じゃあそうですね、勇者、だろう海司君のステータスを教えてください。簡単な比較ができますから。」
イケメン君の名前だったよね?
合ってるよね?
何も言われないから合ってたんだよね?
「俺のステータスか?こんなんだけど。」
と言ってステータスを表示するイケメン君。
レイタ・カイジ
職業・勇者
性別 男
レベル1
専用武具・聖剣エクスカリバー
筋力:1870
防御力:2500
俊敏:1004
魔力:2704
精神力:2012
器用度:978
運:1640
スキル
非公開
ステータスって表示出来るんだね。
僕のステータスの百倍から千倍はありますね。
という訳で僕のステータスもドン。
皆さん困惑されておられますね。
僕も困惑しましたからね仕方ないね。
「これは・・・。」
王様が言いずらそうに顔を逸らす。
まぁ、勇者召喚してこんなステータス持ったお荷物でてこられても困りますよね。
「という訳で僕は勇者の皆様から離脱したいのです。お荷物になりたくありませんから。」
その言葉に王様は少し考えるように天井を眺める。
「誰か、なにか意見はあるか?」
「先生は反対ですよ!?生徒を一人にするなんて!」
あーうん、先生は生徒思いのいい人だからなぁ。
でも、正直な所このクラスにいても僕の立場が悪くなるだけだからなぁ?
それに、さっきから陰で大臣みたいな人が睨んで来ているからなぁ。
この人は厄介なお荷物である僕を捨てたい人だろうか。
「・・・王様、二人、或いは護衛の人を含めた三人で話をしたいのですが。」
言っといてなんだけど通る筈ないよね。
「分かった。騎士団長は残り、その他の者は勇者達のステータスを聞きそれに沿った訓練を提案するように。」
まさか通るとは思わなんだ。
先生が何か言う前にみんなは連れていかれた。
幼馴染みの真奈が何か言ってたようだけどよく聞こえないのでスルーします。
かれこれ暫くまともに話してないしね。
「言っといてなんですけどよかったんですか?」
「何がだ?」
「僕1人との話をです。」
騎士団長が軽く笑う。
「はは、君が希望したことだろう?フィレンツァはこれでも民を思う良い君主だ。」
「ラデルド。いくら友人とはいえ失礼ではないかね?王に向かってそれは。」
「悪い、悪い。ま、お人好しなんだよこいつは。それに、お前さん何か抱えてんだろ?」
騎士団長と王様の仲良さげな会話を聞いていると不意に、騎士団長の鎧越しに見える目が鋭く光った。
「ええ、まぁ。正直にいうと、あまり彼らと行動を共にしたくないんです。」
そう言い、僕は自分の見える範囲の自分を見る。
黒いのに光を反射する髪、男としては細身の身体。
鏡で見れば間違いなく女の子と思うほどに女性的に整った顔立ち。
そう、僕は外見だけはどう見ても女の子に見えるのだ。
「僕、こんな見た目ですけど性別は男なんですよ。それでちょっと気味悪がる人や虐めてくる人がいまして。」
王様は僅かに驚き、騎士団長はへーと言葉をこぼす。
へーって何ですか一体。
「なるほどな、だからお前さんは勇者達と一緒にいたくないと。」
「ええ、それに低過ぎるステータスもイジメの要因になりかねません。なにより、力に溺れた誰かに殺されかねませんし。」
と言うか、これが一番の懸念だったりする。
超人的な力を得たごく一般的な高校生、しかも人を虐げることに悦を感じる奴、は基本ろくな事をしないとだろうしね。
「ふむ、ならこちらからは職の斡旋をしようか?」
王様がそう言った直後。
装飾の施された大きな扉が開かれる。
「話は聞かせてもらったわ。その子は私の所の使用人に貰えないかしら。」
その開かれた扉の前に居た少女に僕は心を奪われた。
騎士団長がため息を付きながら少女を睨む。
「なんで話を聞いてるんだ、エリス。」
「偶然よ、そう、決して扉の前にミーリアスと一緒に張り付いてたりはしないわ。それで、どうなのかしら?国王様?」
王様が頭を抑えながら言う。
「色々問題だが、まぁいつものことだからいいが、使用人どうこうは彼に直接聞きなさい。」
少女が僕の前まで来て声をかける。
「貴方、私に仕えなさい。」
その言葉に僕は
「畏まりました。」
そう、確固たる意志で応えていた。
男の娘、メイド、異世界転移物で書きたかったから書いた。
後悔も何も無い。
追記
イケメン君のステータスで魔力の項目を素で忘れてたので追加しました。
亜璃栖のステータスに無いのは使用です。