5話 帰還、そして再会
目を開く。
そこには慣れ親しんだ私の自室があった。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・え。
えっと。
これはもしかして、もしかすると。
・・・夢?
そっか夢だったんだ!そりゃそうだよな!あんなありえない状況現実なわけないよなー!
いやー恥ずかしい恥ずかしい!
何が自分の本質だ!何が分相応の人間だ!
あー恥ずかしい!あー恥ずかしい!
中二病か!あ、ロボットに乗る夢見てる時点で中二病か!
あっはっはっはっはーなどと謎のテンションで笑うこと数分(どちらかというとこっちの方が恥ずかしい)、ようやく落ち着いてきた。
それにしてもリアルな夢だったな・・・。夢の内容をこんなに鮮明に覚えてるなんて初めてかも。
ふいに、夢の中での鉄の感触、攻撃の衝撃を思い出す。
あんなにリアルな夢なんてあるか・・・?
い、いや夢だ!夢だったんだ!
しかしそうなると私はいつ寝たのだろう?
制服のままで。
そういえば、ロボットの中でも制服着てたっけ私。ロボット乗ってるんだからパイロットスーツみたいなの着とけよ、詰めの甘い夢だな。
というか、どこからが夢なんだ?
時計を確認するともう夜の11時。いつもならすでに寝ていてもおかしくない時間だった。
学校で授業受けて、放課後寄り道したところまでは覚えてる。
あまりにも頭痛が酷すぎて記憶がとんじゃったのかな?
いやいや、そんな漫画みたいな。
うーん覚えてない間、何してたんだろ自分。
一緒に寄り道してた女子グループの人に変なことしてないよね・・・。
こんなことで心情が悪くなって立場が下がるなんて、笑い話にもならないよ。
ここで頭痛が治まっていることにやっと気付いた。
「あ、頭痛が。やっぱり風邪ってわけでもなかったんだ」
いやー安心安心。と、何気なく頭に手をやろうとしたときに気付く。
「あれ・・・」
私の手には長時間何かを握っていた様な、長時間何かに覆われていた様なあとがくっきり残っていた。
「・・・・・!」
ち、違う。
これは違う。
多分寝てる間に身体の下敷きにして付いたあとだ。
そうだ、そうに決まってる・・・!
・・・寝よう。
そうだ寝てしまおう。
明日になれば嫌なことなんてすぐに忘れるはずだ。
私は制服を脱ぎ、寝巻きに着替える暇も惜しみ下着のまま布団へ入った。
起きたばかりで寝れるかな?
頭の隅でそんなことを考えたが、意識していない部分で疲労が溜まっていたらしい。
私の意識は睡眠という海の中にゆっくりと沈んでいった–––。
結論から言うと、忘れなかった。
いつものようにお母さんに起こされ、朝食の席へ。
「・・・・・」
「どうしたの?もしかして食欲ない?風邪でも引いたのかしら」
席に着いただけで、無言で朝食を眺めていたらお母さんにいらない心配をかけてしまった。
「えっと、お母さん。私、昨日なにしてた?」
「?何って、普通よ」
「私学校から帰ってきた?」
「当たり前じゃない。第一、帰ってなきゃここにいないでしょうが」
「だよね・・・」
「何?まだ寝ぼけてるの?さっさと食べないと遅刻するわよ」
「は、はーい」
私はハムエッグとトーストを押し込むように口に入れる。
少し気持ち悪くなったが、お母さんと話して幾分か気が楽になる。
「いってきまーす」
玄関にお父さんの靴がないからいつも通り私よりも早くに家を出たようだ。
うん。今日も何も変わらない、いつもの日常だ。
学校への道を歩く。
この街は人口5万ほどの片田舎。
小中学校はそれぞれ地方別に5校。高校は共学が二校に男子校、女子高が一校ずつ建っている。
私が通っている女子高は家からほど近く、偏差値もそれほど高くない。
平穏を望む私は気が楽そうだからという理由で高校を決めた。
学校へ着く。
昇降口で上履きに履き替え、教室へ。
その途中、またいつも通りいじめを目撃した。
数人の生徒が1人の女子を取り囲んでいる。加害者側の中には私が所属するグループの中核的メンバーも含まれていた。
この時点で私にはどうすることも出来ない。
といっても加害者が全くの無関係だったとしても私は何もしないだろうが。
周りはそれを見て見ぬ振り。
私もいつもならばそうだった。
しかし、今日は。
いじめを受ける生徒と、夢の中での一方的に攻撃された自分がかさなっていた。
なんだか今日は、目を離せなかった。
しかし、何かするわけではないが。
ここで加害者の1人がいじめられっ子を突き飛ばし、壁に危ない当たり方をした。
おい・・・、一歩間違えば障害事件だぞ。
いじめられっ子は壁を滑るように床に倒れる。
その時、取り囲む加害者からその生徒の容姿がはっきり確認できた。
150センチ弱の小柄な体型で、真っ白な頭髪が印象的な生徒だっだ。
「・・・・・・・・・・・・っ⁉︎」
そんな・・・!
違う、あれは。あれは夢のはずだ。
でも、でもなんで⁉︎
いじめを受けていた女生徒は、夢の中で共にロボットに乗っていた少女–––
–––千歳だった。