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私たちのヴァルキューレ  作者: 紅葉崎もみじ
ヒーローでも、勇者でも・・・
7/27

7話 懇願と拒絶

 千歳についていく事数分、着いたのは近所の公園だった。


 幼少の頃ここで遊んでいた事を思い出す。

 が、すぐに思考の外へ捨てる。

 思い出したところでなんの役にも立たないし、ぶっちゃけどうでもいい事だから。


 時間はまだ4時頃だというのに園内に人影は無かった。

 最近の子供は本当に外で遊ばなくなったようだ。

 私が子供の頃は毎日泥だらけになるまで外にいたのに・・・。

 って、だからどうでもいいって。


 置いてある遊具は滑り台、ジャングルジム、シーソー、砂場、ブランコと平凡な感じ。


 あと公園の真ん中には・・・なんていうかドームに穴が開いて中に入れるようになっている名称不明の遊具が鎮座している。




「とにかく落ち着いて座りましょう」


 千歳はおもむろにそのドームの中に入っていく。


「ええ、そこ入るの・・・?」

「先輩、私と一緒に居るところを見られるのはまずいんじゃない?」

「・・・・。その先輩ってのもやめてくれる。前と同じ感じでいいよ」


 全く敬う気の無い敬語ほど、人をイラつかせるものってないと思う。


 とはいっても、ついツンケンした口調になってしまったが千歳の配慮は正直有難かった。


 確かにグループの人に私が千歳と一緒に居るところを見られたらまずい。

 中核メンバーが千歳をいじめているため、私のいるグループでは千歳に対する好意的な行いは全てご法度になっている。

 実際にそのような明確なルールがある訳ではないが、女子同士の関係ではそのような協調が絶対なのだ。


 私がやっているから、お前もやれ。

 

 簡単に言えばそういうことだ。

 現に何人かのメンバーは中核の女子と一緒に千歳をいじめている。

 私は何とか逃れているが、それならば最低限邪魔するな。となるのが女子の関係だ。


 もし今のこの状況をグループの誰かに見られたら、言い方が大げさだが組織への反逆罪だ・・・。


 中核メンバーからそれ相応の罰が私へと下るだろう。


 ああ、自分自身に自己嫌悪する。


 私は今自分の保身のことのみを考えている。千歳を救うことなど、欠片も考えていない。


 それどころか今の今までいじめを見て見ぬ振りし、千歳の存在さえみてはいなかった。


 でも、仕方ないだろう。

 私に出来ることなどたかが知れている。


 無駄な正義感なんか振り周りたところで、状況を悪化させるだけだ。


 私には何も出来ない。


「そう。じゃあ百花、早く済ませましょう。遅くなるとご家族が心配するでしょう」


「え・・・う、うん」


 だというのに、どうして千歳は私の事を気つかって居るのだろう。


 何も出来ない私を。


 千歳に準じて、遊具の中に入る。

 当たり前だが、幼児用の遊具は高校生が入るには小さすぎて身を屈めないと頭を打ちそうだ。


 が、横幅については十分なスペースがあり私たち2人が入ってもまだ余裕がある。


 私は話しやすいように、しゃがんでいる千歳の前に座る。


「・・・。よく地面に座れるわね」

「え?」

「いえ、地面に直接座るのはなんだか抵抗があるというか・・・」


 ?

 そんなものだろうか?泥の上なら確かに私も嫌だが、少し砂がつくぐらいなら私は気にしないけど。


「まあ、いいわ。人の価値観はそれぞれでしょうし」


 なんか馬鹿にされた気がする。



「何から説明しましょうか・・・」


 口元に手を当て、おそらくこれから話すことを頭の中でまとめているのだろう。


 ・・・悩む姿まで美少女だな。

 妬ましい。

 いや、そうでもないか。


 千歳に対するいじめの原因は、この子の容姿だろう。


 女は妬む生き物だ。

 波風を立たせたくない私でもそうなのだ。自己顕示欲の塊のような自分を飾り彩ることに全力を注いでいる女子からすれば、この美少女はどう見える?


 妬み、憎み、嫉み、そして害を加え、

 そして自分の前から排除しようとするだろう。

 

 一人ではなく、複数の数の力で。

 私も恐れているように、女子のコミュニティの中で多数とは絶対だ。


 どんなことだろうと、数が多ければ正しくなる。

 多いほうが、「数」という力を持った方が正義なのだ。


 これだから女子は怖い。私も女子だけど。


「あのさ。話すことがまとまってないなら私から質問していい?」

「・・・そうね。そのほうが効率的だわ」


 私はまず一番に確認したいことを質問した。


「えっと、昨日のあれは・・・夢じゃない、んだよね?」

「ええ。そう思いたくなる気持ちもわかるけれど」

「あそこって何なの?」

「向こうは地球上のどこかなのか、別の惑星なのか、そもそもこことは違う別の世界なのか私詳しいことは私にも分からないわ」

「・・・・」

「分かっていることは、向こうには敵がいる。そして私たちは戦わなくてはならない」

「ま、待ってよ!」


 話している途中だったのだろうが、私はそれを遮って叫んでいた。


「戦うって、あのロボットで?ふざけないでよっ。なんで私が・・・」

「あなたの意思がどうあれ、戦闘が始まれば私たちは強制的に向こうに送られ戦わされるわ」

「そ、そんな・・・・やめられないの⁉私、戦う気なんて・・・」

「・・・ごめんなさい。戦いから逃れる方法はないわ」

「・・・・っ!」

「私たちは勝ち続けなければいけないの。そのために、あなたに戦う覚悟を持ってほしい」


 何言ってんだよ。


「ふざけんな・・・」


 人の話も聞かずに一方的に・・・!


 私は遊具の中から出る。

 もういやだ。

 これ以上彼女の話なんて聞きたくなかった。


「待って」

「うるさいっ。もうたくさんだ!なんで私が戦わなくちゃいけないのっ!他にもっといくらでも・・・

!」

「あなたにしかできないことなの」

「私にしか・・・?」


 あり得ない。私にできることなんてない。

 私は人の視線と機嫌に怯えて、自分に被害が来ないように立ち振る舞うことしかできないんだ。

 そんな私に戦え?

 無理だ。

 私は・・・。


 私は自分の可愛さにいじめを見て見ぬ振りする人間なのに!


 お願いだから私に期待しないでくれ・・・!




「お願いだから聞いて、これが一番重要な話よ」


 待ってよ・・・お願いだから。

 私に何も背負わせないで。



「もしも向こうの世界で私たちが負ければ」


 やめて。

 やめてよ・・・。








 「この街の人間、はては生物すべてが死滅してしまうの」








 ・・・・・・。

 意味が分からない。

 死滅?

 

「なにそれ・・・」

「詳しくどうなるのかはわからない。でも、少なくともこの街が向こうのように何もいない所になるのよ」


 記憶の中の荒廃した景色がよみがえる。


「お願い,戦って」


 冗談みたいだと笑い飛ばしたかった。

 でも、できなかった。

 冗談でも嘘でもないことを、私は理解していた。

 

 人を見続けた私は分かってしまう。

 千歳のから伝わってきてしまう。


 それは真実だと。



 プロローグ5について、物語が進むにあたって重大な矛盾を発見いたしましたので修正しました。

 ちなみにドーム型の遊具の名称は「プレイドーム」というらしいです。


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