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私たちのヴァルキューレ  作者: 紅葉崎もみじ
プロローグ
4/27

4話 暴力の恐怖

 戦え―――?


 言っている意味が分からない。


「これからこれの操作権をあなたに移すわ。特別な技術も必要なく思った通りに動かせるはずよ」


 この少女は何を言っているのだろうか。

 戦う?私が?

 

「敵はすぐに降りてくるわ。あれは素早いけれど目立った特徴はそれだけ。ここのような狭い場所ではまっすぐ飛んでくるしかないわ」

 

 だからなにを・・・・。



「来る」


 困惑している私を完全に無視した千歳が叫ぶ。

 なに私が戦うことを納得した前提で話してんだコイツ–––。


 千歳の言葉通りに岩山の頂にいた虎は壁を駆け下りてきた。

 私達に向けて。


 ま、待ってよ。


 待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って。


 とんでもない速度で壁を走る敵。

 よく見ると細い脚や、小さな顔は虎というよりチーターに近い。

 しかし、口(を模した部位)からはサーベルタイガーのような大きな金属の牙が突き出している。


 パニックを起こしながらも、冷静に分析をする私。

 いつものようにどうすれば荒波が立たないか、どうすれば悪意の対象にならないかを浅ましくも考えていた・・・。


 しかし無駄だ。

 あれは人じゃない。生き物ですらない。感情なんて物もない。

 あれにあるのは組み込まれたプログラム。

 おそらく、私達を問答無用で攻撃するように設定された。


 あれにとってこちらに危害を加える理由は、私がここにいるからで十分なのだ。


 私はいかに自分が悪意の対象にならないようにするかをずっと努力してきた。


 でも、理由のない理屈もない、災害のような悪意にそんな努力は無意味だった。


 時間がゆっくりに感じる。

 目の前に敵が迫ってくる。


 私は–––、


「きゃあっ!」



 確かに、このロボットは私の思う通りに動いた。



 ロボットの腕が動き、頭部を守るために手を前に出した。


 完全に戦う意思のない格好だった。


 悪意の被害者が、抵抗もせずにただ自分の身を守るだけの行為だった。


「何をしているのっ!!!」


 少女の叱咤が飛ぶ。


 しかし、どうしろというのだ。


 わたしはただの女子高生だ。


 戦うなんて無理だ。


 迫り来る敵は、私を吹き飛ばした。


 身体を丸めた純粋な体当たり。


 ここまでの速度がそのまま威力へと変換された一撃はロボットを吹き飛ばし、仰向けに倒された。


「うっ、ゲホッ!ケホッ」


 倒れた衝撃で私の身体が浮き、背もたれに思い切り背中を打ち付けた。

 肺の中の空気を吐き出す。


 敵は手を休めることなく追撃。


 上にのしかかられた。


 敵の大きな牙が、ロボットの肩口へと突き刺さる。


「きゃあぁあっ!!」


 もちろん私に痛みはない。しかし、衝撃はここまで伝わってくる。


 暴力の衝撃が、私へ伝わってくる。


 だめだ・・・!だめだ、だめだ!


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


「早くどかしなさい。起き上がらないと」


 しかし私は動けない。


 無抵抗だとわかった敵はさらなる追撃。


 前脚でこちらを殴りつける。原始的な攻撃だが、この状況では効率的だ。


 何度も殴りつけられる。


 何度も何度も


「いやあぁぁっ!!」


 もう戦意どころか、抵抗する気もなかった。


 ただ、一刻も早くこの暴力が終わってくれるのを願うだけ。


 これが私の本質だった。

 悪意を向けられたとき、反撃も抵抗もせずに早く終わることを長いながらうずくまりただ耐えるだけ。


 この状況では致命的な本質だった。


 ロボットも私の本質を理解したのか、手を固定していた機械がバシュッという音と共に開く。


 手が自由になった私は、本当に顔を手で覆い。うずくまる。


「何しているの。戦いなさい!」


 ああ、これが私だ。


 情けなくなる。


 自分に失望する。


 しかし心の何処かで私の行動に安心する気持ちがあった。


 私は私の思う通りの人間だ。

 困難に相対したときにうずくまるような自分が腑に落ちて、自分が自分に相応しい。


 分相応な人間だと安心する自分がいた。


 何度目かの衝撃のあと外を映す壁にヒビが入る。


「いけない。外の大気が中に入ったら・・・!」


 敵が腕を振り下ろす。

 最後の止めになる腕を振り下ろす。


 そして、


「––––––––––––––––––っ!」


 千歳が何かを叫ぶ。

 どうやら私を呼ぶ単語の様だが、名前ではない。

 何を言ったんだろう?


 よく聞こえない。


 それが最後の思考だった。




 ––– そして世界は暗転する。




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